第12回:自転車――改正道交法が語る“意味”(その1)
自転車VSタクシー、危機一髪

2015.06.01 エッセイ

走り慣れた道でのこと

あれこそ、まさに“危機一髪”の出来事だった。

あの出来事に遭遇したのは2年ほど前、タクシー会社に潜入しての取材がもうすぐ終わろうとしていた日のことだった。
現場は、首都高速道路の高架下、片側3車線の道である。数百メートル先には環状八号線と交わる大きな交差点「環八高速下」があり、そこを右折してから脇道に入れば、あとは目的地まで一直線、という状況で客を乗せて走っていたと思ってもらいたい。そのタクシーの運転手は、もちろん私である。

高架下の道はすいていて、すぐ前方にクルマの姿はなく、あと200mほどまでに迫った環八高速下の信号は青だった。青信号が消えると同時に右折の矢印信号がでるから、そのタイミングで右折。走り慣れた道だけに勝手がよくわかってる。

信号が変わったのは、スピードが時速60kmに上がったのを速度計で確認したのと同時くらいで、それからすぐに右折の矢印信号がでた。交差点まではまだ100mはあって、でも、この矢印信号の表示時間が長いのも知っている。

慌てないでも大丈夫、十分に間に合う。

運転手の判断は間違ってはいなかったが、その直後、まるで予想外の状況が目の前に現れた。右折専用レーンと左折専用レーンを勘定に入れれば片側5車線にもなる大交差点だから、ここで信号無視なんてしたらとんでもなく危ないというのは幼稚園児にでもわかる場所である。ところが……。

高速道路の橋脚(横断歩道直前の道路の真ん中に位置している)の陰から2台の自転車が急に姿を現したと思ったら、赤信号もかまわず横断を始めたのだ。ふたりの男子高校生だった。

えッ!?

びっくりはしたけど、運転手はすぐには急ブレーキをかけていない。信号無視の高校生AとBは交差点に接近するタクシーの姿を確認し、運転手(=矢貫 隆)に視線を向けたからである。慌ててペダルをこぎ、急いでその場を走り横断歩道を渡り切る。高校生AとBの行動を運転手はそう読んだ。

だが違った。ふたりは、自分たちが危機的状況を作り出しているのを理解しているはずなのに、そんな素振りはみじんも見せず悠然と自転車をこいでいる。

「お客さん、すいませんッ!!」

タクシー運転手は叫ぶようにして乗客にわびると同時に全力でブレーキを踏んだ。

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矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。