第314回:独フォルクスワーゲンによる排ガス試験の不正問題に関して

2015.10.05 エッセイ
マルティン・ヴィンターコルン会長の退任を受けて2015年9月25日、マティアス・ミュラー氏が独フォルクスワーゲン取締役会会長に就任した。

独フォルクスワーゲン(VW)が排ガス規制を逃れるために、一部のディーゼルエンジン車に違法ソフトウエアを搭載していたことが判明し、その影響が世界に広がっている。この問題について、モータージャーナリストの河村康彦氏が意見を寄せてくれた。

退任したマルティン・ヴィンターコルン前会長。

“ディフィートストラテジー”の続報がないことを祈る

コトはいまだに現在進行形。それゆえに、臆測に基づいたコメントを発することは厳に慎みたいと思う。

そうはいっても、すでにVWはアメリカで指摘をされた不正を認め、それを受けるカタチでマルティン・ヴィンターコルン会長が2015年9月23日に辞意を表明するに至っている。すなわち、「VWが、アメリカでの排ガス試験に『計測時のみ浄化性能を向上させる』という“裏プログラム”で臨むという許されざることを行った」という事実は、もう疑いナシということだ。

一体どうして、そうしたリスクある行為におよんだのか? 果たして社内の上層部は、どのレベルの人までがそうした不正を知っていたのか? ……といったことは、時間の経過とともにいずれ明らかになっていくだろう。

が、そうした事情がどうあれ現時点で明確に言えることは、「VWは絶対に許されざる、自動車業界にとどまらないさまざまな企業の不祥事の中にあっても、歴史上で最大級の過ちを犯してしまった」ということだ。

そこでは、基準値を最大40倍上回ったと報じられるNOx(窒素酸化物)は、「大気汚染の原因物質ではあるものの、直接的に人体に強い影響を及ぼす“毒ガス”成分ではない」とか、「世界一厳しいアメリカの排ガス規制の対応には、実はどのメーカーも苦慮している」といった話題は一切関係がない。また、試験モードを外れた“オフサイクル”時になると、VW車に限らず大方のモデルで排ガス濃度が増加する、といった話題も、取りあえずは「脇に置いておいていいハナシ」だ。

ここでの問題の本質は、「試験時だけシステム制御を変更することで、規制値のパスを図る」という裏工作が行われたことに尽きる。それを行わないと規制値がクリアできず、しかしそんな制御を用いる場面では燃費や動力性能が低下する、というのであれば、実は発表されているネンピや加速の能力もインチキという、“2重の不正”が行われていたことにもなる。

いわば、“お受験”の際に、解答が記されている教科書を教室へと持ち込んでカンニングを行ったにも等しいVWが手を染めた行為は、“リコール隠し”などこれまで発覚してきた不祥事よりはるかに悪質。なぜならば、他の事例はいずれも「過失」がその発端にあったのに対して、今回のVWの事象は、明確に「故意」からスタートしているからだ。

時間を追うごとにすでに拡大の一途をたどっているが、今回の問題でVWが負うマイナスの影響は計り知れない。コトはアメリカ市場やディーゼル車だけにとどまるはずはなく、全世界の市場に、しかも相当な長期にわたって影響を及ぼすことは確実だ。

これまでは、トヨタと並ぶ世界の2強メーカーと認識をされてきたが、あるいはこの問題はその経営基盤にまで致命的な影響を与えることになってしまうかもしれない。

が、残念ながらそこに同情をする気持ちには少しもなれない。なぜならば、そのすべては“自らまいた種”によるものであるからだ。

一方で、大いに同情したくなるのは、そんな不正とは全く関係のないところで、まじめに技術の開発に取り組んできた、他メーカーも含む多くの技術者たちに対してだ。そして、そんな思いは自動車業界に携わる人に対してのみにとどまらない。それは恐らく、「今回のような不正は自動車のみならず、他の製造業でも同様に行われているのではないか?」と、多くの人に疑心暗鬼の気持ちを与えてしまったに違いないからだ。

個人的には今でも「ゴルフ」や「ポロ」が、そのクラスにあってライバルを圧倒する際立って高い仕上がりレベルを備えたモデルという思いに変わりはないし、筆者はそのような内容をあちこちのメディアでも報告してきた。

だが、それは当然「販売される商品は、各市場の規制にミートしていること」が前提となる。ここを欺かれてしまっては、それは何の意味も持たない空虚な絵空事になってしまう。

現時点では、恐らくは燃費や動力性能を向上させることを目的に、試験モードを外れると排ガスの浄化システムを無効化させる“ディフィートストラテジー”と呼ばれるこうした裏工作が、「他のブランドでも行われていた」といった悲しい続報が届かないことを願うばかり。

万に一つでも、さらにそうした不正を働いたメーカーがあるとすれば、それはVWと同様、自身が進もうとする先に深いいばらの道が待つのみならず、世界の自動車業界の信用に決定的なダメージを与え、同業、そして他業種を含む産業のすべての技術者と、何よりもそんなブランドを信じてきたユーザーに対して、重大な背信行為を犯したことになるからだ。

(文=河村康彦)

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