理数系のスポーツカー
カッコは好きずきだが、新型のボディーで明らかに進歩したのは、視界のよさである。ダッシュボードの標高が下がり、前方の路面を低い運転席からでも見下ろせる感じになった。ダッシュボードが高くて、要塞(ようさい)から外をのぞくようだった初代TTの前方視界とは別物である。ドアミラーまわりの視界も改善され、コンパクトなボディーを正味でコンパクトに感じられるようになったのがうれしい。
弱点は乗り心地だ。磁性体でダンピングを瞬速コントロールするマグネティックライドがTTSクーペには標準装備されるが、荒れた舗装路では245/40R18の「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が、ややドタバタする。ほかのあらゆる点が洗練されているだけに気になる。800万円近い高級スポーツクーペなら、乗り心地にもう少ししっとりした落ち着きが欲しい。
試乗日は朝から雨模様だった。なのに、ワイパースイッチに一度も触っていないことに気づいたのは、だいぶ走ってからである。ヘタな雨滴感知式だと、降っているのに動かないようなこともあるが、このワイパーのAUTOモードは完璧に仕事をする。
高速道路のトンネルに入ったら、警告音が鳴り、「ライトをつけてください」というメッセージが出た。こっちはAUTOモードにしていなかったのだ。わかってるならつけろよ! と思ってしまったが。
バーチャルコックピットでは、音もなくナビマップがスクロールしている。げに自動運転遠からじ、なんて言っても通じない、いかにもアウディらしい理数系スポーツカーである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/取材協力=河口湖ステラシアター)
新型「TT」のフロントまわりは、エッジの効いたシングルフレームグリルやシャープなデザインのLED式ヘッドランプが特徴。これまでグリル内にあったフォーシルバーリングスのエンブレムは、ボンネット上に移された。
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バックドアの後端にはリアスポイラーが備わる。ボタンで手動操作するか、車速が120km/hに達すると立ち上がる。
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車体右側のリアに備わる、アルミニウム製のフィラーキャップ。初代「TT」をイメージしてデザインされたディテールだ。
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