第16戦アメリカGP「ヒーローと並んだ喜び」【F1 2015 続報】

2015.10.26 自動車ニュース
メルセデスのルイス・ハミルトンが波乱のアメリカGPを制し、2年連続、3度目のチャンピオンに輝いた。(Photo=Mercedes)
メルセデスのルイス・ハミルトンが波乱のアメリカGPを制し、2年連続、3度目のチャンピオンに輝いた。(Photo=Mercedes)

【F1 2015 続報】第16戦アメリカGP「ヒーローと並んだ喜び」

2015年10月25日、アメリカはテキサス州オースティンにあるサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われた、F1世界選手権第16戦アメリカGP。史上最大級のハリケーンの影響でセッション中止が相次いだ波乱含みの週末は、メルセデスのルイス・ハミルトンの2年連続、3度目のタイトル獲得で幕を閉じた。

優勝したハミルトン(右から2番目)、2位に終わったハミルトンのチームメイト、ニコ・ロズベルグ(一番左)、3位に入ったフェラーリのセバスチャン・ベッテル(一番右)。(Photo=Mercedes)
優勝したハミルトン(右から2番目)、2位に終わったハミルトンのチームメイト、ニコ・ロズベルグ(一番左)、3位に入ったフェラーリのセバスチャン・ベッテル(一番右)。(Photo=Mercedes)
スタート直後、サーキット・オブ・ジ・アメリカズの特徴的なターン1でトップを奪ったハミルトン(写真手前右)。その横を走るポールシッターのロズベルグはターン進入でハミルトンと接触、はじき出されるようにコースを外れ、5位まで後退した。(Photo=Mercedes)
スタート直後、サーキット・オブ・ジ・アメリカズの特徴的なターン1でトップを奪ったハミルトン(写真手前右)。その横を走るポールシッターのロズベルグはターン進入でハミルトンと接触、はじき出されるようにコースを外れ、5位まで後退した。(Photo=Mercedes)

■F1とアメリカの新たな時代

近年、世界随一の自動車市場を持ちモータースポーツも盛んなアメリカで、なかなか根を張れずにいたF1だったが、2012年にテキサスに新設されたサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(通称COTA)でアメリカGPが復活したことで、F1とアメリカの関係は好転の兆しを見せ始めている。

その流れに乗って、来シーズンからは久しぶりにアメリカ国籍のF1チームが出場する。その名は「ハースF1」。アメリカで人気のストックカーレース、NASCARでタイトルを獲得したスチュワート・ハース・レーシングの共同オーナーであるジーン・ハースを中心とした新興GPチームの誕生である。

1960年代から70年代にかけて、スカラブやイーグル、パーネリ、ペンスキーといったアメリカをベースとするチーム/コンストラクターがF1に参戦していた時期があったが、いずれもこれといった成績を残すことなく姿を消していた。また2010年には、「USF1」というアメリカ発のF1チーム出場が計画されていたが、資金難で破綻していた。

“オール・アメリカン”を意識したこれら先達(せんだつ)と比べると、ハースF1は“極めて現実的なアプローチ”でF1に挑もうとしている。アメリカ東部ノースカロライナ州カナポリスを本拠地としながら、その実は、F1のホームであるヨーロッパとのコネクションを巧みに組み合わせた「米欧連合」ともいうべき組織で戦いに臨む。
かつてマルシャが使っていた英国バンブリーの工場を前線基地とし、パワーユニットや前後サスペンションなど主要パーツは、戦略的パートナーシップを結ぶフェラーリから供給を受ける。マラネロにある風洞施設を(カスタマーとして)利用するなど、その密接な関係から一部では「フェラーリBチーム」とやゆされることも。先ごろニューヨーク証券取引所に上場したばかりのフェラーリにとってアメリカは最重要市場であり、両者の思惑は一致しているのである。

さらにマシン開発には、同じくイタリアのレーシングカーコンストラクター、ダラーラが関与する。ここまでくると「F1チーム(コンストラクター)=製造者といえるのか?」という疑いも出てきそうだが、あくまでマシンをつくるのはハースF1自体だと、オーナーのハースは正当性を主張する。

ロメ・グロジャンがロータスを離れ、ハースF1のステアリングを握ることが決まっている。もうひとりは未発表だが、もしアメリカ人が乗るとなれば、かの地での注目は一気に高まることだろう。
今年で4回目のCOTAでのF1。マノー・マルシャからは、カリフォルニア生まれのアレキサンダー・ロッシがGPデビューを飾った。F1とアメリカの関係は、少しずつ、着実に、新たな時代へと向かっている。

レース終盤、前を走るロズベルグがコースオフしたことでトップの座が転がり込んできたハミルトン。ロズベルグ、ベッテルを従えてそのままチェッカードフラッグを受け、最良のかたちで2連覇、3度目の戴冠を迎えた。タイトル獲得3回は、イギリス人ドライバーとしてはジャッキー・スチュワート以来42年ぶり、2人目の快挙。さらに勝利数ではセバスチャン・ベッテルを抜き歴代単独3位に上がった。(Photo=Mercedes)
レース終盤、前を走るロズベルグがコースオフしたことでトップの座が転がり込んできたハミルトン。ロズベルグ、ベッテルを従えてそのままチェッカードフラッグを受け、最良のかたちで2連覇、3度目の戴冠を迎えた。タイトル獲得3回は、イギリス人ドライバーとしてはジャッキー・スチュワート以来42年ぶり、2人目の快挙。さらに勝利数ではセバスチャン・ベッテルを抜き歴代単独3位に上がった。(Photo=Mercedes)

■大荒れのタイトル決定戦は、予選・決勝同日開催に

前戦ロシアGPでメルセデスが2年連続のコンストラクターズチャンピオンを決めていたが、残るドライバーズチャンピオン争いもいよいよ佳境を迎えていた。
とはいえルイス・ハミルトンの2連覇達成はもはや時間の問題といってよく、ハミルトンはランキング2位セバスチャン・ベッテルより9点、ランキング3位のニコ・ロズベルグより2点多いポイントを獲得すれば自身にとっての2連覇、3度目の戴冠が決まることになっていた。

そんなタイトル決定戦は、メキシコに上陸した史上最大級のハリケーン「パトリシア」の影響もあり悪天候に見舞われた。金曜日最初のフリー走行は雨で行われたものの2回目は荒天で中止。翌土曜日も雨の中辛うじて3回目のプラクティスが実施されるも、午後の予選は何度かの時間調整の末に延期となり、2013年オーストラリアGP以来となる予選・決勝同日開催という慌ただしいスケジュールを余儀なくされた。

日曜日の朝に予選がスタート。雨はやんでおらず、時間の経過とともにコンディションが悪化したことで最後のQ3セッションはキャンセルされ、Q2までの結果でグリッドが決まった。ポールポジションは3戦連続でロズベルグ、予選2位はハミルトンとメルセデスがフロントロー独占。続いて3位ダニエル・リカルド、4位ダニール・クビアトとレッドブルが2列目、5位セルジオ・ペレス、6位ニコ・ヒュルケンベルグとフォースインディアが3列目にそれぞれ並んだ。
ウィリアムズのフェリッペ・マッサが7番手、マックス・フェルスタッペンのトロロッソ8番手ときて、マクラーレンのフェルナンド・アロンソが今季予選最高位9番手となり、チームメイトのジェンソン・バトン11番手とともに好位置につけた。トップ10の最後のポジションには、ロータスのグロジャンがおさまった。

なおフェラーリの2台はパワーユニット交換でグリッド降格のペナルティーを受け、セバスチャン・ベッテル13番グリッド、キミ・ライコネン18番グリッドと後方からのスタートとなった。

スタートでハミルトンに押し出された格好でコースオフ、「ルイスはアグレッシブ過ぎた」と語ったロズベルグ。しかし彼はレース終盤までトップにいながら、自らのドライビングミスで2位に甘んじる結果となったのだからハミルトンを責めることもできない。そのエラーについては「理解できない」と硬い表情でコメント。(Photo=Mercedes)
スタートでハミルトンに押し出された格好でコースオフ、「ルイスはアグレッシブ過ぎた」と語ったロズベルグ。しかし彼はレース終盤までトップにいながら、自らのドライビングミスで2位に甘んじる結果となったのだからハミルトンを責めることもできない。そのエラーについては「理解できない」と硬い表情でコメント。(Photo=Mercedes)

■波乱のレース、3つの局面

決勝の時間が近づくとようやく雨も上がり、全車浅溝のインターミディエイトタイヤを履き56周のレースに旅立つことになった。
バーチャル・セーフティーカー(VSC)と本物のセーフティーカーがそれぞれ2回ずつ入ることになる波乱のレースは、大きく3つの局面に分けられた。

まずはウエットからドライへと路面状況が変わる中、レッドブルが善戦した序盤戦である。
急坂を駆け上がるCOTAの名物ターン1をトップで抜けたのは、蹴り出しのよかったハミルトン。ロズベルグはチームメイトとタイヤを接触させはじき出されるようにコースを外れ5番手に落ち、2位クビアト、3位リカルドのレッドブル勢に先行を許した。

接触が相次ぎマシンの破片が散らばっていたため、5周目から8周目までVSCの指示が出された。レースが再開すると、4位だったロズベルグがレッドブル勢に襲いかかり一気に2位まで挽回。しかし、ウエットとドライの混在する微妙なコンディションではレッドブルに一日の長があった。

程なくしてリカルドがロズベルグを抜き返し2位に。そして次なる照準をトップのハミルトンに合わせ、15周目には王者から1位の座を奪ってしまった。リカルドは16周で2秒、17周で4秒と逃げにかかり、その後方ではハミルトン、ロズベルグにクビアトを加えての2位争いが白熱した。

だがこの頃になると各車がドライタイヤへとスイッチし始める。タイヤ交換後の上位陣は、1位リカルド、2位ロズベルグ、3位クビアト、4位ハミルトン、そして5位にはベッテルが追い上げてきていた。

パワーユニット交換のペナルティーで13番グリッドからスタートしたフェラーリのベッテル(手前)。スタートで早くもポイント圏内に入り、ピットストップ作戦で3位まで挽回したのはさすがだったが、ハミルトンのタイトル獲得に待ったをかけられなかったためか、セレモニーに臨む間、いつもの笑顔は見られなかった。(Photo=Ferrari)
パワーユニット交換のペナルティーで13番グリッドからスタートしたフェラーリのベッテル(手前)。スタートで早くもポイント圏内に入り、ピットストップ作戦で3位まで挽回したのはさすがだったが、ハミルトンのタイトル獲得に待ったをかけられなかったためか、セレモニーに臨む間、いつもの笑顔は見られなかった。(Photo=Ferrari)

■ドライになると、メルセデスが真の実力を発揮

コースがドライになると、チャンピオンチームが真の実力を発揮する第2の局面に突入。22周目にはロズベルグがリカルドを抜き首位奪還、ハミルトンも3位、2位と駒を進め、スタート前のメルセデス1-2体制に戻った。

ちょうどレースの折り返しとなる28周目、ザウバーのマーカス・エリクソンがコース上に止まったことで(本物の)セーフティーカーが入った。この間に1位ロズベルグ、2位ハミルトン、3位リカルド、4位クビアトのトップ4はピットに入らず、一方でベッテルはタイヤをミディアムに履き替え5位、各陣営が作戦を分けてきた。

33周目に再スタートが切られると、ベッテルがターン1でクビアトを抜き4位に。続いてリカルドにも仕掛け、翌周には表彰台圏内の3位までポジションアップを果たした。この時点でフェラーリのタイヤ交換作戦は吉と出ていたが、前を走るメルセデス勢は、タイヤのコンパウンドの違いもあってか、ベッテルより1秒も速かった。

37周目、リカルドとヒュルケンベルグが接触し、フォースインディアがストップしたことでこの日2度目のVSC。ロズベルグ、クビアト、リカルドらがタイヤ交換に踏み切る一方、ハミルトンはコースにとどまり続けた。

40周目にレースが再開されると、1位ハミルトン、2位ベッテル、3位フェルスタッペン、4位ロズベルグというオーダーとなっていたが、フレッシュなソフトタイヤを履くロズベルグは瞬く間に2位まで上昇。43周目にクビアトが単独でスピン、クラッシュして再びセーフティーカーが出動すると、遅れてタイヤ交換に入ったハミルトンに代わり、ロズベルグが1位に返り咲いたのだった。

マクラーレン・ホンダは2台そろって入賞圏内を走っていたが、結果ポイントを得たのは7位でゴール、前車のペナルティーで6位となったジェンソン・バトン(写真)のみ。フェルナンド・アロンソはレース終盤まで5位を走るも、パワーロスに見舞われズルズルと後退、11位完走となった。(Photo=McLaren)
マクラーレン・ホンダは2台そろって入賞圏内を走っていたが、結果ポイントを得たのは7位でゴール、前車のペナルティーで6位となったジェンソン・バトン(写真)のみ。フェルナンド・アロンソはレース終盤まで5位を走るも、パワーロスに見舞われズルズルと後退、11位完走となった。(Photo=McLaren)

■ハミルトン、セナと並ぶ3度目の戴冠

47周目になり、1位ロズベルグ、2位ハミルトン、3位フェルスタッペン、4位ベッテルという隊列で残り10周のファイナルバトルがスタート。この順位のままでは、ハミルトンのタイトル決定は次戦以降に持ち越しとなるはずだった。

このレースの第3の局面、すなわちハミルトンのタイトル決定のシーンは、実にあっけなく訪れた。
48周目、先頭のロズベルグが自らのミスでマシンの挙動を乱し、コースをはみ出している間にハミルトンがトップに踊り出た。これで1位ハミルトン、2位ロズベルグ、3位ベッテルとなり、ハミルトン戴冠の条件がそろった。
ベッテルが2位でゴールすればそれを阻止できたが、必死に追いかける跳ね馬を含め、そのポジションのままチェッカードフラッグが振られたのだった。

感極まったハミルトンは、ポディウムの最上段にのぼり、三たび頂点を極めた幸福感と、重いプレッシャーに打ち勝った自信と安堵(あんど)、そしてここまで自分を導いてくれた、多くのひとたちへの感謝の気持ちがない交ぜになったような表情を浮かべていた。

ハミルトンは、イギリス人として初めて2連覇を達成したドライバーになるとともに、2008年にマクラーレンで勝ち取った最初のタイトルを含め、3度目の戴冠を決めた。
ワールドタイトルを3回以上獲得したドライバーは、ミハエル・シューマッハーの7回を筆頭に、F1黎明(れいめい)期の伝説的ドライバー、ファン・マヌエル・ファンジオ(5回)やアラン・プロスト(4回)、母国の大先輩ジャッキー・スチュワート(3回)、今ではメルセデスの非常勤会長を務めるニキ・ラウダ(3回)などそうそうたる面々が名を連ねている。この“エリート・クラブ”に新たに加わったハミルトンにとっては、「子供の頃にインスパイアされたのは彼だった」と語るヒーロー、アイルトン・セナと同じ記録に並んだことが何よりも大きかったとレース後にコメントしている。

今季のハミルトンは、昨シーズン後半から続いている安定感がさらに増し、また昨年ロズベルグに7勝12敗で負け越していた予選でも速さを発揮。16戦を終えて10勝、ポールポジションは11回を数えるに至り、既にいずれでも最多を誇る。直近の4戦では予選P1から遠ざかっていても3勝と、予選、決勝ともに非の打ち所がない状態だ。

一方同じ最速マシンで戦うロズベルグは、歯車がかみ合わないシーズンを送っている。年間勝利数は、昨年の5回に対して現時点で3回にとどまっており、トラブルによる不運もあったがエラーによる自滅もなくなっていない。残る3戦で、4点差でランキング2位につけるベッテルを蹴落とすぐらいの気概を見せてほしいところである。

次戦は23年ぶりに復活するメキシコGP。決勝は11月1日に行われる。

(文=bg)

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