次世代の公共交通機関「EVバス」の実力は?

2011.08.30 自動車ニュース
デザインこそ斬新だが、フロントから見るEVバスはあまり通常のバスと変わりなく見える。サイズも通常の路線バスとほぼ同じだ。
サイドから見ると独特の姿形を持っていることが明らか。なにより前4輪、後4輪の計8輪の小径タイヤが普通のバスでないことを物語る。すべてのホイールにモーターが内蔵される。つまり8輪駆動。
EVバスが公道を走行。近未来の公共交通機関の実力は?

EVバスが公道を走行。次世代の公共交通機関の実力は?

バッテリーとモーターで動く電動バス、すなわち「EVバス」が実用化へ向けて本格的に走り出した。2011年8月23日に行われた、一般ユーザーを対象とした試乗会に参加し、その出来を確かめた。

ハンドル操作ではフロントの2輪が動き、旋回する。タイヤはEVバス専用に開発された、直径72cmのブリヂストンECOPIA。この奥にモーターが入っている。
EVバスが公道を走行。近未来の公共交通機関の実力は?

■近未来を体験した

今回試乗したEVバスは、さまざまな機関、企業、団体が協力し合って推進してきたプロジェクトだ。中心となって動いたのは慶応大学・清水浩教授の研究室。2009年に環境省からの委託事業としてスタート、神奈川県からもバックアップを受け、神奈川県バス協会の賛同も得た。そして2011年4月の報道発表会で概要が発表され、それから約4カ月、一般市民を対象とした試乗会が実施されたのである。

試乗会参加者は神奈川県民を対象に抽選で選ばれる。EVバスの進化をこの目で確かめたい私は、ネットで情報をつかむやさっそく申し込み、運良く参加資格をゲットした。参加者は試乗モニターとして印象や意見を述べなければならないが、望むところである。そして試乗会当日、神奈川県の小田急湘南台駅〜慶応大学湘南藤沢キャンパス入口までの限られたコースであったが、既存の路線バスに置き換わるであろう近未来の公共交通機関の乗り味を存分に体験したのであった。

非常口は後端中央に設けた。通常のバスはここにエンジンがあるが、EVではそれがないために可能なのだ。後2輪はスパッツで覆われるため特徴あるスタイルを演出している。
非常口は後端中央に設けた。通常のバスはここにエンジンがあるが、EVではそれがないために可能なのだ。後2輪はスパッツで覆われるため特徴あるスタイルを演出している。
EVバスはフラットな床が後方まで続く。座席下に段差があるのはケーブルや補機類を収納するためだそうだ。
EVバスはフラットな床が後方まで続く。座席下に段差があるのはケーブルや補機類を収納するためだそうだ。
前輪後ろ側のタイヤが作るコブ。2カ所に開閉可能な蓋が見えるが、ここからモーターなどをメンテナンスするのだろう。筆者はこの真後ろの席に座ったが、足元の窮屈さは感じなかった。
前輪後ろ側のタイヤが作るコブ。2カ所に開閉可能な蓋が見えるが、ここからモーターなどをメンテナンスするのだろう。筆者はこの真後ろの席に座ったが、足元の窮屈さは感じなかった。

■駆動装置はどこにある?

車両自体は慶応大学発のベンチャー企業「SIM-Drive」が担い、EVに必要なすべての主要部品をはしご型シャシーに収める同社得意の「コンポーネント・ビルトイン式フレーム」を採用。その基本設計をベースに車体をいすゞ自動車が、電池を東芝が、タイヤをブリヂストンが、それぞれ製作・供給した。
新世代のバスとしてアピールするためにボディはアルミ製。しかも素材はアルミバスボディにたけたヨーロッパから輸入した。デザインもいすゞ・デザイン陣が総力を結集して練り上げた。東芝製電池はリチウムイオンの一種で「SCiB」と呼ばれる、安全性、長寿命、急速充電性に優れるもの。東芝が車載向けに本格参入するための切り札を投入する。タイヤはバス用としては例がない72cm径の小径・低転がり抵抗タイヤを専用開発している。

「SIM-Drive」製フレームは、実績のある8輪のものを使用した。このコンパクトなフレームの利点を生かし、EVバスを特徴づけているのが「低床フルフラット」だ。バスの低床化は今や一般的だが、EVバスは室内全域にわたって床が低い。前から後ろまで床面の段差はほとんどないといっていいほどで、車内に張り出しているのは8輪分のホイールハウス程度。8輪ゆえ張り出すコブは多いが、小径タイヤなのでコブは通常より小さく、シート下にうまく収まっている。

ではモーターは? バッテリーはどこに積んでいるの? という疑問がわき上がる。これも同フレームの利点なのだが、モーターはタイヤの内側にコンパクトに内蔵する「インホイールモーター」を採用しているので、車体側にモーター用のスペースは不要なのだ。バッテリーの格納も絶妙で、シャシーの中央、すなわち床下の中央部分を前端から後端まで、わずか20cmほどの床の厚さの中に収めているのだ。EVバスの場合、バッテリーはかなりの重量になるが、車体の前後方向に分散させられるのでバランスのよい重量配分を実現することができる。ひいては旋回時の安定性も上がることになる。
こうして実現した全面低床構造は、特に高齢者が車内を移動する際にきわめて優しい。もちろん乗降車時はエアサスペンションが車高を下げて、路面との距離をさらに縮めてくれる。

非常口の両側にはエアコンユニットが積まれる。通常は屋根の上に乗るが、重心が下がるだけでなく、見かけ上もスマートだ。ただしこの日の印象ではちょっとエアコンの利きが悪かった。
非常口の両側にはエアコンユニットが積まれる。通常は屋根の上に乗るが、重心が下がるだけでなく、見かけ上もスマートだ。ただしこの日の印象ではちょっとエアコンの利きが悪かった。
湘南台の街中を走るEVバス。これが普通の光景になる日はもうすぐ?
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■普及すればいい世の中になる(と思う)

さて、肝心の乗ってどうだったかという部分に入ろう。まず基本的な運行に支障はなく、乗り心地などもエンジンを搭載した路線バスに比して不満は特になかった。しかしもちろんこれは試作車。試乗当日は設計・製作側にとっても想定外の事態が起きたり、われわれ一般参加者が首をかしげる部分もあった。特に発進時の振動や、走行中にあちこちから発される音は「EVだから静かだろう」というイメージには及ばないものだった。

しかしまだ試作1号車の初走行で、問題点を声高に語るのはフェアではない。むしろ、排ガスゼロ、外部への騒音も低く、エネルギーも同サイズのディーゼルバスの4分の1しか消費しない次世代交通機関がこうして出来上がったこと、それ自体を声を大にして伝えたい。これまで理想とされてきた環境性能は、机上のものではなく、すでに目の前にあるのだ。
節電が叫ばれるいま、EVはどうなのかという議論もある。これに対しては、夜間電力を使って充電すれば現在の電力事情に与える影響はほとんどなく、また夜間に充電すれば1kmあたり8円という経済性もついてくる。ちなみに、200Vプラグを差しこみ一晩充電するだけで、翌日の標準的な路線バス運行が可能という。

この日それぞれが感じた問題点はすべての参加者がアンケートに記入した。製作側としてはこのアンケートをもとにさらに改良を加えていくという。まさしく乗る人の側に立った意見こそ重要と考えているからだろう。一般のバスユーザーの不満点や要望を満たさなければEVバスの成功はない。それらが次回の試乗会でどれだけ消化され進化を見せているか、大いに楽しみである。
ただし、最後にこれだけは伝えたい。実力の片りんを見たこの日の試乗は、EVバスの成功は間違いないと思わせるものだったということを。

(文と写真=尾澤英彦)

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