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ロールス・ロイス・ドーン(FR/8AT)

惑星の支配者 2017.11.13 試乗記 ロールス・ロイスがラインナップする豪華絢爛(けんらん)なドロップヘッドクーペ「ドーン」。全長は5.3m、エンジンは12気筒ツインターボという巨艦でオープンエアを味わうというのは、いったいどのような行為なのか? 類例のないその体験を報告する。

無駄なクルマはつくらない

ドーンで、ドーンと乗りつけてやりましょう! とほった君が電話の向こうで言った。いいですねぇ。私はそう笑って答えた。

「ベイビー・ロールス」と呼ばれたわりにはさほど小さくもなかった小型ロールス・ロイスである「ゴースト」の2ドアクーペである「レイス」のオープン版というべきモデルが、ドーンである。4ドアセダンからワゴン、クーペ、そしてコンヴァーティブルへと派生モデルを次々と生み出していくのがBMWのビジネス手法で、それをロールス・ロイスにも転用しているわけである。いまのところワゴンは出ていないけれど、いずれ「カリナン」という、すでに名前が公表されている「ファントム」ベースの砂漠のロールス・ロイスが登場する。

ただし、ロールス・ロイスは昨年過去2番目の販売を記録したものの、年産は約4000台。仮にカリナンがすべての上得意客をつかんだとしても、グッドウッド工場を拡張中とはいえ、いきなりこれまでの倍にはできないだろうから、せいぜい年産5000台といったところか。つまり、フェラーリよりはるかに少ない。オーダーメイドを徹底させて無駄なクルマはつくらない。顧客ひとりひとりに合わせてお好みのカラーやモディファイを施すことには、それはものすごく面倒な作業であろうけれど、もちろんメリットもある。超富裕層の携帯の番号とEメールのアドレスがたやすく手に入るのだ。

そこからどんなビジネスが展開されるのか? おそらく、ロールス・ロイスを100台、ホテルの送迎用にド~ンと注文してもらったり……というようなことは先方から電話があるとして、こちらから連絡するのはやっぱりBMWグループに対する投資のお話でしょうか、まったくの想像ながら。

フロントを飾る“スピリット・オブ・エクスタシー”のマスコットと「RR」のバッジ。「ドーン」は今日のロールス・ロイスにおける第4のモデルとして、2015年9月に発表された。
フロントを飾る“スピリット・オブ・エクスタシー”のマスコットと「RR」のバッジ。「ドーン」は今日のロールス・ロイスにおける第4のモデルとして、2015年9月に発表された。拡大
インテリアの仕様は、購入者のお好みにより、いかようにもオーダーが可能。テスト車のインテリアもビスポークで仕立てられており、フロアにはラムウールのフットマットが敷かれていた。
インテリアの仕様は、購入者のお好みにより、いかようにもオーダーが可能。テスト車のインテリアもビスポークで仕立てられており、フロアにはラムウールのフットマットが敷かれていた。拡大
ドアには他のロールス・ロイスと同じく、前が開く“コーチドア”を採用。前席ではバックレスト上部にシートベルト収納機構が装備されており、後席へのアクセス性はもちろん、煩雑な見た目を廃することでデザイン性にも寄与している。
ドアには他のロールス・ロイスと同じく、前が開く“コーチドア”を採用。前席ではバックレスト上部にシートベルト収納機構が装備されており、後席へのアクセス性はもちろん、煩雑な見た目を廃することでデザイン性にも寄与している。拡大
ソフトトップについてはクローズド時の機密性、遮音性はもちろん、骨格が浮き上がってフォルムを台無しにしないようデザインにも配慮。50km/h以下であれば走行中でも開閉が可能となっている。
ソフトトップについてはクローズド時の機密性、遮音性はもちろん、骨格が浮き上がってフォルムを台無しにしないようデザインにも配慮。50km/h以下であれば走行中でも開閉が可能となっている。拡大
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あまりのカッコよさに、感動する

で、ドーン。日本における正式発表は2016年1月。そこから注文を取り始めて、ようやく今年日本に上陸したわけだけれど、それより半年前だかに東京・千鳥ヶ淵にある英国大使館で撮影禁止のお披露目会があった。筆者はたまたまその会に参加し、ブラックの外装にオレンジ内装という斬新なカラーリングをまとったドーンのカッコよさに感動した。あまりにカッコいいので、だれかに伝えたいと思って、超カッコいいです、という手紙をSさんに書いた。Sさんはディーラーからカタログをもらっていて、すでに注文もしておられた。納車の日をとても楽しみにしておられたのだけれど、そのステアリングを握ることなく、旅立たれてしまった。月日のたつのは早いものである。合掌。

そのドーンに乗れる、というのは感慨深いものがある。スケジュールの関係で試乗日当日未明、筆者は東から昇る太陽を拝みながら、ほった君たちに合流すべく、東京へと中古ルノーを走らせた。秋もあけぼの、いとをかし。ドーン(dawn)とは英語で、「夜明け」「あけぼの」という意味である。その昔、第2次大戦後まもなくの1949年から55年まで、「シルヴァードーン」という、ちょっと小ぶりなロールス・ロイスがつくられた。シルヴァードーンには50年から54年の間、わずか28台のみが生産された4シーターのコンヴァーティブルがあり、21世紀のドーンはここから着想を得ているとされる。

鮮やかな、ティファニーの包み紙みたいにステキなカラーリングのドーンに乗り込んで、筆者が第一にしたこと。ルーフを開けるスイッチを探して、オープンにする、であった。ファブリックの巨大なホロ屋根が、文字通り無音で開く。空が現れる。後席にはほった君が座っている。いうまでもなく、「もてないカーマニアの超新星」と清水草一さんに発見・命名された、あのほった君である。

「ドーン」は2ドアクーペ「レイス」をベースしたオープントップモデルだが、そのボディーパネルは、実に80%が同車専用の形状となっている。
「ドーン」は2ドアクーペ「レイス」をベースしたオープントップモデルだが、そのボディーパネルは、実に80%が同車専用の形状となっている。拡大
「ドーン」のセンタークラスターの様子。イグニッションをオンにすると木目のフタが開き、インフォテインメントシステムのモニターが現れる。
「ドーン」のセンタークラスターの様子。イグニッションをオンにすると木目のフタが開き、インフォテインメントシステムのモニターが現れる。拡大
センターコンソールに備わるインフォテインメントシステムの操作パネル。タッチパッド付きのロータリーコントローラーには“スピリット・オブ・エクスタシー”の姿が。
センターコンソールに備わるインフォテインメントシステムの操作パネル。タッチパッド付きのロータリーコントローラーには“スピリット・オブ・エクスタシー”の姿が。拡大
ソフトトップを収納する、巨大な馬蹄形のパネル。グッドウッドの木材職人が手がけたというウッドパネルと、ステンレス製のフィニッシャーが用いられている。
ソフトトップを収納する、巨大な馬蹄形のパネル。グッドウッドの木材職人が手がけたというウッドパネルと、ステンレス製のフィニッシャーが用いられている。拡大

すべての席で味わえる極上のオープンエア

一般に4シーターオープンの後席は風の巻き込みが甚だしくて乗っていられない。長い髪の女性だったら、もう髪の毛が空を飛ぶ竜のように踊っちゃってたいへんだ。ほった君は坊主頭なのでその点、安心である。とはいえ、なにぶん秋も深まった某日早朝のことで、気温はそこそこ低い。凍え死ぬことはないにしても、ほった君が風邪をひいちゃったりしたら申し訳ない。と、原稿には書きつつ、事実としてはそのまま首都高速に上がる。

中央フリーウェイ。右に見える競馬場、左はビール工場。まるで滑走路みたいになってくると、郊外ゆえ気温が下がる。やがて標高が上がる。気温は下がる。しかるにドーンには後席にもシートヒーターが付いていて、それゆえ快適で、ほった君は眠くなってきたという。話しかけても返事がない。山小屋だったら、「寝たら死ぬぞ」と揺り動かすところだけれど、運転しているのでそうもいかない。ルームミラーで確認すると、後席に沈み込んでホントに気持ちよさそうに寝ている。

運転席の私は、開放感とちょっぴりの寒さと、まわりの勤労者たちに対して、自分だけこんないい思いをさせてもらって……という後ろめたさみたいな気持ち少々とがないまぜになりながら、極楽気分を味わっている。両サイドのガラスは前後共に下げていても、法定速度程度で巡航している限り、風はそよそよと過ぎ去るのみである。

そのうち、山はしろがね、で始まる童謡をふと口ずさんでいる自分に気づく。はて、私はなぜ、ドーンをドライブしながら、この歌がうたいたくなったのか? はるか前方に日本アルプスが見えているからだろうか。それとも、朝日を浴びているからか。すべるスキーの風切る速さ。ああ、そうだったのだ。このクルマはスキーなのだ。

フロントのパルテノングリルや長大なボンネットなどにより、ひと目でロールス・ロイスとわかるエクステリア。同時にバンパーの厚みを増したり、グリルを奥まった位置に配したりと、各部に細かな調整を加えることで、ドロップヘッドクーペとして最適化されたスタイリングを実現している。
フロントのパルテノングリルや長大なボンネットなどにより、ひと目でロールス・ロイスとわかるエクステリア。同時にバンパーの厚みを増したり、グリルを奥まった位置に配したりと、各部に細かな調整を加えることで、ドロップヘッドクーペとして最適化されたスタイリングを実現している。拡大
インテリアは、Aピラーから始まる左右のサイドパネルとリアバルクヘッドが“一続き”となった「スリングショット・フォルム」が特徴。イタリアの小舟「バルケッタ」を思わせるデザインとなっている。
インテリアは、Aピラーから始まる左右のサイドパネルとリアバルクヘッドが“一続き”となった「スリングショット・フォルム」が特徴。イタリアの小舟「バルケッタ」を思わせるデザインとなっている。拡大
左右の後席を分断するセンターコンソールには、後席用の空調が設けられている。
左右の後席を分断するセンターコンソールには、後席用の空調が設けられている。拡大
16個のスピーカーからなるビスポークオーディオの後席用スピーカー。マイクによって車内のノイズをモニタリングし、常に最適な状態となるよう音量と音質を調整する機能が搭載されている。
16個のスピーカーからなるビスポークオーディオの後席用スピーカー。マイクによって車内のノイズをモニタリングし、常に最適な状態となるよう音量と音質を調整する機能が搭載されている。拡大

パワープラントの存在を忘れる

6.6リッターV12ツインターボは粛々と回って、その存在をまったく意識させない。意識させずに、あちらの世界から手品のようにこんこんと湧き出るトルクをこちらの世界に持ってくる。フラットアウトにして回転が高まると、タコメーターがないので、それが何回転なのか定かではないけれど、かなり上のほうでクオーンという快音がごく控えめに聞こえてくる。にしても、ものすごく静かで振動がなくて、機械感が薄い。

駆動系もまた極めてスムーズで、21インチという巨大なタイヤ&ホイールを回転させているとは到底思えない。ホイールベースは3110mmもある。4人しか乗れないのに、なんてぜいたくなんだ。という感慨はまた別の話として、ここで申し上げたいのはオリジナル・ミニの全長ほどもあるプロペラシャフトがぐるぐる回ってリアのデファレンシャルへとトルクを伝達しているはずなのに、それがまるでないかのように感じることだ。

黒子の6.6リッターV12直噴ツインターボは最高出力570ps/5250rpm、最大トルク820Nm/1600-4750rpmという、軽自動車およそ10台分の途方もないエネルギーを生み出す。でもって、極めてスムーズな駆動系がそれを路面へと伝える。

乗り心地は高速道路上だと、雪の上を滑るスキーのごとし。地球の重力だけで滑走している。そんな錯覚を抱かせる。ある意味、大変罪深いことながら、このクルマはつまり、山ごと、地球ごと抱えて走っている。たとえ登りだろうと、無動力で下りっているみたいに加速する。

エンジンは現行型「ゴースト」から導入された6.6リッターV12ツインターボ。「レイス」では632psの最高出力を発生するが、「ドーン」のものは最高出力570psと、やや“控えめ”なチューニングとなっている。
エンジンは現行型「ゴースト」から導入された6.6リッターV12ツインターボ。「レイス」では632psの最高出力を発生するが、「ドーン」のものは最高出力570psと、やや“控えめ”なチューニングとなっている。拡大
メーターは古式ゆかしいアナログの3眼式。中央は速度計、右は水温計と燃料計、左は“POWER RESERVE %”という文字のとおり、エンジン回転計ではなくパワーメーターとなっている。
メーターは古式ゆかしいアナログの3眼式。中央は速度計、右は水温計と燃料計、左は“POWER RESERVE %”という文字のとおり、エンジン回転計ではなくパワーメーターとなっている。拡大
テスト車に装着されていた21インチの7スポークアルミホイール。タイヤには「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が装着されていた。
テスト車に装着されていた21インチの7スポークアルミホイール。タイヤには「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」が装着されていた。拡大
足まわりには新開発のエアサスペンションとアクティブスタビライザーが装備されており、「魔法の絨毯(じゅうたん)のような乗り心地」と「非常にキビキビとしたハンドリング特性」(プレス資料より)を同時に実現している。
足まわりには新開発のエアサスペンションとアクティブスタビライザーが装備されており、「魔法の絨毯(じゅうたん)のような乗り心地」と「非常にキビキビとしたハンドリング特性」(プレス資料より)を同時に実現している。拡大

現実に戻る瞬間

高速道路上では大きさを意識しない。全長は5mを楽々と超える5295mm。全幅は1945mmと2mに迫る。車重は2640kgとスーパーヘヴィー級だ。掛け値なしに重い。掛け値なしに重いから、最初のひと踏みでは若干の抵抗を感じる。そこから先は、ライク・ア・ローリング・ストーン。

巨大な質量ゆえ、制動はゆるやかである。強く踏めば利くかもしれないけれど、強く踏みたいという衝動がわかない。惑星を操縦しているひとが、急ブレーキをかけるか。否である。ドーンは大自然、山ひとつ、地球まるごと移動している感覚を味わわせてくれるのである。大量のウッドパネルで囲まれているのはだてではない。大自然とともに移動する私は地球の支配者である。

駐車時には一転して、巨大戦艦を意識させられて現実に戻る。ギアをリバースに入れると、バーチャルでつくられた上から目線の画像がダッシュパネルのスクリーンに映し出されるから、簡単そうに思えるのだけれど、その画像と自分の感覚が一致しない。なんだか迷宮に入り込んだような気分になる。なんせ地球を、駐車場の枠内におさめようというのだから無理なんである。

ドーンを注文された方にアドバイスさせていただくとしたら、このことです。広い駐車場をご用意された方がいいです。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

車両重量が2.5tを優に超える「ドーン」だが、パワフルなV12エンジンの搭載により、0-100km/h加速は4.9秒という動力性能も実現している。
車両重量が2.5tを優に超える「ドーン」だが、パワフルなV12エンジンの搭載により、0-100km/h加速は4.9秒という動力性能も実現している。拡大
各所にあしらわれたウッドパネルには、バイオリンなどに見られるブックマッチ加工(はぎ合わせ)が用いられており、車両の中心線を軸に左右対称のデザインとなっている。
各所にあしらわれたウッドパネルには、バイオリンなどに見られるブックマッチ加工(はぎ合わせ)が用いられており、車両の中心線を軸に左右対称のデザインとなっている。拡大
丸みを帯びたリアエンドのフォルムが特徴的な「ドーン」の“後ろ姿”。今回試乗した標準モデルに加え、スポーティーな仕様の「ブラックバッジ」もラインナップされている。
丸みを帯びたリアエンドのフォルムが特徴的な「ドーン」の“後ろ姿”。今回試乗した標準モデルに加え、スポーティーな仕様の「ブラックバッジ」もラインナップされている。拡大

テスト車のデータ

ロールス・ロイス・ドーン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5295×1945×1500mm
ホイールベース:3110mm
車重:2640kg
駆動方式:FR
エンジン:6.6リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:570ps(420kW)/5500rpm
最大トルク:820Nm(83.6kgm)/1600-4750rpm
タイヤ:(前)255/45R21 102Y XL/(後)285/35R21 105Y XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:3740万円/テスト車=4699万4000円
オプション装備:ボディカラー/上部2トーン/シングルコーチライン/21インチ 7本スポーク・パート・ポリッシュド・ホイール/ボディー同色ホイール・センター/アップ・ライト・スピリット・オブ・エクスタシー/ビスポーク・インテリア<モジュール・エディティング>/ブルー シーシェル2トーン・ステアリング・ホイール/全席RRモノグラム付きヘッドレスト/コントラスト・ステッチ/フル・カナデル・パネリング/トレッドプレート“Dawn”/ラムウール・フットマット/ロールス・ロイス・ビスポーク・オーディオ/日本仕様ドライバー・アシスタンス/コミッションド・コレクション・アンブレラ

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1716km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:268.7km
使用燃料:43.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)
 

ロールス・ロイス・ドーン
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