最終戦アブダビGP「ベッテル、悲願のラストピース」【F1 2010 続報】

2010.11.15 自動車ニュース
セバスチャン・ベッテル(中央)、最終戦を圧勝し逆転チャンピオンに。2位に入った2008年の王者、ルイス・ハミルトン(左)、3位でフィニッシュした2009年チャンプのジェンソン・バトン(右)に祝福された。(写真=Red Bull Racing)
最終戦アブダビGP「ベッテル、悲願のラストピース」【F1 2010 続報】

【F1 2010 続報】最終戦アブダビGP「ベッテル、悲願のラストピース」

2010年11月14日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第19戦アブダビGP。チャンピオンの座をかけた4人による熾烈(しれつ)な争奪戦の結末は、守りに転じたものが敗れ、攻勢をかけ続けたものに女神がほほ笑んだ。

レース序盤まではタイトルにもっとも近い男だったフェルナンド・アロンソ(写真前)。4位走行中、背後のウェバー(写真後ろ)の動向を意識し過ぎ、ウェバーとあわせて行った早めのタイヤ交換が凶と出てしまった。ミッドフィールダーのトラフィックのなかに埋もれ、7位でゴール。3度目の栄冠まであと3つポジションが足りなかった。(写真=Ferrari)
レース序盤まではタイトルにもっとも近い男だったフェルナンド・アロンソ(写真前)。4位走行中、背後のウェバー(写真後ろ)の動向を意識し過ぎ、ウェバーとあわせて行った早めのタイヤ交換が凶と出てしまった。ミッドフィールダーのトラフィックのなかに埋もれ、7位でゴール。3度目の栄冠まであと3つポジションが足りなかった。(写真=Ferrari)
ベッテルは、今年10回ものポールポジションを獲得しながら、今年5回“しか”勝てなかった。マシントラブルや自らのミスで取りこぼしたポイントも多く、ドライバーとしての資質を問われる場面もあったが、シーズン終盤の巻き返しは見事なもの。最後の5戦で3勝し、最終戦で15点差をひっくり返し悲願の初タイトルを奪った。ちなみにベッテルがチャンピオンシップをリードしたのは、第6戦モナコでマーク・ウェバーと同点で並んだことはあったものの、単独首位は最終戦の1度だけである。(写真=Red Bull Racing)
ベッテルは、今年10回ものポールポジションを獲得しながら、今年5回“しか”勝てなかった。マシントラブルや自らのミスで取りこぼしたポイントも多く、ドライバーとしての資質を問われる場面もあったが、シーズン終盤の巻き返しは見事なもの。最後の5戦で3勝し、最終戦で15点差をひっくり返し悲願の初タイトルを奪った。ちなみにベッテルがチャンピオンシップをリードしたのは、第6戦モナコでマーク・ウェバーと同点で並んだことはあったものの、単独首位は最終戦の1度だけである。(写真=Red Bull Racing)

■優勢アロンソの敗因

2010年シーズンは、最終戦にチャンピオン候補者が4人も残ったという“ビンテージイヤー”となった。

各ドライバーのタイトル獲得への条件は、
1位 フェルナンド・アロンソ(246点):2位以内
2位 マーク・ウェバー(238点):優勝+アロンソ3位以下
3位 セバスチャン・ベッテル(231点):優勝+アロンソ5位以下
4位 ルイス・ハミルトン(222点):優勝+アロンソ11位以下、ウェバー6位以下、ベッテル3位以下
と、ウェバー以下は他者頼みの部分が大きく、下馬評ではアロンソ優位との声が多く聞かれた。

実際、最終戦にきて復調してきたマクラーレンという伏兵があらわれても、スタートでジェンソン・バトンに抜かれても、ポールシッターのベッテルがハイペースで先頭をひた走っていたとしても、レース序盤の4位というポジションと、ランキング2位のウェバーを背後に従えているという状況は、アロンソに3度目のタイトルを約束してくれていた。

このレースにおけるアロンソとフェラーリの敗因は、ライバルの動向に惑わされ、しかも後手にまわってしまったことにあるだろう。
背後の5位を走るウェバーは、最低限アロンソを抜かなければタイトルを奪えないが、抜くどころかまったくペースが上がらない。その理由をグリップを失ったタイヤに見出したレッドブル勢は、55周レースの12周目にウェバーをピットへ呼び、ソフトからハードタイヤに交換した。上位勢はみなソフトタイヤでスタートしており、いち早くハードに替え形勢逆転を狙ったのだ。

これをみたフェラーリは、14周目にアロンソの真後ろを走るフェリッペ・マッサのタイヤを交換。その翌周、ウェバーがファステストラップを更新するやいなや、ソフトを履く4位アロンソも慌ててピットへ駆け込みハードを装着した。

アロンソはウェバーの前でコースに復帰することができた。ここまでは成功と言えたが、その前方には、さらに手強い、タイトル争いとは無関係の相手が待ち構えていた。
スタート直後、スピンしたミハエル・シューマッハーのメルセデスに、ビタントニオ・リウッツィのフォースインディアが乗り上げ、セーフティカーが導入された。この間にタイヤを替えたニコ・ロズベルグ、ビタリー・ペトロフ、ハイメ・アルグエルスアリら一群が、チャンピオン候補者のアロンソ、ウェバーの前に立ちはだかったのだ。

アロンソは、Fダクトで直線スピードが速いルノーのペトロフを抜けず、いら立ちを募らせていた。本当の敵は後ろで周回を重ねるウェバーではなく、優勝を目指しトップを走るベッテルの方だと気づいたときには、既に遅きに失していた。
55周を終え、7番目にチェッカードフラッグを受けたアロンソ。タイトル獲得には、あと3つポジションが足らなかった。状況を読み切れなかった、フェラーリの作戦負けだった。

シーズン終盤、ベッテルの後塵(こうじん)を拝してきたウェバー。第14戦イタリアGP以来、レースでベッテルの前を走ることはなかった。今回も予選で5位と出遅れ、決勝では早めのピットストップが裏目に出て8位。初タイトルをひとまわり近く若いチームメイトに奪われた。(写真=Red Bull Racing)
最終戦アブダビGP「ベッテル、悲願のラストピース」【F1 2010 続報】

■勢いに乗り切れなかったウェバー

速いことは誰もが認めていたウェバーにとって、2010年は強さを身につけた年だった。第5戦スペイン、第6戦モナコと連勝しポイントリーダーとなり、その後その座を失うこともあったが、第14戦イタリアで再びトップスコアラーに返り咲くと、続くシンガポール、日本でもトップをキープし続けた。

だが、シーズン後半に勝負の主導権を握っていたのは、チームメイトのベッテルの方だった。ウェバーは第12戦ハンガリーで4勝目を記して以来、表彰台の頂点にのぼることはなく、第17戦韓国では致命的なミスでノーポイント、ランキングも2位に落ちた。

ポイント的にはベッテルより有利な立場にいた最終戦アブダビでも、ベッテルが今季10回目のポールポジションを獲得した傍らで、同じマシンで0.5秒以上差をつけられ予選5位に甘んじた。
レースでは前を走る宿敵アロンソに勝負を挑めず、レース序盤にはウォールに軽くヒット、ホイールから火花を散らすシーンもみられた。早めのタイヤ交換もトラフィックにつかまり失敗、結果8位でゴール。今年もっとも精彩を欠いたと言っていいレースだった。

「タイトルまでこれだけ近づいていたんだ。タイトルを失いさまざまな感情もわいてくるというものだよ。最善を尽くしたし、すばらしい仲間とやれるところまでやったけど、最終的に十分じゃなかった、ということだ」
34歳、長身のオーストラリア人は、来年もレッドブルで頂点を目指すことを誓った。

ポイントリーダーから24点差、タイトル獲得には「奇跡が必要」と認めていたハミルトン(写真)は、速さを取り戻したマクラーレンを駆り善戦。予選2位からベッテルを追い、2位で最終戦を終えた。ジェンソン・バトンも4番グリッドから3位表彰台。マクラーレンはコンストラクターズ選手権で2位を獲得した。(写真=McLaren)
最終戦アブダビGP「ベッテル、悲願のラストピース」【F1 2010 続報】

■マクラーレン&ハミルトン、最後まで手を抜かず

チャンピオンへの条件がもっとも厳しかったハミルトンは、逆にプレッシャーなく走ることができ、優勝したベッテルに次ぐ2位でレースを終えた。

シーズン終盤にレッドブル、フェラーリの後塵(こうじん)を拝することが多かったマクラーレンは、可能性がある限り手を抜くことはせず、「MP4-25」はアブダビで見違えるような速さを取り戻していた。予選でハミルトン2位、バトン4位と好位置につけると、ハミルトンはトップのベッテルを追い、バトンは早々にアロンソをオーバーテイクし3位にアップしていた。

バトンは40周目までタイヤ交換を遅らせ、それまで暫定首位を力走。ハミルトンも一時はベッテルを1秒以内にまで追いつめ、来シーズンに弾みをつけるリザルトを残した。

最後まで諦めなかった常勝チーム。2011年も同じペアで、王座奪還をもくろむ。

数々の最年少記録を樹立してきたベッテルにとっては、初タイトルも最年少レコード。23歳134日目で、これまでのレコードホルダーだったハミルトンを抜いた。写真は左から、レッドブルのモータースポーツコンサルタントでベッテルの“信奉者”であるヘルムート・マルコ、ベッテル、最強マシン「RB6」をつくりだしたデザイナー、エイドリアン・ニューウェイ、そして“最年少チーム代表”であるクリスチャン・ホーナー。(写真=Red Bull Racing)
数々の最年少記録を樹立してきたベッテルにとっては、初タイトルも最年少レコード。23歳134日目で、これまでのレコードホルダーだったハミルトンを抜いた。写真は左から、レッドブルのモータースポーツコンサルタントでベッテルの“信奉者”であるヘルムート・マルコ、ベッテル、最強マシン「RB6」をつくりだしたデザイナー、エイドリアン・ニューウェイ、そして“最年少チーム代表”であるクリスチャン・ホーナー。(写真=Red Bull Racing)
アロンソの先行を許さなかったビタリー・ペトロフ(写真)。もっとも効率よくFダクトを後付けできたチーム、ルノーのマシンで奮闘し、6位でフィニッシュした。ロバート・クビサは、タイヤ交換を引き延ばすことで5位入賞。予選でチームメイトに負けたが、レースで挽回(ばんかい)した。(写真=Renault)
アロンソの先行を許さなかったビタリー・ペトロフ(写真)。もっとも効率よくFダクトを後付けできたチーム、ルノーのマシンで奮闘し、6位でフィニッシュした。ロバート・クビサは、タイヤ交換を引き延ばすことで5位入賞。予選でチームメイトに負けたが、レースで挽回(ばんかい)した。(写真=Renault)
小林可夢偉の最終戦は、予選12位、レースではピットストップのタイミングを遅らせ一時4位を走行したが、タイヤ交換後に順位を挽回できず、14位に終わった。フル参戦1年目で年間入賞回数は8回、チャンピオンシップ12位。チームメイトをしのぎ、ザウバーをけん引するポジションにまで成長した。来季も同じスイスのチームでさらに上を目指す。(写真=Sauber)
小林可夢偉の最終戦は、予選12位、レースではピットストップのタイミングを遅らせ一時4位を走行したが、タイヤ交換後に順位を挽回できず、14位に終わった。フル参戦1年目で年間入賞回数は8回、チャンピオンシップ12位。チームメイトをしのぎ、ザウバーをけん引するポジションにまで成長した。来季も同じスイスのチームでさらに上を目指す。(写真=Sauber)

■攻勢こそ最大の勝因、ベッテル

2010年のベッテルほど、多くのマシントラブルに泣きながらチャンピオンになったドライバーはいないのではないだろうか。

開幕戦バーレーンでは1位快走中にスパークプラグの問題で失速、結果4位。続くオーストラリアでもトップを走りながらホイールトラブルでリタイアを喫した。第5戦スペインでは2位走行中にブレーキに違和感を覚え3位フィニッシュ。そして第17戦韓国では、優勝とチャンピオンシップリードを目前にエンジンブローで戦列を去った。

また、ドライバーの資質を問われるようなシーンもあった。第7戦トルコでは先頭を走るチームメイトに激突するショッキングな事故を起こし、このとき生じたレッドブル内の緊張感は、シーズン中消えることはなかった。また第12戦ハンガリーでは、セーフティカーラン中のミスでペナルティを受けトップから3位に脱落。続くベルギーでもクラッシュを演じた。

だが、多くの最年少記録を持つこのドライバーは、このままでは終わらなかった。第14戦イタリアで、エンジントラブルをリカバーする戦略をとり4位。続くシンガポールで2位に入ると、レッドブル必勝のコースといわれていた鈴鹿サーキットで圧勝。復活ののろしをあげた矢先の韓国で致命的なエンジンブローに見舞われるも、絶対に諦めないという姿勢でブラジルでも勝利した。

最終戦でも、特等席のポールポジションから危なげなく走りきり完勝。チャンピオンシップで常に先行されていたチームメイトのウェバーどころかアロンソまでも飛び越し、悲願の栄冠を自ら手繰り寄せることに成功した。

アブダビのレース前、「もしレースをリードしていて、ウェバーが2位、アロンソが3位の場合、ウェバーのタイトルのために順位を譲ることはあるのか?」という質問が彼に投げかけられた。ベッテルは多くを語ろうとはしなかったが、それはドライバーとしてのエゴや意地が邪魔したというよりも、自分の仕事に集中しようとする考えの表れだったのではないだろうか。

最初から優勝を譲ることを考えるより、優勝できるようプランを練ること、そして実行することが重要だ。そのことを、策におぼれたライバルたちは思い知ったはずである。

2007年シーズンの第7戦アメリカ、欠場したロバート・クビサの代役としてBMWザウバーからGPデビュー。当時19歳のベッテルは、いきなり8位入賞を果たし最年少入賞記録を更新した。
以来、最年少ラップリーダー、最年少ポールポジション、最年少表彰台、最年少優勝、最年少ポール・トゥ・ウィンと数々の“ヤンゲスト・レコード”を樹立していったベッテルは、最後まで攻め続けた結果、最年少ワールドチャンピオンという一番大切なラストピースを手に入れることに成功した。

表彰台の頂点で、世界の頂点を感じる23歳の目には、涙がにじんでいた。そして、8カ月、19レースの長いシーズンは幕を閉じた。

(文=bg)

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