パワーとエコを両立、AMGの新エンジン詳報

2010.06.16 自動車ニュース

メルセデス・ベンツの最新エンジンに見る、環境とパフォーマンスの両立(後編)

パフォーマンスと高効率性の両立図る、AMGの最新エンジン技術

2010年3月に、ドイツ・アファルターバッハで「TecDay AMG Performance 2015」が開かれた。この場で発表されたAMGの新世代エンジンを、モータージャーナリスト島下泰久が解説する。

5.5リッターツインターボの新エンジンが搭載される「S63AMG」。
5.5リッターツインターボの新エンジンが搭載される「S63AMG」。
組み合わされるトランスミッション「AMGスピードシフトMCT-7」。アイドリングスタート/ストップ機構、3つの走行プログラムなどを備える。
組み合わされるトランスミッション「AMGスピードシフトMCT-7」。アイドリングスタート/ストップ機構、3つの走行プログラムなどを備える。

■人目を気にする(?)ドライバーのため

高効率化、簡単に言えば燃費向上とCO2排出量低減という流れはメルセデス・ベンツだけのものではない。実はAMGも同様に、その方向性を推し進めつつある。「ハイパフォーマンス性こそがセリングポイントのAMGで?」と考えると違和感があるかもしれないが、社会的地位の高い、あるいは周囲の目に敏感な人が乗っている確率が高い車種だと考えれば、むしろこの分野に積極的でも不思議ではないだろう。

現行の「63AMG」シリーズに搭載されているM156型の後継と目される新しいエンジンの形式名は、M157型。M156型のV型8気筒6.2リッター自然吸気に対して、V型8気筒5.5リッター直噴ツインターボという構成を採る。直噴+過給器の採用による排気量縮小という方向性は、メルセデス・ベンツのV型8気筒と同様である。

その正確な排気量は5461cc。ボア×ストロークは98.0mm×90.5mmで、実はこの数値自体はメルセデス・ベンツの現行V型8気筒5.5リッターと共通だ。一方、ボアピッチは106mmで、これは新型V型8気筒4.7リッター直噴ツインターボと同じ。アルミ合金製ブロックに“Silitec”と呼ばれるアルミ−シリコン合金製ライナーを鋳込む構造も同様のもの。スプレーガイデッド式ピエゾインジェクターを用いた直噴システムを含むヘッドまわりなども含めて見るに、AMGの新しいエンジンはメルセデスのそれと非常に近い関係にあるエンジンだと言っても間違いではなさそうだ。

■数字もフィーリングも

もちろん単なるメルセデス用エンジンの排気量アップ版であるはずが無い。AMGユニットではクランクシャフトは鍛造ハイグレードスチール製だしコンロッドも鍛造。軽量なピストンには表面がメタル加工されている。そもそもシリンダーブロック自体も、寸法の基本部分こそ共通化されているが、設計自体は別物だという。これにギャレット社製のターボチャージャーを2基搭載。圧縮比は直噴の効果で、10.0と高めに設定されている。

結果としてスペックは最高出力544ps/5500rpm、最大トルク81.6kgm/2000-4500rpmという、きわめて強力なものとなった。現行「SL63AMG」用ユニットと比較すると、最高出力は19ps、最大トルクは実に17.3kgmもの大幅増となる。

また、目を見張るのが7250rpmというレブリミットの設定だ。現行63AMGユニットは、スペックだけでなく大排気量高回転型ならではの迫力あるフィーリングを自慢としていたが、新エンジンもそれに負けない気持ち良さを実現しているのでは、という期待が高まる。「63AMG」ユニットをプロデュースしたAMGは、もはや数値性能の大小だけではユーザーを満足させられないと知っているのだ。

一方で燃費の向上も著しい。このエンジンを搭載する新型S63AMGの欧州NEDCモード燃費は10.5リッター/100km(約9.52km/リッター)と、現行より約25%も改善されている。CO2排出量は246g/km。パフォーマンスを考えれば文句をつける余地は無いだろう。

この好燃費にはアイドリングストップシステムの貢献度も大きいのは間違いない。また、トランスミッションも果たしている役割は大きそうだ。というのも、このM157型エンジンには、「SL63AMG」などでおなじみのAMGスピードシフトMCT-7が組み合わされるのである。いくつも用意されるモードのうち燃費を重視した「C」モードではアイドリングストップが機能し、また2速発進となる。

スノーテストを重ねる「S63AMG」と、擬装が施された「S63AMGクーペ」。
スノーテストを重ねる「S63AMG」と、擬装が施された「S63AMGクーペ」。

パワーとエコを両立、AMGの新エンジン詳報の画像

■A/BクラスにもAMG!?

パフォーマンスと高効率性をこれほどのレベルで両立させていれば、もう満足していい……とは、AMGは考えないようだ。実はこのM157型エンジンには、さらにハイパフォーマンスパッケージも用意されており、こちらのスペックは最高出力571ps/5500rpm、最大トルク91.8kgm/2500-3650rpmというあきれるほどの数値で彩られている。普段使いでどこまで違いが分かるのかは微妙だが、しかしそれを欲する人がいるのだろう、AMGには。

「S63AMG」、それと噂ではCL改め「S63AMGクーペ」と呼ばれることになるらしい2台にまずは搭載されて、ヨーロッパでは8月より販売がスタートするという。一方でAMGには依然としてV型12気筒が用意されているが、これについては少なくとも当面はまだ進化の予定は無いようだ。「ニーズがある限りつくり続ける」とは言うが、さてどうなるか。

一方、逆によりコンパクトなAMGについては可能性が探られている段階のようである。現状もっとも小さいのは「Cクラス」。それより小さいとなると「A/Bクラス」、おそらくその次期型となるのだろうが、そこでAMGが果たして何を見せてくれるのか。このあたりも含めて、こんな時代になっても、否こんな時代だからこそなおのこと、AMGは今後も我々をさまざまなかたちで楽しませてくれそうだ。

(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ日本)

この記事の大きな画像を見るためには、画像ギャラリーをご覧ください。