メルセデスの最新エンジン技術を解説

2010.06.15 自動車ニュース
メルセデス・ベンツの新ユニット、M278型4.7リッターV8ツインターボエンジン。
メルセデス・ベンツの最新エンジンに見る、環境とパフォーマンスの両立(前編)

多気筒エンジン効率化のカギは? メルセデス・ベンツのエンジン戦略

ディーゼルモデルに小排気量ターボ、ハイブリッドなど、一連の「ブルーエフィシェンシー」モデルを増強するメルセデス・ベンツ。しかし一方では、多気筒エンジンの高効率化も進めている。これから先、メルセデスのエンジンはどうなっていくのか? その思想を、2010年5月にドイツ・シュトゥットガルトで開かれた「Mercedes-Benz TecDay」で確かめた。

V8エンジンの効率化の変遷を、最大トルクをキーに確認する。オレンジの線は排気量(1リッター)あたりのトルクを、赤い線はトルク1Nmあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示している。
V8エンジンの効率化の変遷を、最大トルクをキーに確認する。オレンジの線は排気量(1リッター)あたりのトルクを、赤い線はトルク1Nmあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示している。
こちらは最高出力をキーにしたグラフ。水色の線は排気量(1リッター)あたりの馬力を、紺色の線は1psあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示す。出力に関しては、ここ10年ほどで約1.4倍にもなっていることがわかる。
こちらは最高出力をキーにしたグラフ。水色の線は排気量(1リッター)あたりの馬力を、紺色の線は1psあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示す。出力に関しては、ここ10年ほどで約1.4倍にもなっていることがわかる。

■V8、V6もダウンサイジング

「Eクラス」に続いて「Mクラス」にも搭載されたクリーンディーゼル“ブルーテック”やハイブリッドなど、矢継ぎ早に環境対応パワートレインを投入しているメルセデス・ベンツだが、今後の展開の一番の肝となるのは、主力であるガソリンエンジンの高効率化だろう。

その先駆けが、昨年「E250 CGI ブルーエフィシェンシー」に搭載されて日本に導入された“CGI”ユニットだが、続いてメルセデス・ベンツは、V型8気筒&6気筒のマルチシリンダーガソリンエンジンでも同様の手法による高効率化を進めていく。すなわち直噴+ターボチャージャーというテクノロジーによるダウンサイジングだ。

まずはV型8気筒から見ていこう。M278型と呼ばれる新エンジンの排気量は4663cc。現行のM273型は5461ccだから、約2割の排気量縮小となる。当然、それだけでは性能ダウンとなるので、各バンク1基ずつ計2基のターボチャージャーが組み合わされる。特筆すべきは10.5という圧縮比。これは自然吸気のM273型と変わらない数値である。

高圧縮比を可能にしたのが最新の直噴システムだ。第3世代のスプレーガイデッド式システムは、噴射圧180barのピエゾインジェクターを採用。状況に応じて、最初に約95%の燃料を噴射し、残りを燃焼安定化のために時間差で噴射する“Homogeneous Split(HSP)”と呼ばれる燃焼モードを採用しているのが特徴だ。

燃費向上のためには、他にもさまざまな手段がとられている。各部のフリクション低減、高効率オイルポンプや温度管理システムの採用のほか、アイドリングストップシステムも組み合わされる。

スペックは最高出力435ps/5250rpm、最大トルク71.4kgm/1800-3500rpm。現行5.5リッターの388ps、54.0kgmをはるかに上回るが、一方で燃費は最大約22%向上しているという。Sクラスに積んだ場合、欧州NEDCモード燃費は9.3リッター/100km(約10.8km/リッター)で、CO2排出量は218g/km。最高出力445psの「レクサスLS600h」や、同449psの「BMWアクティブハイブリッド7」の219g/kmを下回る。つまり複雑な制御系も電気モーターも専用のバッテリーも必要とすることなく、ハイブリッドのライバルと同等の動力性能、そして高効率性を実現してみせているのだ。

バンク角60度の新3.5リッターV6エンジン「M276」。
バンク角60度の新3.5リッターV6エンジン「M276」。
V6エンジンの進化を表すグラフ。水色の線は排気量(1リッター)あたりの馬力を、紺色の線は1psあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示しており、燃費に関しては50年前の4分の1にまでなっていることがうかがえる。
V6エンジンの進化を表すグラフ。水色の線は排気量(1リッター)あたりの馬力を、紺色の線は1psあたりの燃費(100kmあたりの燃料使用量)を示しており、燃費に関しては50年前の4分の1にまでなっていることがうかがえる。

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■3つの燃焼モードで効率良く

一方、新しいV型6気筒エンジンはM276型。排気量3499ccの自然吸気エンジンである。ちなみにボア×ストロークは92.9mm×86.0mmでV型8気筒と共通。計算上、V型8気筒の2気筒分を削った排気量になっている。

現行のV型6気筒との一番の違いはバンク角だ。現行M272型が、M273型との共用化のため90度だったのに対して、新エンジンは等間隔爆発が可能な60度に。バランサーシャフトを要せずスムーズな回転を実現できるため、軽量化とフリクションロス低減にもつながっている。

こちらは、過給器は組み合わされない代わりに燃料噴射圧が200barと高く、また3つの燃焼モードを備える。回転数4000rpmまでの低負荷域では、リーンバーンによる成層燃焼を実施。一方、高負荷下もしくは3800rpm以上の回転域では均質燃焼が行われる。ここまでは日本未導入の現行V型6気筒3.5リッターCGIユニットと共通だが、新エンジンではその中間として4000rpm以下で、かつ負荷が中程度の場合に用いる、均質燃焼と同じく吸気行程で燃料を噴射しながら圧縮行程でさらに1〜2度の噴射を行う“Homogeneous stratified combustion(HOS)”というモードを用意する。運転状況に応じて燃焼モードを細かく使い分けることで、高効率性を追求しているのである。

その結果、スペックは最高出力306ps/6500rpm、最大トルク37.7kgm/3500-5250rpmに。現行CGIユニットに対して34ps、20kgm増しとなる。一方、燃費はSクラス搭載時で7.6リッター/100km(約13.2km/リッター)と、約24%の向上を果たしている。これによって燃費性能は、セグメントのトップレベルに君臨することになった。

メルセデス・ベンツのような、いわゆるプレミアムカーにとって多気筒エンジンは、そのフィーリングの面でも、そして記号性の面でも、今もって欠かすことはできない。となれば採るべき戦略はひとつ。多気筒の長所を生かしつつ高効率化、ダウンサイジングを進めていくことだ。その意味でメルセデス・ベンツは、“腹をくくった”と言うことができるのかもしれない。

ただし、この新エンジンに用いられているテクノロジーは、ライバルを見渡した時には決して最先端とは言えないのも事実だ。たとえば、すでに多くの車種に直噴ターボエンジンを搭載しているBMWのそれと比べれば、“これで、ようやく追撃態勢に入れる”というのが正しい評価だろう。つまりテクノロジー的にも車種展開的にも、まだやれる余地はあるということ。冒頭に記した通り、さまざまなかたちの環境対応パワートレインを矢継ぎ早に手掛けているメルセデス・ベンツだが、肝であるガソリンエンジンについては、ようやくスタートラインに立ったところだと言えそうだ。

(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ日本)

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