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【語ってくれた人】松井時男(まつい ときお)さん/1987年入社。四輪エンジン設計部に所属し、92年から96年までアメリカンスズキテクニカルセンターに駐在。2009年7月から現職。

スズキ・ワゴンR【開発者インタビュー】

サービス精神の人 2012.10.05 試乗記 <開発者インタビュー>
松井時男さん
スズキ株式会社
第一カーラインチーフエンジニア

リッター28.8kmという低燃費を達成した5代目「ワゴンR」。開発者にその進化について聞いた。

会長からも指示された!

もしかすると、今日本で一番眠りの浅い人かもしれないと思っていた。スズキの稼ぎ頭「ワゴンR」のチーフエンジニアということは、会社の命運を左右する立場にあるわけだ。しかも、新車発表会で会長兼社長の鈴木修氏が“軽市場の首位奪還”に言及したのだからたまらない。眠れぬ夜を過ごし、さぞややつれているのかと思ったら、松井さんは顔色もよく、元気そうだ。自信の表れなのだろうか。

――初代から2代目ならやることも多かったでしょうが、5代目ともなると伸びしろがあまりないから大変ですよね。
寸法はもういっぱいですね。モデルチェンジにはテーマがあって、4代目の時は質感の向上でした。それを受け継ぎながら、今回は燃費と環境性能を上げることに力を入れました。会長からも、2年以上前に「これからは燃費だ!」と指示されましたから。

――前回までは5年ごとのチェンジでしたが、今回は4年のインターバルでした。どうやって1年早めたのでしょう。
最初から4年と決まっていました。本当は前回も4年のはずだったんですが、「パレット」の開発が割り込んだせいで1年遅れたんです。開発の途中で1年早めるなんて、不可能ですよ(苦笑)。

確かに。冷静に考えればその通りなのだが、「スズキvsダイハツ」という構図に落としこみたくなるので勘ぐってしまうのだ。ダイハツが「ミラ イース」でリッター30.0kmの燃費をアピールしてくると、スズキは30.2kmの「アルト エコ」で巻き返す。競争が激しくなるのは、この市場が急拡大しているからである。今年8月の軽自動車販売実績は前年同月比30.9%増で、小型乗用車のシェアに迫る勢いだ。

5代目の「ワゴンR」は低燃費が開発のテーマ。全車にアイドリングストップ機構が標準装備された。
5代目の「ワゴンR」は低燃費が開発のテーマ。全車にアイドリングストップ機構が標準装備された。 拡大
メーターパネル内には運転終了後、エコドライブ度を採点した「エコスコア」が表示される。
メーターパネル内には運転終了後、エコドライブ度を採点した「エコスコア」が表示される。 拡大

社内の固いコンセンサス

一番重視したという燃費は、最高でリッター28.8kmを達成した。前モデルから30%以上の改善というのは驚きの数字である。しかも、ターボモデルでも26.8kmというのがすごい。これに大きく貢献しているのが、ボディーの軽量化だ。70kgも軽くなっていて、一番軽いモデルだと780kgしかない。

法規が変わったことでシートを大きくしなくてはならず、それで10kgぐらいプラスになっていますから実質的には80kg軽くしていますね。1割弱軽量化したということです。

――軽量化というのはコストがかかると聞きますが……。
いや、70kg減った分だけコストダウンできています。会長は、軽くすれば材料が減るのだからコストが下がるはずだ、という信念ですから。実際、従来の材料を見直したり、構造を工夫したりすることで低減できるんですよ。アルミとか樹脂とかで材料置換をすればお金がかかりますが、そういう飛び道具は使っていません。

――高価なハイテン(高張力鋼板)も使っていますよね。
単価は上がりますが、量が減るから値段はトントンか、ちょっと下がります。ボディーで15kg、ドアで6kgぐらい軽くなっていますね。鉄は「キロいくら」ですから、軽くなればそれだけ安くなります。樹脂材にしても同じことですね。

1.5トン級のクルマがアルミを多用して軽量化したといっても、20kgしか軽くなっていない、なんて例もあった。軽自動車で70kg減らすには血のにじむような努力が必要なはずだが、松井さんは“ドヤ顔”を見せない。無理難題には慣れているのだろう。大幅な軽量化とは裏腹に、ほとんど変わらなかったところもある。

これがワゴンRだ、というカタチがあるので、簡単には変えられないんです。カドカドがあって、ルーフが後ろに上がっていってという、ひと目でワゴンRとわかる特徴があります。それを守らないと、ワゴンRではなくなる。空力を考えれば、後ろを下げたいんですよ。でも、新しいワゴンRを描けというと、後ろを下げる人は誰もいない。そこは社内で固いコンセンサスがとれているんです。

約70kgもの軽量化を実現したワゴンRについて語る松井さん。
約70kgもの軽量化を実現したワゴンRについて語る松井さん。 拡大
高張力鋼板をボディーの約41%に採用している。
高張力鋼板をボディーの約41%に採用している。 拡大
シートバックが約60mm高くなったにもかかわらず、軽量化されたシート。
シートバックが約60mm高くなったにもかかわらず、軽量化されたシート。 拡大

ワゴンRのアイデンティティーとは?

同じようなカタチではあるけれど、初代と比べれば違いは歴然としている。初代モデルはほとんどの面がのっぺりとしていて、四角を組み合わせたようなシンプルさなのだ。

いちばん変わったのは、ドアの断面でしょうね。抑揚のないものになりかねないので、キャラクターラインを入れたりしてボリュームとカタマリ感を出しました。それから、後ろから見ると幅が広く感じられると思いますよ。目にとまりやすいポイントを何十mmか上げて、その効果で広がりを持たせることができました。

――実際の車内の広さも譲れませんよね。
広さ、それから収納に関しては、妥協はできません。このパッケージングがお客さまに支持されているわけですから。

――伝統のバケツもやめられない?
バケツはワゴンRのアイデンティティーです!

助手席下に収納用のバケツを配置したのは、ホームラン級のアイデアだったのだ。ユーザーからも好評なのだという。しかし、今回はその場所には回生エネルギーをためるためのリチウムバッテリーが収まっている。

電池は発熱するので、冷却のためにあの場所がいちばんいいんです。サイドメンバーが近くにあるから丈夫で、側面衝突でも安全です。薄い形状なので、バケツを置くのに問題はありませんでした。

会社の顔である売れ筋モデルを担当するというのは、ずいぶん制約の多い仕事のようだ。カタチを自由に変えられず、助手席の下に置くものまで決まっている。ストレスがたまるのではないですか、と聞いても、松井さんは柔らかい笑顔を返すばかりだ。

ワゴンRは、リピーターのお客さまが多いんです。指名買いが普通なんですね。だから、前のモデルより着実に進化させる必要がある。新しい技術を取り入れるにしても、前から乗っている方が違和感を抱くようじゃダメなんです

松井さんには撮影の際に無理を言ってさまざまなポーズをとっていただいたが、モデルさんでもないのに一生懸命に応えてくれた。サービス精神が豊かなのだ。そうでなければ、とてもこんなクルマは作れないと思う。

(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=菊池貴之)

前後乗員間距離は先代より25mm拡大された。松井さんの足元に見えるのがリチウムイオンバッテリー。
前後乗員間距離は先代より25mm拡大された。松井さんの足元に見えるのがリチウムイオンバッテリー。 拡大
ワゴンRのアイデンティティー「助手席シートアンダーボックス」。
ワゴンRのアイデンティティー「助手席シートアンダーボックス」。 拡大
視覚的により幅広く見えるようにデザインされたリアビュー。
視覚的により幅広く見えるようにデザインされたリアビュー。 拡大

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