日産の「緊急操舵回避支援システム」を試す

2012.11.09 自動車ニュース
「緊急操舵回避支援システム」を搭載した「日産リーフ」。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す

日産の「緊急操舵回避支援システム」を試す「先進技術説明会&試乗会 2012」に参加して

毎年恒例の「日産先進技術説明会&試乗会」。今回も同社のさまざまな最新技術が紹介された。後編の今回は、「緊急操舵(そうだ)回避支援システム」と「アクティブ・エンジン・ブレーキ」を中心に紹介する。

直進する「リーフ」の前にいきなり人影(人形)が! もはやブレーキをかけて衝突を回避している余裕はない。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す
ドライバーの両手がステアリングホイールから離れていることに注意。障害物がない方向への操舵は完全自動で行われる。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す
続けて試したのは「アクティブ・エンジン・ブレーキ」。エンジンブレーキを制御して減速や制動をアシストする技術で、具体的にはCVTのギア比を低速側に変化させることによって実現している。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す

■“自動ステア”で危険を回避

クルマの安全性には、アクティブセーフティー(能動的安全性)とパッシブセーフティー(受動的安全性)があるのはご存じの通り。日産の「緊急操舵回避支援システム」はアクティブセーフティーの、最後のとりで的な技術と言える。

最近になって各メーカーが採用車種を増やしているプリクラッシュブレーキシステムは、前方の対象物に対して衝突の危険性があるのにドライバーが回避行動(この場合ブレーキング)を取らない場合、まず警告を発し、自動的にブレーキをかけ、衝突を回避するか、あるいは避けられずとも被害を軽減する機能だ。

今回の「緊急操舵回避支援システム」は、ひとことで言えばそのステアリング版である。衝突の危険性があるのにドライバーが回避行動を取らない場合、つまりブレーキングもステアリング操作もしない場合に、まず左右どっちにステアリングを切るべきかを矢印で表示する。それでも回避行動が取られない場合、クルマが自動的にステアリングを切るというもの。
クルマが切るべき方向、つまり切っても障害物がない方向を判断するのが肝だ。当たり前だが、衝突を避けるために車線を外れる前に、切った方向に対向車や後続車が来ないこと、道路脇を通行する歩行者や自転車、バイクなどがいないことを確認してから切らなくてはならない。

このため、車両前方の認識にレーダーとカメラ、車両の周囲の認識に5つのレーザースキャナー、左右後方の認識に2つのレーダーと、多数のセンサーが用いられる。それらすべての認識結果をECUで演算し、車両が自動的にステアリングを切ってもどこにも衝突しないかどうかを瞬時に判断、大丈夫なら左右どちらかにステアリングを切る。

順序としては、車両の前方に対象物があるとドライバーに警告を発しても回避行動がない場合、まずクルマはブレーキで回避するかステアリングで回避するかを判断する。回避するのに必要な距離は、ステアリングによる回避よりもブレーキによる回避のほうが長い。このため、通常はまず自動ブレーキが作動するが、なんらかの理由、例えば他車が突然車線変更し、自車の直前に入ってきた場合など、ブレーキで回避できる限界を超えている時、左右どちらかに回避ゾーンがあり、そこへ対向車も後続車も来ないと判断すると、操舵による回避を試みる。もし、回避ゾーンがなければ、プリクラッシュブレーキのみに頑張ってもらうしかない。

日産によれば、エンジンブレーキによる速度の補正はあえて控えめになっているとのこと。アクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え頻度を減らし、経験の浅いドライバーでも安全なコーナリングができるようにするのが狙い。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す
100%電気商用車「e-NV200」の試乗も行われた。排ガスゼロのおかげで、屋内でも運用可能という利点がある。2013年末の実用化を予定しているという。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す
こちらは2〜3.5リッター車用の新世代エクストロニックCVT搭載車(テスト車は日本未導入の「アルティマ」)。クラストップの変速比幅によるレスポンスの良さと、フリクション低減による燃費改善が自慢。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す

今回はこの機能を盛り込んだ「日産リーフ」に同乗し、右前方にある車両の陰から突然出現するダミー人形を回避するデモを体験した。人形が出てくるのは、誰がブレーキを踏んでも絶対に回避できないと感じるタイミングだったが、リーフはオープンスペースのある左方向に回避した。もう一度やっても同じ。見事に回避した。
人間、少なくとも自分には無理と思える離れ業に素直に感心したが、操舵による回避の物理的な限界がこれほど短いのかと驚かされた。クルマの限界よりかなり前の段階に、人間の能力の限界があることがわかる。

ちなみに、この機能は前方で止まっている車両などだけでなく、対向車が車線をはみ出して自車の前に出現した時にも機能する。この機能を備えるクルマ同士が正面衝突の危機にひんした際、同じ方向へ避けないことを祈るばかりだ。

■自動で減速させる「アクティブ・エンジン・ブレーキ」

次はエンジンブレーキ関連の技術。エンジンブレーキというのはギアが低いほど強く効く。エンジンブレーキが必要な際に、クルマが自動的にギアを低めるのが「アクティブ・エンジン・ブレーキ」だ。

エンジンブレーキが必要なのはどんな時だろうか? 代表的なのは、カーブの最中。ちょっと進入速度が高すぎたなと感じた時、ドライバーはたいていアクセルを離し、まだ減速度が足りなければ、ダウンシフトするか、ちょっとブレーキを踏む。
そういう時、アクティブ・エンジン・ブレーキは、車速やステアリング切れ角などを認識し、カーブに差し掛かってアクセルを離したと判断したら、エンジンブレーキをより強く効かせるべくギアを低めてくれる。

もちろん、ドライバーが再びアクセルを踏んだら働きを解除。カーブのみならず、直線でブレーキングする時も、ギアを低めて減速をアシストする。「低めて」と表現したように、この技術はギア比を無段階に変化させられるCVTのみと組み合わせられる。要するにアクセルを離したらより低いギア寄りにしてエンジンブレーキの働きを強めようとするものだが、慣性を使ってコースティングしたい時などには作動しないようプログラムされている。

カーブの途中でアクセルを離すと、一瞬の後、タコメーターの針が上がり、減速が強まるという一連の動きは試乗で確認できた。もっとも、あくまで1km前後テスト走行した限りの感想だが、アクセルを離した瞬間ではなく、一瞬の後にエンジン回転が上がるように感じられたのが気になった。その一瞬の間に、ドライバーは自分でブレーキを踏んでしまうのではないだろうか。
日産いわく、エンジンブレーキの強さはドライバーが違和感を覚えない程度に抑え、あくまで運転経験の浅い人が「運転がうまくなったかも!」と感じられるような効果を目指しているという。

この日試したのは、安全性能や環境性能だけではない。これは「スパイナルサポート付きコンフォタブルシート」を試しているところ。シートバックを適切な位置で折り曲げた形状とすることで、背中や腰の筋肉にかかる負担を軽減し、血流も改善させる。長時間の運転で違いが出てくるという。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す
日産によれば、人の指は「硬軟感」(柔らかく感じる)、「乾湿感」(しっとり感じる)、「粗滑感」(なめらかに感じる)、「温冷感」(温かく感じる)という4種類の尺度で触り心地を判断しているという。こういった人間の感覚を分析し、インテリアにおける“最適な触感設計”を行っているそうだ。写真のダッシュボードは「ノート」のもの。
日産の最新アクティブセーフティー技術を試す

エンジンの回転を常に自分のコントロール下に置きたいと考えるドライバーにとって、アクティブ・エンジン・ブレーキは不要と思える技術かもしれない。しかし、「今、何速で、何回転かなどということはどうでもいい。とにかく楽で安全、かつスムーズに走りたい」と考える人にとって、この技術は有効だろう。
現時点でクルマを買う多くの人が後者だろうし、今後ますます高齢化も進む。将来に向けて、実に大事な技術なんだろうと想像できる。運転好きにしたって、疲れている時には楽な運転を望むわけだし。

■自動運転はすぐそこに!?

クルマはいよいよステアリングの自動操作の領域に入りつつあり、ドライバーのミスをカバーするさまざまな自動操作が実用化されつつある。現時点では、ドライバーの意思をギリギリまで尊重するため、“ミスをしかけてから介入する技術”が主体だ。けれど、だからこそ難しいのであって、最初から人間なんかに運転させず、現時点の自動運転技術をてんこ盛りにして、商品化したほうが、実際のところ事故は減るのかもしれない。

市場はこの先もずっと自分で運転し続けることを望むのか、それとも自動運転を受け入れるのか……。それはわからないが、望めば近い将来、自動運転は十分に可能なはずである。いや、1930年代の「T型フォード」のオーナーからすれば、現代のクルマはすでに自動運転なのかもしれない。

(文=塩見智/写真=小河原認)

この記事の大きな画像を見るためには、画像ギャラリーをご覧ください。