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【スペック】全長×全幅×全高=4240×1775×1300mm/ホイールベース=2570mm/車重=1230kg/駆動方式=FR/2リッター水平対向4DOHC16バルブ(200ps/7000rpm、20.9kgm/6400-6600rpm)/燃費=12.4km/リッター(JC08モード) ※数値は「86 GT“リミテッド”」(MT仕様)のもの

トヨタ86 サーキット試乗会【試乗記】

“86”ワクドキ体験会 2012.11.04 試乗記 トヨタ86“TRDパフォーマンスライン”装着車/86“ファクトリーチューン”/86“エアロスタビライジングフィン”装着車

富士スピードウェイで開催された報道関係者向けイベント「“86”ワクドキ体験会」で、「トヨタ86」にTRDがチューニングを施したモデルや、トヨタの86開発陣によるファクトリーチューンモデルなどを乗り比べた。

ホームサーキットで「86」に試乗

ひととおりメーカーからのプレゼンテーションは終わったと思っていた「トヨタ86(ハチロク)」。しかしこの期に及んで、トヨタのホームサーキットである富士スピードウェイで、たくさんの86に試乗させてくれるという。メディア向けに毎年開催されている「トヨタ ワクドキ体験会」に、今年の主役(カオ)である86が組み込まれたというわけである。

ちなみに同イベントは、日本未発売のクルマやコンセプトモデル、ニュルブルクリンク24時間レースに向けたレーシングカー、そしてGAZOO Racingのチューニングカー「G's」車両を一気乗りさせてくれる試乗会(G'sについてはあらためてリポートする)。その背後には、いま彼らが持っている危機感、そして「クルマに対するユーザーの高揚感を高めなければならない」という使命感があるのは明らかだ。

正直“ワクドキ”というタイトルは子供っぽいと思うが、そこにトヨタ86を持ってくることは大いにうなずける。実際に筆者も、あのバランスに優れたスポーツカーである86を、サーキットで思う存分走らせられることに対して、ワクドキしていたのである。そして結論から先に言えば、86は最高のスポーツカーだった。

TRDチューンの「トヨタ86」が2台、ファクトリーチューンの「86」が2台用意された。
TRDチューンの「トヨタ86」が2台、ファクトリーチューンの「86」が2台用意された。 拡大

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トヨタ86 TRDバージョン

最初にステアリングを握ったのは、トヨタのワークスであるTRDが仕立て上げた一台。『webCG』や『GAZOO TV』でもオンロード試乗をリポートしたクルマなのだが、その本性をくまなく確かめる場所はサーキットにあると考えていたから、「待ってました!」とばかりに乗り込んだ。
とはいってもそれは、「TRD 86」が「サーキット専用車」だという意味ではない。ストリートでのバランスの良さは前述している通りで、その懐の深さを確認するために(つまりサスペンションを全力で仕事させるために)、クローズドエリアで試したかったのだ。また前回は試せなかったモノブロックブレーキキット(86万1000円なり!)にもワクドキだった。

メインストレート2本を挟んだ都合3周を試乗し、TRD 86はひとことで言えばシュアなマシンだった。
ノーマルはもちろん、後述する「トヨタファクトリーバージョン」と比べても、上質なソリッド感が味わえた。
ノーマルより1トーン低く、野太いエキゾーストサウンド。ピットロードから早くも感じる車体のシッカリ感。本格的な全長調整式の“シャコチョー”を装着するにもかかわらず、突き上げ感が少ない「複筒式」ダンパーを採用し、スプリングもフロントが3.54kg/mm、リアは5.84kg/mmの樽(たる)型形状と、マイルドな仕様を目指したTRD号だが、全体的にかっちりとした操作感覚が得られるのは、装着タイヤ(でありサスペンション開発タイヤ)を「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」としたからだろう。

TRDのパーツを装着した「86」。
TRDのパーツを装着した「86」。 拡大
フロント6ピストン、リア4ピストンのブレンボ製モノブロックキャリパーを採用する「モノブレーキキット」(86万1000円)。ホイールは18インチ鍛造アルミホイール「TRD SF2」(34万4000円)。
フロント6ピストン、リア4ピストンのブレンボ製モノブロックキャリパーを採用する「モノブレーキキット」(86万1000円)。ホイールは18インチ鍛造アルミホイール「TRD SF2」(34万4000円)。 拡大
4本出しのマフラーとリアバンパースポイラーがリアビューを引き締める。
4本出しのマフラーとリアバンパースポイラーがリアビューを引き締める。 拡大

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カーボンシャフト採用のフロントストラットタワーバーやスポーツオイルフィルターなどのTRDパーツが装着されたエンジンルーム。
カーボンシャフト採用のフロントストラットタワーバーやスポーツオイルフィルターなどのTRDパーツが装着されたエンジンルーム。 拡大
室内には3連のスポーツメーターキットやセミバケットのスポーツシートが装備されている。
室内には3連のスポーツメーターキットやセミバケットのスポーツシートが装備されている。 拡大

少し歯がゆさも

様子見が終わり、1.5kmのストレートエンドで190km/h(リミッター作動)からブレーキングすると、足の裏には分厚い板を踏むような感覚が得られた。ブレーキから生まれた減速Gが、ボディーでガチッと受け止められる気持ち良さ。本来86は軽くてローパワーゆえに、これほど豪華なシステムを組み込む必要はないとも思うのだが、確かに優秀だ。

減衰力40段調整式のダンパーは、ストリート向けのデフォルト設定よりもダンピングレートを強めてあるという。そのダンピングは硬いというより硬質ゴムのような感じで、上手にロールスピードが押さえ込まれており、いやな突っ張り感もない。

ただし旋回能力が上がり、ヨーレートが高くなってしまうせいか、車両安定装置であるVSCをオフにしていても、リアタイヤの接地性が低くなると途端に制御が介入してしまう。具体的には、「ここから慣性で向きが変わるのに!」というところで、クルマが勝手にブレーキをかけて、行きたい方向とは逆方向(つまりコーナーのアウト側)へ向きを修整してしまうため、ドライバーはさらにそれを修整する操作が必要となり、かなり忙しい運転になってしまった。パイロットスーパースポーツはグリップ至上主義というより、スライドしてからの操作性を大切にするタイヤであり、それゆえTRDも選んだはず。しかし「クルマを操りきる楽しさ」というコンセプトから見ると、サーキットではおいしいところがすべてスポイルされていた。

実はこれ、裏技があって、VSCをキャンセルすることも可能なのだが、現状ではサスキットの限界の高さと、タイヤ側のキャラクター、そこにVSCが組み合わさり、結果としておのおのの良さを引き出せない状態で、少し歯がゆい試乗となった。
VSC対策としては、もう少しリアの接地性を上げておく必要がある。今回は時間が足りなかったが、車高調整式だからそれも簡単にできるはずだ。

ドアストライカーの隙間を埋めることで、ボディーのヨレを軽減する「ドアスタビライザー」(1万4700円)。TRDスタッフによると「コストパフォーマンスが高く、イチオシです」とのこと。
ドアストライカーの隙間を埋めることで、ボディーのヨレを軽減する「ドアスタビライザー」(1万4700円)。TRDスタッフによると「コストパフォーマンスが高く、イチオシです」とのこと。 拡大

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トヨタの86開発陣によるチューンが施された「86」。
トヨタの86開発陣によるチューンが施された「86」。 拡大
タイヤはダンロップの「DIREZZA ZII トヨタ86専用スペック」が装着されていた。
タイヤはダンロップの「DIREZZA ZII トヨタ86専用スペック」が装着されていた。 拡大
その他、ザックス製のショックアブソーバーや機械式LSDなどを装着。
その他、ザックス製のショックアブソーバーや機械式LSDなどを装着。 拡大

トヨタファクトリーバージョン

TRD仕様とは別に、トヨタ本体が提案する「ファクトリーバージョン」といえる86にも試乗した。TRD仕様のようにパーツを単体購入しながら、自分好みに仕上げる方式ではなく、コンプリートカーとして成立しているからか、全体のパッケージとしてクルマがまとまっており、TRD仕様とはまた違ったキャラクターが描かれていた。

特徴的なフロントマスク、大きなリアウイング。見た目の派手さとは裏腹に、その乗り味は拍子抜けするほど“普通”だ。
しかしそれは「カッコだけでごまかしたチューニングカー」という意味ではない。徹頭徹尾安全性を重視する(オーバーステアを嫌う)メーカーのスタンスこそ貫かれているが、実に奥深いセッティングが施されているのである。

まずノーマル86が持つイメージとして、フロント応答性の高さがあると思う。しかしファクトリーチューンは、そこから一段ソフトな方向にセッティングが振られている。それはスプリングレートやダンピングレートが低い(柔らかい)ということではない。前後ともにサスペンションのストローク量を多く取り、ダンパーがゆっくりとロールさせてゆく。懐の深さをもって、ソフトと感じるのだ。

だからこれを富士スピードウェイのようなステージで走らせると、アンダーステアと感じるドライバーが多いと思う。
しかしその応答スピードさえ理解してやれば、この86は安全かつ素直にコーナリングをしてくれる。ブレーキを踏んで、フロントサスペンションを縮める。フロントタイヤに荷重が載ったところで、ステアリングを切る。この一連の動作がゆっくり行われるだけなのだ。逆に言えば、これをじっくり観察しながら運転すれば、ドライビングがうまくなるだろう。
その仕組みを理解しないで、感覚だけでハンドルを切ってしまうドライバーにとっては、単なるもっさりしたクルマと感じてしまうわけである。

以上をふまえて運転すると、コイツはなかなかに優れものだとわかる。
例えば富士の名物コーナーである100R。下りながらのロングコーナーは、一般的に恐怖感を煽(あお)られるセクションだと思う。だがファクトリーチューンの“長足”は常に4輪を路面に接地させているため、高い安心感を持ってここに挑むことができる。

アンダーステア傾向とは言っても、いきなりフロントがグリップを見放すようなことはなく、徐々に滑って軌跡を膨らませていく。マシン側が「これ以上ハンドルを切っても曲がりませんよ」と、スキール音を交えて教えてくれるから、次の周でドライバーは自分の運転を容易に修正することができる。

今までのおっかなびっくりなドライビングは、余裕を持ったものに変わるだろう。またサーキットではロールを大きく感じても、公道ではちょうどよくバランスしているはずである。エキゾーストノートが3車で一番クリアだったことも付け加えたい。見た目の派手さとは逆に、穏やかで気持ち良い走りが楽しめるはずだ。

ノーマル状態で走行後、その場で「エアロスタビライジングフィン」を装着し、比較した。写真のCピラー装着用はすでにディーラーオプションとして販売されている(1万5750円)。
ノーマル状態で走行後、その場で「エアロスタビライジングフィン」を装着し、比較した。写真のCピラー装着用はすでにディーラーオプションとして販売されている(1万5750円)。 拡大
こちらはテスト開発中のフィン。ドアパネル前方に取り付ける。
こちらはテスト開発中のフィン。ドアパネル前方に取り付ける。 拡大

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エアロスタビライジングフィン

そして最後は、「今回の目玉」を紹介したい。
「エアロスタビライジングフィン」と名付けられた小さなパーツ。これを、フロントフェンダーとCピラーに装着するだけで、空力効果で挙動が安定するという。

その鍵となるのは、空気の「渦」(タービュランス)。このフィンが空気の流れに対して後方に乱気流を作り出す。まず前側フィンの作り出す渦が、ボディーサイドを流れる空気の剥離を抑える。そして後ろ側フィンの作り出す渦が、リアウィンドウやトランク部など、走行風が当たらない場所で発生する負圧を吹き飛ばす(または空気の剥離層を小さくする)。結果として空気抵抗が減り、速くなる。なおかつ、この渦がボディー側面を支えて、車体を安定させるというのである。

空力と聞いて、少し詳しい人ならばダウンフォースを思い浮かべるだろう。フェラーリをはじめとした一部高級スポーツカーが、最先端技術の流用の一環としてこれを用いる場合がある。だがダウンフォースの活用は、市販車において不都合なことも多い。
なぜならフラットボトム+ディフューザーでダウンフォースを得ようとした場合、地面とフロアの隙間は狭いほど効果が高く、ある程度のロードクリアランスが必要な市販車には不向きなのだ。またそのクリアランスも一定に保たねばならず、サスペンションを固める必要がある(乗り心地が悪化する)。車体がロールやピッチングで傾くたびにダウンフォース量が増減するのは危険だから、実際は「床下を平らにすることで空気抵抗を減らす程度」にとどめることが多いのだ。

フィンの効果を示す風洞模型。小さな空気の渦ができているのが見える。
フィンの効果を示す風洞模型。小さな空気の渦ができているのが見える。 拡大

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トヨタ車内の「自動車同好会」によるN1レース仕様の「86」。この車両でマカオグランプリに参戦予定。
トヨタ車内の「自動車同好会」によるN1レース仕様の「86」。この車両でマカオグランプリに参戦予定。 拡大

しかしこのフィンは、ダウンフォースを獲得するためのデバイスではないので、そうした条件に左右されない。当日出席していたエンジニア氏によれば、これはまさにF1から得た技術で、今後のトヨタ車にも活用されてゆくという。
「横風や突風などの外乱要素には弱いのではないか?」という問いに対しては、「渦がそれらを吸収してくれるから、むしろよい」との回答だった。

真夜中のテレビショッピングみたいなうたい文句に、最初筆者は「ふーん」と半信半疑であった。しかし試乗車(ノーマルグレードのAT仕様)で、装着・非装着の実走テストをしたところ、うそ偽りなく、その効果が体感できたのである。

一番の利点は、スイッチをオフにしても介入するVSCが、その介入の頻度と度合いを大幅に下げたことだ。ヨーモーメントが穏やかに発生するから、タイヤが滑り出してもクルマ側が「危険」と判断しないのだろう。そして、そこからアクセルを入れてゆくと、滑りながらもクルマは前に進んで行く。
上から車体を抑えつけるダウンフォースではないからタイヤは滑る。しかし、そのコントロールが最高に楽しい。
レベルの高いドリフトコントロール。
これこそ、みんなが86にイメージする走りだ。

あまりにコントロール性がよくて、キツネにつままれたような気分だった。一応周りの参加者にも確認したのだが、みな一様にその効果を認めていた。
筆者的には、ノーマルの17インチタイヤに純正サスペンションで十分おなかいっぱいになれる。チューニングパーツが売れなくなってしまうのではないか? と心配になった。

ちなみにこのフィン形状は、魚からヒントを得たのだという。いくつかのサンプルを用意して、一番速く泳げるカジキマグロのボディーを元に、その縦横比を割り出した。
ありきたりなオチで恐縮だが、まさに「目からウロコ」である。

(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)

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