第8戦イギリスGP「分裂の危機とコースでの反撃の間」【F1 09 続報】

2009.06.22 自動車ニュース
セバスチャン・ベッテルが、第3戦中国GPに次ぐ今シーズン2勝目をポール・トゥ・ウィンで飾った。自身通算3勝目は、初のドライでの勝利となる。ポイントリーダー、ジェンソン・バトンとの点差は32点から25点に縮まった。(写真=Red Bull Racing)
第8戦イギリスGP「分裂の危機とコースでの反撃の間」【F1 09 続報】

【F1 09 続報】第8戦イギリスGP「分裂の危機とコースでの反撃の間」

2009年6月21日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第8戦イギリスGP。分裂の危機に揺れるF1界にあって、セバスチャン・ベッテルとレッドブルの独走劇が問いかける、F1とは何なのかということについて。

決勝日の気温17度。涼しい気候のイギリスで、タイヤを適温にまでもっていけなかったのがブラウンの敗因とされる。ルーベンス・バリケロはフロントローからスタートし2位を走行するも、最初のピットストップでマーク・ウェバーにかわされて結局3位でゴール。4連勝中のジェンソン・バトン(写真)は、母国GPで錦を飾ることはできず、6番グリッドから6位完走。不調のなかで3点を獲得しダメージを抑えた。(写真=Brawn GP)
決勝日の気温17度。涼しい気候のイギリスで、タイヤを適温にまでもっていけなかったのがブラウンの敗因とされる。ルーベンス・バリケロはフロントローからスタートし2位を走行するも、最初のピットストップでマーク・ウェバーにかわされて結局3位でゴール。4連勝中のジェンソン・バトン(写真)は、母国GPで錦を飾ることはできず、6番グリッドから6位完走。不調のなかで3点を獲得しダメージを抑えた。(写真=Brawn GP)
1980年代初頭に勃発したFISA vs FOCA対決の再来か。統括団体FIAとチーム団体FOTAは、2010年のコスト削減規定を巡り対立。ついにはFOTA系8チームは来季F1から離脱し、独自の新シリーズを立ち上げることを表明した。FIA側は妥協案により折り合いがつくとみているが、FOTAはいまのところ強硬姿勢を堅持している。なお既存10チームのうち、FIA案に賛成の手を挙げたウィリアムズとフォースインディアはFOTAのメンバーだがその立場は保留状態とされている。(写真=Red Bull Racing)
1980年代初頭に勃発したFISA vs FOCA対決の再来か。統括団体FIAとチーム団体FOTAは、2010年のコスト削減規定を巡り対立。ついにはFOTA系8チームは来季F1から離脱し、独自の新シリーズを立ち上げることを表明した。FIA側は妥協案により折り合いがつくとみているが、FOTAはいまのところ強硬姿勢を堅持している。なお既存10チームのうち、FIA案に賛成の手を挙げたウィリアムズとフォースインディアはFOTAのメンバーだがその立場は保留状態とされている。(写真=Red Bull Racing)

■発祥の地で起きた出来事

6月18日、主要8チームで構成されるFOTA(Formula One Teams Association/F1チーム協会)は、2010年にF1から離脱し、独自の選手権をはじめると発表した。国際自動車連盟(FIA)が来シーズンから導入を決めたコスト上限規定に対し、FOTAが反発。協議を重ねたが両者の言い分は平行線をたどり、ついにFOTAが伝家の宝刀を抜いたのだ。

多分に政治色が濃くなった今年のイギリスGPだが、ここシルバーストーンを舞台にするのは今回で最後。来年からはドニントンパークに移ることが決まっている。1950年5月13日にF1世界選手権の記念すべき第1戦が開かれた伝統のコース。そこでの最後のレースを惜しむドライバーや関係者も多く、スタンドは例年以上にたくさんの観客で鈴なりだった。

F1発祥の地でのラスト・レースを制したのは、セバスチャン・ベッテル。これまで7戦6勝のジェンソン・バトンとブラウンをついに破り、チームメイトのマーク・ウェバーとともにレッドブルは今季2度目の1-2フィニッシュを飾った。シーズン折り返しに、ようやくはじまったレッドブルの反撃。バトン連勝で冷めかけたチャンピオンシップに熱を与える、会心の1勝だった。

F1は世界規模のスポーツであり、興行である。そこにはルールがあり、それを守り参戦するコンペティターがいて、スポンサーがそれを支え、競技を行うためのサーキットやオーガナイザーがいて、コース脇やテレビで見守る大勢の観客がいる。どれかが欠けても壮大なF1というジグソーパズルは完成し得ない。

F1を、どこで、どのようにやるかは一部の人間にしか決められないことだが、その一部の人間の頭のなかに、観客=ファンの立場を考えるひとが、果たして何人いるのだろうか?
ファンは“F1政治”への参政権をもたないが、しかしもっとも強力なパワーを有している。観客が見向きもしないレースは、残りのステークホルダーにとってもまったく意味がないのだ。

プルロッド式リアサスペンションを採用するなど今年ひときわ異彩を放つマシン、レッドブル「RB5」と、次世代を担う若手として注目されるベッテルの勝利には、いま大問題とされることを、つまらないことに思わせてしまう力がある。

すなわちF1はスポーツであり、政治が主役になることはないということ。そして、技術が先鋭化し、レーシングカーと市販車の間に関係性を見出せなくなったとしても、モータースポーツの最高峰としてのステータスを保持するためには技術的余地を残しておくべきだということ。コスト高騰でエントリー数が維持できないのは問題だが、F1がF1であるために必要なことをないがしろにされては、ファンはついてこない。
分裂を発端に両者が衰退の一途をたどった例が、アメリカのインディカーシリーズだ。一度失った信頼を再び得ることは、至難の業である。その教訓から学ばなければならない。

ヤルノ・トゥルーリが4番グリッドにつけたトヨタ。表彰台の一角を目指したが、スタートで失敗し、ハンドリングにも難ありで、キミ・ライコネンを何とか抑えての7位完走。ティモ・グロックは9番グリッドから9位完走で得点ならず。(写真=Toyota)
ヤルノ・トゥルーリが4番グリッドにつけたトヨタ。表彰台の一角を目指したが、スタートで失敗し、ハンドリングにも難ありで、キミ・ライコネンを何とか抑えての7位完走。ティモ・グロックは9番グリッドから9位完走で得点ならず。(写真=Toyota)
KERS信仰者だったBMWも、ついにこの「運動エネルギー回収システム」を今季断念すると発表。イギリスGPはフェラーリの2台のみが搭載して戦った。FIAが強引に導入した“環境問題への免罪符”は、途方もない開発費をともないながら実りが少ないと大不評。FIAは大幅なコスト削減を意地でも実施したいはずなのだが、統括団体としての姿勢に一貫性が認められない。なお今回のBMWの戦績は、ロバート・クビサ(写真)13位、ニック・ハイドフェルド15位。(写真=BMW)
KERS信仰者だったBMWも、ついにこの「運動エネルギー回収システム」を今季断念すると発表。イギリスGPはフェラーリの2台のみが搭載して戦った。FIAが強引に導入した“環境問題への免罪符”は、途方もない開発費をともないながら実りが少ないと大不評。FIAは大幅なコスト削減を意地でも実施したいはずなのだが、統括団体としての姿勢に一貫性が認められない。なお今回のBMWの戦績は、ロバート・クビサ(写真)13位、ニック・ハイドフェルド15位。(写真=BMW)

■タイヤが分けた明暗

エアロコースであるシルバーストーンに、奇才エイドリアン・ニューウェイが手がけたレッドブル「RB5」は当たりだった。金曜日からRB5の好調は顕著で、それと反比例するように、これまで常勝を誇ってきたブラウンは苦戦した。気温が20度に満たない涼しいシルバーストーンで、レッドブルはタイヤへの入力が比較的大きいゆえ適温状態を得やすく、いっぽうのブラウンは“タイヤに優しい”性能がアダとなり、終始ハンドリングに苦慮した。昨今のF1にとって、タイヤは勝敗を分ける最大のファクターといっていい。

予選でポールポジションを獲得したベッテルは、トップ10台中もっとも重いマシン(666.5kg)で最速タイムを叩き出しており、この時点でレースの展開は容易に想像できた。
フロントローに並んだブラウンは、ルーベンス・バリケロ。ポイントリーダー、バトンは6位と今季ワーストグリッドに沈んだ。予選3位は、アタック中に邪魔されたと憤慨するマーク・ウェバーだ。

レースのオープニングラップをトップで通過したのはベッテル。バリケロが2位を守ったことで、ブラウンに鼻っ面を抑えられたウェバーから初優勝の可能性が徐々に消えていった。ベッテルは毎周キレイに1秒ずつ後続を引き離し、最初のピットストップまでに20秒ものマージンを築いた。

ペースのあがらないブラウンの後塵を拝したウェバーは、第1スティントを終えピットからコースに復帰すると、早々にバリケロを抜くことに成功。以後、レッドブル1-2フォーメーションは崩れることなく、またベッテルのリードはウェバーには届かず、だった。

3位に落ちたバリケロは、ニコ・ロズベルグのウィリアムズやフェリッペ・マッサのフェラーリからプレッシャーを受けるが、スティントを長く走ったブラウンの1台が表彰台の最後の一角を守りきった。

バトンはといえば、6番グリッドからスタートで前方のヤルノ・トゥルーリ攻略に難儀し9位までドロップ。レースのほとんどをポイント圏の最後尾周辺で過ごした。第2スティントでソフトからハードタイヤに履き替えるとペースをあげられず、ソフトに戻した終盤には、前方のロズベルグ、マッサに迫る勢いをみせたが、結局スタートと同じポジションでゴールした。8戦目にして初めて、ポディウムを逃した一戦となった。

ディフェンディングチャンピオンであり、昨年母国イギリスで1分以上ものマージンを築き圧勝したルイス・ハミルトン(写真)。その面影は、18番グリッドからでも果敢に攻め続けた姿勢にこそ見つけられたが、マクラーレンはいまや哀れな(?)バックマーカーである。スピンをきっするなどし、16位でレースを終えた。チームメイトのヘイキ・コバライネンは、後続のマシンに追突されリタイア。(写真=Mercedes Benz)
ディフェンディングチャンピオンであり、昨年母国イギリスで1分以上ものマージンを築き圧勝したルイス・ハミルトン(写真)。その面影は、18番グリッドからでも果敢に攻め続けた姿勢にこそ見つけられたが、マクラーレンはいまや哀れな(?)バックマーカーである。スピンをきっするなどし、16位でレースを終えた。チームメイトのヘイキ・コバライネンは、後続のマシンに追突されリタイア。(写真=Mercedes Benz)
好調ウィリアムズのなかで、ひときわ光ったのが中嶋一貴(写真)。自身最高位の5番グリッドからスタートし、序盤は4位走行と上位入賞を期待させたが、軽めのマシンゆえ早々にピットインするとそこからピットストップのたびに順位を落とし、結局ポイント圏外の11位フィニッシュ。チームメイトのニコ・ロズベルグはその反対で、予選7位から5位完走、チームに4点をもたらした。(写真=Williams)
好調ウィリアムズのなかで、ひときわ光ったのが中嶋一貴(写真)。自身最高位の5番グリッドからスタートし、序盤は4位走行と上位入賞を期待させたが、軽めのマシンゆえ早々にピットインするとそこからピットストップのたびに順位を落とし、結局ポイント圏外の11位フィニッシュ。チームメイトのニコ・ロズベルグはその反対で、予選7位から5位完走、チームに4点をもたらした。(写真=Williams)

■残り9戦の攻防

昨年のイタリアGP、今年の中国GPと雨のレースでポール・トゥ・ウィンを飾っていたベッテルにとって、初めてのドライでの勝利。ファステストラップを加えたまさに完勝で、ブラウン勢にカウンターパンチを食らわせた。

バトンが築いたチャンピオンシップ上のリードが大きいため、ランキング3位のベッテルとのポイント差は、32点から25点に縮まったに過ぎないが、残りは9戦もある。コンストラクターズチャンピオンシップでも、ブラウンのレッドブルに対する貯金は39.5点から30.5点に削られた。
仮に冷涼な気候でのレースでブラウンが問題を抱え続けたとすると、次戦の舞台となるニュルブルクリンクや第12戦が行われるスパ・フランコルシャンなどでも同様の事態が想定されるだろう。

F1とは、スポーツであり、コンペティションである。2009年シーズン後半の白熱した戦いが、出来レースとも思える政治的な話題を蹴散らすようであってほしいと願わずにはいられない。

次戦ドイツGP決勝は7月12日だ。

(文=bg)

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