第18戦アブダビGP「F1における塞翁が馬」【F1 2012 続報】

2012.11.05 自動車ニュース
“トワイライト・レース”のアブダビGPを制したロータスのキミ・ライコネン(左から3番目)、2位でゴールしたフェラーリのフェルナンド・アロンソ(同2番目)、そして3位に入ったレッドブルのセバスチャン・ベッテル(一番右)。(Photo=Red Bull Racing)
第18戦アブダビGP「F1における塞翁が馬」【F1 2012 続報】

【F1 2012 続報】第18戦アブダビGP「F1における塞翁が馬」

2012年11月4日、アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたF1世界選手権第18戦アブダビGP。4連勝中のポイントリーダー、セバスチャン・ベッテルの予選失格、トップ快走中のルイス・ハミルトンのリタイア、度重なるクラッシュに2度のセーフティーカー導入と波乱含みの週末となった今回、ベッテルは最後尾から3位まで挽回。マシン改善が不発に終わったフェルナンド・アロンソはそれでも2位表彰台を獲得し、なかなか勝てなかったキミ・ライコネンはついに復帰後初優勝を遂げた。

レースのスタートシーン。ポールシッターのルイス・ハミルトン(先頭)がトップで1コーナーへ。2番グリッドのマーク・ウェバーは出だしが遅くライコネンに2位の座を奪われた。予選失格でピットスタートとなったベッテル(写真左側の先頭)は、グリッド上で出走できずピットへ戻されたHRTの1台とともに、全車が1コーナーを過ぎるまで待った。(Photo=Red Bull Racing)
第18戦アブダビGP「F1における塞翁が馬」【F1 2012 続報】

■猛牛の突進を阻んだもの

3戦連続のフロントロー独占、セバスチャン・ベッテルの4連勝――2012年シーズンの終盤はレッドブルが破竹の快進撃を続け、ここアブダビでのレースを含め残り3戦のカウントダウンに突入した。

前戦インドGPを終え、ドライバーズランキング2位のフェルナンド・アロンソを13点突き放したベッテル、同じく2位フェラーリに91点差をつけたレッドブルともに、3連覇に向けてまっしぐらに突き進んでいるように見えたが、この中東の産油国は思わぬ鬼門としてチャンピオンチームの前に立ちはだかった。

まず金曜日の早々から、マクラーレンの著しい復調が明らかになった。最初のプラクティスでルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトンがダントツの1−2フォーメーションを築き、2回目もハミルトンがベッテルに遅れることわずか0.168秒の2番手、土曜日の予選前の最後のセッションでは、またしてもハミルトンを先頭にしたマクラーレン1−2となった。

一方ベッテルは3回目のフリー走行でブレーキトラブルに見舞われ、最後の数分間しかトラックに出られず。それでも唯一のフライイングラップで3番手タイムを記録できたのだからさすがである。

ベッテルにとって、レース中たとえマクラーレンに先行を許したとしても大した問題にはならなかった。ハミルトンは、ベッテルから75点も後方のドライバーズランキング5位。残り3戦で全勝し、上の4人が総崩れという、ほぼ起こりえない条件が重ならないとチャンピオンになれない。

むしろマクラーレン復活はレッドブルにとってグッドニュースとも言えた。マシン各所に多くのアップデートパーツを装着し、最後の逆転を試みるアロンソ&フェラーリへ渡る得点が少なければ少ないほど好都合。幸いにしてアロンソのペースはレッドブルを上回るほどではなく、むしろ中位グループのウィリアムズ、メルセデスらに迫られるくらい思わしくなかった。

そういう状況で迎えた予選で、“事件”は起きた。

この週末を通じて上り調子だったマクラーレンのルイス・ハミルトン(写真)。今季6度目のポールポジションから快調にトップを走っていたが、20周目に突如ストップ、リタイア。燃圧の問題といわれている。チームメイトのジェンソン・バトンは5番グリッドから3位まで順位を上げたが、残り4周でベッテルに抜かれ結果4位。(Photo=McLaren)
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■ベッテル、予選失格の衝撃

レッドブル、マクラーレン、フェラーリらが順当にQ3に駒を進めたが、やはりハミルトンのペースが際立っていた。Q1、Q2でタイムシートの最上位に名を連ねた2008年チャンピオンが、9月の第14戦シンガポールGP以来、今季6度目のポールポジションを獲得した。

マーク・ウェバーのレッドブルがトップから0.348秒差の2番手につけ、チームメイトのベッテルをフロントローから引きずり下ろした。それでも3番手からレースをスタートできるベッテルが下を向く必要はなかった。宿敵アロンソはなんと7番グリッド。間にパストール・マルドナド、キミ・ライコネン、バトンという面々が“援軍”となってフェラーリの行く手を“邪魔”してくれるかもしれなかった。しかもここはDRSゾーンが2つあっても抜きづらいと前評判のヤス・マリーナ・サーキットだ。必勝覚悟で、2日間で2度も夜間作業をこなしてきたフェラーリには厳しいレース展開が予想された。

それが、予選を終えると形勢が逆転してしまう。ベッテルが予選失格を言い渡されたのだ。ベッテルはQ3最後のアタックを終えピットへ戻る途中、コース脇にマシンを止めてしまった。無線でチームから受けたストップの指示に従ったのだ。マシンは車検に通されたが、そこでサンプルとして抽出されたガソリンが規定の1リッターに満たず、スチュワードはベッテルを失格処分としたのだ。

F1技術規則の6.6.2には、上記の1リッターのサンプル提供に加え、(レーススチュワードが認めた)不可抗力を除き、セッション後にサンプルを求められた場合、マシンは自力でピットへ戻らなければならないと書かれている。ベッテルはこれに違反したことになるが、レッドブルはテレメトリー情報を提示しながら事情を説明、スチュワードはチーム側の言い分を認めた。

だが、燃料サンプルが1リッターに満たない。エンジンサプライヤーのルノーとともに調べたレッドブルは、燃料は十分残っていると結論付けたが、それはボディーワークを取り払わないと抽出できない場所にあるという。規則6.6.4には抽出手順が示されており、エンジン始動や車両部品(給油コネクターカバーを除く)を取り外す必要がないようにしなければならない、とあった。

ベッテルのマシンは、燃料の問題を調べるため、そしてマシンセッティングを大幅に変更するため、パルクフェルメ(車両保管所)から一度出され、グリッド最後尾ではなくピットからスタートすることになった。レース前にギアボックスを交換し、ギアレシオも変え、それまでストレートではもっとも遅いグループに属していたレッドブルを、直線でよりオーバーテイクしやすい仕様とした。

6番グリッドに繰り上がったアロンソと最後尾ベッテルの間には17台もの壁が立ちふさがり、さらに8番グリッドにはアロンソの真の味方であるフェリッペ・マッサも控えていた。
より速いマシンを駆るベッテルが一番後ろ、遅いアロンソが前といういびつなスタート順位が、チェッカードフラッグが振られる55周後にどう変わるのか。レース前に多くの注目が集まった。

リタイアしたハミルトンに代わって首位の座についたのがライコネン。レース終盤にはアロンソに詰め寄られるが、既に主導権を掌握していた。GP復帰後18レースで得た勝利で今年8人目のウィナーとなった。(Photo=Lotus)
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■トップ快走のハミルトン、マシントラブルでリタイア

19周を過ぎるまでは、レースはポールシッターのハミルトンのものだった。スタートでトップを守り、4番グリッドから2位にジャンプアップしたライコネンを従え、8周目までに約4秒のリードを築いていた。9周目、前方で速度を失ったナレイン・カーティケヤンにニコ・ロズベルグが接触、派手にクラッシュしたことで最初のセーフティーカーが導入されるが、15周目にレースが再開されるとハミルトンはまだライコネンを突き放しにかかった。

20周目、先頭のマクラーレンが突如失速しストップした。燃料系のトラブルといわれている。ハミルトンはシンガポールGP同様、トップ快走中にマシンが壊れ優勝を逃した。

その間、ピットレーンからスタートを切ったベッテルはといえば、早々にフロントウイングのエンドプレートを壊し不安を抱えながらも着実にポジションを上げていた。だが、セーフティーカーランまでに13位まで上昇したチャンピオンは、この徐行運転中、突然ブレーキを踏んだトロロッソを避けようとしコース脇の「DRS」と書かれた標識に追突してしまう。これでさらにウイングにダメージを負ったベッテルのマシンは、ついに14周目、ノーズとウイング、タイヤを交換。再び最後尾まで落ちた。

さまざまなアップデートパーツに身を包んだフェラーリ「F2012」だったが、ランキング2位から首位ベッテルを追いかけるアロンソにとっては力量不足が否めなかった。課題の予選では7番手タイムがやっと。ベッテルの予選失格で13点のギャップを詰める最大のチャンスが訪れたが、ベッテルの大躍進で3点しか縮めることができなかった。それでも「とてもハッピー」と変わらぬ前向きな発言。残り2戦でも決して諦めない姿勢を貫く。(Photo=Ferrari)
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■最後尾から2位に上がったベッテルの動向

ハミルトンのリタイアでトップに立ったライコネンは、翌周マルドナドを抜き2位に上がったアロンソから逃げようと飛ばした。5秒あったリードタイムが7秒まで開いた29周目、アロンソは最初で最後のピットストップを敢行。その3周後にライコネンがタイヤ交換のためピットに入りトップのまま復帰すると、なんとライコネンとアロンソの間には、ベッテルが2位として割り込んできていた。

ベッテルは14周目にミディアムからソフトタイヤに履き替えており、既に2種類のタイヤを使う義務は果たしていた。2位を守るため、ソフトタイヤで40周もの周回をこなすつもりなのか? カーナンバー1のレッドブルの動向に、まさか前を走られるとは思ってもいなかったであろうアロンソも注視した。

もちろん、レッドブルがそんな無謀な策に出ることはなかったが、ベッテルをピットへ呼び込んだタイミングが絶妙だった。38周目、フレッシュなソフトタイヤに履き替えてコースに戻ると、ベッテルは順位を2つ下げただけの4位。そしてその直後、これまた絶妙な頃合いでロメ・グロジャンとウェバーが事故を起こし、この日2回目のセーフティーカー出動となった。
これでベッテルとトップ集団とのタイム差が帳消しになり、レースが再開された43周目から、最後のスプリントレースが始まるのであった。

予選Q3で3番手タイムをマークしたポイントリーダーのベッテルは、その足でピットへ戻らずコース脇にマシンを止めた(写真)。これが今GPの“騒動”のきっかけとなり、ベッテルのレッドブルは燃料サンプルの容量不足で予選失格となる。ピットスタートから追い上げるもウイング破損で早々にまた最後尾へ。それでもクレバーかつアグレッシブな走りで次々と前車をオーバーテイクし、ついには3位まで順位をとりもどした。(Photo=Red Bull Racing)
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■チャンピオン経験者4人による攻防戦

1位ライコネンはファステストラップを連発し、2位アロンソを再度突き放しにかかった。程なくしてアロンソと3位バトン、4位ベッテルが連なり始め、この時点ではアロンソに大きなプレッシャーがのしかかかった。
それが47周目からフェラーリの底力が爆発、アロンソは最速タイムを塗り替えてライコネンとのタイム差を3秒から1秒台まで圧縮してしまうのだった。

その後方ではバトンにベッテルが肉薄。残り4周でレッドブルはマクラーレンをズバッと抜き去り、ベッテルは最後尾からポディウムの一角を勝ち取ることに成功した。

レース終盤のチャンピオン経験者4人による攻防戦は見応え十分の迫力だった。そして今年の栄冠を争奪するアロンソ、ベッテルの気迫に満ちたドライビングは、マシンの優劣を超えた、頂点を目指すドライバーの格というものをまざまざと見せつけてくれるものだった。

ザウバーの小林可夢偉(写真)は、15番グリッドからスタートで8位にジャンプアップ。その後チームメイトのセルジオ・ペレスがクラッシュの原因をつくりドライブスルーペナルティーで後退するのに対し、着実にポイント圏内で順位をキープし、10月の日本GPで3位に入って以来の入賞、6位でチェッカードフラッグを受けた。(Photo=Sauber)
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■その差は10点、残り2戦で50点

ベッテルは13点あったアドバンテージをわずか3点減らすだけでピンチをしのぎ切り、アロンソに10点差をつけ、アメリカ、ブラジルのファイナル2ラウンドへと向かう。

アロンソが期待していたフェラーリのマシンアップデートは不発に終わった。いよいよ後がなくなったスクーデリアのエースだが、レース後のコメントでは「とてもハッピー」と変わらずタイトルに前向きだ。

アロンソとて楽観しているわけではない。歴史あるチームの精神的支柱であるという自負が、常に仲間たちを鼓舞し、可能性がある限り挑戦を続けていく姿勢を支えているのだ。

「まさかの予選失格」「最後尾から3位挽回」「6番グリッドから優勝目前の2位表彰台」、いずれも予想だにしていなかった出来事だった。これぞF1における塞翁(さいおう)が馬。あと2戦で獲得できる最大ポイントは優勝25点×2=50点。これが誰にどの程度渡り、誰がチャンピオンとなるかは、最後まで分からない。

次戦では2007年を最後に開催が途絶えていたアメリカGPが復活する。舞台は、テキサス州に新設されたサーキット・オブ・ジ・アメリカズだ。決勝は11月18日に行われる。

(文=bg)

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