第2回:電気自動車タクシーとの出会い
高円寺の男
神楽坂でその男たちを乗せたのは深夜の1時を過ぎた頃だった。
「高円寺まで」
30歳代と思(おぼ)しき男はそう言い、高円寺のどのあたりですかと尋ねた運転手(=矢貫隆)に、「近くまで行ったら指示するから」とぞんざいに続けた。
この男、とにかく偉そうだった。会社は俺がひとりで背負ってる、仕事できるのは俺だけだ、みたいな調子で話し続け、同乗の若い男は「ごもっとも」と相づちを繰り返す。職場の後輩らしい。
男の携帯電話の呼出音が鳴ったのは、高円寺の直前、早稲田通りと環七の交差点に近づいたときである。「指示する」はずの男が電話にでた。交差点は近い。左折すれば高円寺駅の方向、直進すると高円寺の商店街が左に見えてくる。
交差点をどちらに行きますか?
「右折して下さい」
答えたのは後輩だった。
(右折?)
右折でいいんですか?
「はい。右折して下さい」
交差点を曲がり環七を走りだし、電話を切った男に尋ねた。
まだ真っ直ぐですか?
「どこだ、ここは!?」
男が言いだした。
「高円寺って言ったろう。何で右に曲がるんだよ。高円寺って言ったら、高円寺の駅のことに決まってんだよ」
男は怒鳴りつけるようにそう言い、年老いたタクシー運転手(=矢貫隆)の肩をとんとんと叩きながら偉そうに言うのだった。
「キミね、人の話はちゃんと聞いてなきゃだめじゃないか」
その瞬間、運転手はブチ切れた。
急ブレーキを踏んでクルマを止め、「ふざけんじゃねぇぞ」と言うが早いか振り返り、生意気男の胸元をつかんで「金はいらねぇから降りろッ」と怒鳴った。






