第44回:『ジャガーの“比較広告”』(その4)

2007.09.01 エッセイ

第44回:『ジャガーの“比較広告”』(その4)

ブラジルでつくられた「ジャガー」の広告や、1932年の「プリマス」の広告のように、こんなに効果があるのなら、なぜもっと比較広告が行われないのかと思われるであろう。しかし、1960年代、レンタカー会社で2位のエイビスが次のような広告を出した。ちなみに、1位はハーツ社である。

「エイビスはレンタカー業界で第2位です。エイビスに乗る人なんているでしょうか」「だから頑張ります」「ナンバーワンでない限りガンバリ続けなければ……。お客様は1人もないがしろにできません。ですから、次は当社をご利用ください。エイビスのカウンターはすいてます」この広告のおかげで、エイビスのマーケットシェアは、2年間で28%のびた。この広告で用いられた“We try harder”「頑張ります」は時代の流行語となり、「頑張ります」と書かれたバッヂが飛ぶように売れた。しかしエイビスは、業界1位に君臨するハーツ社の名前をほのめかすだけで、“最後の一線”を越えないように自粛した。ちなみに、“We try harder”のキャッチコピーは、現在もエイビスが使っている(エイビスのサイトはこちら)。

ナンバー1の掟破り

しかし、ハーツの市場シェアが、この広告によって55%から45%に落ちたため、ハーツの広告代理店カール・アーリーは、比較広告の伝統的タブーを破って、エイビスを名指しでけなす広告をつくったのである。

比較広告は、その業種の下位メーカーがトップメーカーに挑戦するのであって、トップメーカーは何をいわれても反応しない。反応すると、いわれたことを認めたことになるので聞き流すといわれる。1980年代から90年代にかけて、ペプシがコカコーラに挑戦的な広告をしかけたが、コカコーラは犬の遠吠えとして聞き流した。ファーストフードのウェンディーズが、マクドナルドに「Where is the beef?」と問いかける広告を出したが、マクドナルドは何の反応も見せなかった。

ハナシを、ハーツとエイビスに戻そう。レンタカー業界で1位のハーツがつくった広告は、こんな内容だった。
「長い間、エイビスはハーツがナンバー1だといい続けています。ところがナンバー2であるエイビスのレンタカーの台数は、ハーツの半分。営業所の数もサービス係の数も少ないのです。そのナンバー2がいえるのは、せいぜい“ウチのクルマの灰皿はきれいだ”ぐらいです」
この広告により、ハーツのシェアは半年間で45%から50.9%に回復したといわれるが、みっともない争いに「広告業界は気が狂ったのか」とつぶやかれるほどであった。

大手広告主が比較広告を好まなくなったのは、このようなことがあったからである。この後業界で自粛、米国代理店協会がいやいやながら比較広告を認めたのが、1974年のことである。

(参考資料:ステファン・フォックス「ミラーメーカー改革の時代」講談社)

(2003年5月3日)

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金子 秀之

金子 秀之

早稲田大学商学部卒業。資生堂のアートディレクターとして前田美波里のサマーキャンペーンを担当。1973年博報堂のクリエイティブ・ディレクターとして、サントリーの「ブランディ水で割ったらアメリカン」キャンペーンを手がける。1993年(有)クエスターを設立。広告製作及び海外広告の紹介をして現在にいたる。