第28回:『え、闘牛?(後編)』

2007.09.01 エッセイ

第28回:『え、闘牛?(後編)』

スウェーデンの自動車メーカーといえば、日本ではボルボに馴染みがあり、安全性の高いクルマづくりをし続けていることで有名だ。一方、同国の自動車メーカーで航空機メーカーでもあるサーブも、安全性の高いクルマづくりをモットーにする。ヒコーキとクルマをつくるサーブの、ちょっと変わった安全訴求広告。

クルマの安全性を示すのに、自社製品を壊すというコマーシャルをつくったサーブ。実はこういうコマーシャル、サーブで初めというわけではない。
1994 年に発売された、SAAB「9-3」の前身である「900」のCMに、このようなものがあった。どこにでもいそうな5人の男がサーブ900を持ち上げ、横方向にグルリと一回転させる。あたりまえだが、ボンネットが少しへこみ、サイドミラーが割れる。映像は、ボディがきしむ音や、ミラーなどが割れる音もきちんと再現する。男5人はその後、何事もなかったかのように、そのクルマに乗って走り去るのだ。

このコマーシャルについて、制作スタッフの1人である、コピーライターに話しを聞いた。
「この企画はサーブ側の研究結果から生み出されたもの。彼らは自社のテストで100台くらい壊した結果、他車と比較して55%ほど強度があるので、ひっくり返しても大丈夫だと思う、と申し出てきた。撮影は5〜6回行い、そのたびに新車を使用。結果的に採用したのは、2回目に撮影したものだった。
信憑性を高めるために、ディレクターが編集なしの1カットで撮った。ドアの小さなゴム部品が外れたが、これもカットしないことに決めた。その方が、信憑性が高いからね。ヘッドライトが割れる音などは、全部本物。編集のときに、ボリュームをちょっとあげただけだ」。

自社製品をわざわざ壊して、安全性を訴求するとはユニークだ。ただサーブのマネをして、ゆめゆめクルマで闘牛はなさらぬように。

SAAB 9-5 “Crashtest”/Switzerland
クリエイティブディレクター:Frank Bodin
アートディレクター:Eva Keigel-Markous/Michael Schonhaus
コピーライター:Carine Blumlein
エージェンシー:McCann Erickson/Geneva
(2000年ニューヨーク・アート・ディレクターズ・クラブ入選作品)

(2003年1月11日)

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金子 秀之

金子 秀之

早稲田大学商学部卒業。資生堂のアートディレクターとして前田美波里のサマーキャンペーンを担当。1973年博報堂のクリエイティブ・ディレクターとして、サントリーの「ブランディ水で割ったらアメリカン」キャンペーンを手がける。1993年(有)クエスターを設立。広告製作及び海外広告の紹介をして現在にいたる。