第5回:『ハーレー・ダビッドソンの広告 その1』

2007.09.01 エッセイ

第5回:『ハーレー・ダビッドソンの広告 その1』

ハーレーの広告はきちっとしたレイアウトで、写真も美しく、仕上がりが実にきれいである。ミネアポリスにあるカーマイケル・リンチ(Carmichael Lynch)という広告代理店が制作しているが、私の想像では少人数のスタッフで、すぐれたアートディレクターのもとで制作して、緻密に仕上げていると思われる。そしてハーレーの広告でもっとも優れているのは、コピーだ。


第5回『ハーレー・ダビッドソンの広告 その1』

5〜6年前、私はハーレーの広告を日本の雑誌に紹介しようと思って、カーマイケル・リンチにFAXを送った。2週間ぐらいたっても返事がこないので、2、3回催促のFAXを送ったら、「お前にハーレーの広告の良さがわかるか」という返事がきて驚かされた。
そんなことをいうなら……と、私は持っていたアメリカの企業の住所録でハーレー・ダビッドソン本社の住所を調べ、ミルオーキーのマーケティング・マネージャー宛に「この広告を日本の雑誌に紹介したいので許諾が欲しい」とFAXしたら、翌日の朝、東京芝のハーレー・ダビッドソン・ジャパンの広報室から、「本社からあなたのFAXが転送されてきました。私どもが協力いたします」と電話があった。さすが、ハーレー・ダビッドソン、とそのとき思った。

Harley-Davidson “Just released. The Harley−Davidson Bad Boy.”/USA

この“Just released”は、レコードの新発売のときに日本でもよく使われる言葉なので、ご存じ「ただいま新発売されました」というように、その製品が市場に新しく登場したという意味。

しかしビジュアルをよく見ていただきたい。背景の重厚な建物はいったい何なのか。これがこの広告のキーポイントである。なんと、アメリカ連邦の重犯罪人刑務所である。ここで気がついたのが、“release”にはもう一つ「釈放する」という意味があることだ。つまり「いましがた刑務所から釈放された、ハーレー・ダビッドソン・バッドボーイ」ということになる。いわゆるダブルミーニングが用いられたコピーなのだ。

この広告は、映像的によくできている。写真がいいし、構成力もいい。時間の計算がすごい。左サイドから光りによって早朝の感じを出している。写真の構図もいいが、全体の位置関係がよく、計算されたバランスでできている。
左上から右下の対角線上に、司令塔、オートバイ、右下のハーレーのマークをアクセントとして入れ、左側に林をいれている。この林がなかったら、殺伐としてしまうだろう。あなたの左親指で、左の林を隠してみてください。味気の無い写真になってしまう。ユーモアがあり、堂々としてクスグリも入れている。また。刑務所の建物の重厚な感じが、物陰にいかにも人がいそうな緊張感を作り出している。完成度の高い作品だ。

もし日本でこの広告をつくったならば、返ってくる言葉が想像できる。「うちのバイクは、犯罪人が乗るバイクと思っているのか?」と怒られ、制作者のクビが飛ぶ。1985年のカンヌ国際広告賞のグランプリ受賞作品に、100年後の世界にコカコーラは存在しない、というライバル会社ペプシコーラの挑戦CMがあって驚いた。制作した広告代理店に問い合わせたら、「フィクションの世界だから問題ない」ということだが、これと同じことを日本でやったら、一体どうなることであろう。

日本人はあまりにも真面目すぎるのか……、ユーモアがなさすぎるのか、考えさせられた。

Harley-Davidson “Just released. The Harley-Davidson Bad Boy.”
クリエイティブディレクター:Jack Supple / Jud Smith
アートディレクター:Warren Johnson
コピーライター:Jim Nelson
広告代理店:Carmichael Lynch
(1997年NYADC 雑誌部門入賞作品)

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金子 秀之

金子 秀之

早稲田大学商学部卒業。資生堂のアートディレクターとして前田美波里のサマーキャンペーンを担当。1973年博報堂のクリエイティブ・ディレクターとして、サントリーの「ブランディ水で割ったらアメリカン」キャンペーンを手がける。1993年(有)クエスターを設立。広告製作及び海外広告の紹介をして現在にいたる。