ダッジ・キャリバー SXT(FF/CVT)【試乗記】
「ネオンの悪夢」 2007.06.15 試乗記 ダッジ・キャリバー SXT(FF/CVT)……294.0万円
「かわいいらしさとは無縁のクルマ」と自らを紹介するダッジ・キャリバー。日本への正規輸入が始まったマッチョなベーシックモデルに、沖縄で乗った。
前門の国際市場
「ダイムラークライスラー社が、業績不振のクライスラー部門を分離!」
……というニュースと前後するかのように日本への導入がはじまったダッジブランド。ダッジは、クライスラーグループがもつブランドのひとつで、グループ内では、ちょっと高級な「クライスラー」、ワイルドな「ジープ」、そして大衆的な「ダッジ」といった棲み分けがされる。いまの日本でのダッジの知名度はごく低いが、北米でのダッジは、クライスラーグループ内での最量販ブランド、稼ぎ頭なのだ。
あいにくのタイミングとなったダッジ日本上陸だが、アメリカの国内ブランドのイメージが強かったダッジが「積極的に世界に進出しよう!」と戦略を変えたのは、2002年ごろだという。
北米大衆車市場でのアメリカンメーカーは、ご存じのとおり日本車、韓国車に押されっぱなし。一方、欧州、中東などでダッジ車に関する消費者の反応を調査してみたところ、へたに国際化されていないのが功を奏したか(!?)、意外に好評。「商機あり」と判断されて、後門の日韓車を見ながら、前門の国際市場にトライすることになったわけだ。
日本には、中型セダンの「アベンジャー」、弟分の5ドアハッチ「キャリバー」、そしてミドルクラスSUV「ナイトロ」が輸入される。販売、メンテナンスはクライスラーネットワークを通じて行なわれる。
まずはボトムレンジモデルたる「キャリバー」に乗った。
200万円後半
2006年のデトロイトショーでデビューしたダッジ・キャリバー。ラインナップからいうと、「ダッジ(クライスラー)・ネオン」の後継モデルにあたる。“日本車キラー”と鳴り物入りで登場し、あえなく返り討ちにあったベーシックモデルである。
「いずれもクライスラーグループ最大級!」と謳われるヘッドランプとテールランプをもつ5ドアボディは、SUVとハッチバックが融合した、流行の言葉でいうところのクロスオーバースタイルを採る。「クロスヘア」と呼ばれる十字をつけたこれまた大きなグリルが、まごうかたなき“ダッジ”を主張する。
もりあがったフェンダー、後上がりのショルダーライン、ゴツいバンパーと、まんまアメリカンコミックから抜けだしたかのマッチョな姿。グローバル化が進み、国籍、メーカーを問わず、スマートに差別化を図るクルマ群を見慣れた目には、ある種のエキゾチシズムさえ感じられる。
いかつい外観のキャリバーだが、4420mmの全長は、「トヨタ・プリウス」よりむしろ25mm短く、1800mmの横幅は75mm増しと、想像ほどは大きくない。全高は、立体駐車場は危うい1550mm。トウモロコシ畑が広がるイリノイ州生まれのクルマにとっちゃあ、極東の島国の事情なんか知ったこっちゃない、といったところ、か。
ドアを開けて高めの位置にあるシートに座ると、プラスチック然としたパネル類に囲まれる。底がリング状に光るカップホルダーが自慢で、グローブボックス内には冷蔵機能が備わり、MP3プレイヤーを収納できるホルダーが、前席左右間のコンソールに設けられる。
機能的だが、見た目はおおざっぱ。
「いかにもアメリカ車らしいプラグマティズムが感じられ、惜しげなく使えてよい」と、外野の気楽さで言うことはできるが、実車を売る側は、少々アタマが痛かろう。
「カッコはいいんですけどね、もうすこしインテリアをなんとかしてほしいですね」と、日本語堪能な輸入元トップも言っていた。
お値段は、ベーシックな「SE」が263万5500円。1インチ大きな18インチを履き、クロームで内外を飾り、オーディオ類が充実、などの上級版「SXT」は294万円。「2リッター直4+CVT」の輸入車としてリーズナブルといえましょう。どちらも右ハンドルだ。
「カッコいい!」だけでは……
キャリバーのパワーソースは、三菱、ヒュンダイとの共同開発になるワールドエンジン。1.8から2.4までの排気量を揃えるファミリーユニットで、可変バルブタイミング機構を備え、2本のバランサーシャフトをもつ。
日本に入る2リッター直4のアウトプットは、最高出力が156ps/6300rpm、最大トルクが19.4kgm/5100rpm。JATCO製CVTが組み合わされ、10/15モードのカタログ燃費は11.4km/リッターと記載される。
開発当初から右ハンドル仕様がメニューに挙がっていたというだけあって、運転姿勢に不自然を感じることはない。左足フットレストがないのが、なんだか落ち着かないが。
やわらかく、クッションがたっぷりしたシートは、意外や腰部分のホールドがしっかりしていて、装備表の「布製バケットシート」の表記は伊達ではない。高めのドライビングポジションゆえ、前方視界がいいのはありがたいのだが、大きなサイドミラーが右折時に視界を遮るのが気になった。
運転感覚は、なんといいますか、アメリカに行ってレンタカーで借りるサブコンパクトって「こんな感じだよなぁ」といったところ。エンジンはうるさめで、ダッジのプログラムが与えられたCVTは、トルコン式オートマと勘違いするばかり(?)に自然なCVTが増えるなか、相対的にCVTらしい。ときに、予想以上にエンジン音が高まることがある。
キャリバーのCVTは、擬似的に6段のギアが切られた「マニュアルモード」付き。ダイムラー譲りか、シフターを左右に動かすことでギアを変えられる。ためしに6000rpm強まで回してシフトする全力加速を敢行すると、ロウで70km/h、セカンドで90km/hまでをカバーする加速重視のギアリング。
驚いたのは、ギアが変わるたびステアリングが取られるトルクステアが顕著なことで、これまた販売する側はアタマを痛めそうだ。速度感応型の電動パワーアシストにも、もうすこし煮詰めが必要と感じられた。
キャリバーはボリュームゾーンのクルマだが、成り立ちからいうと、実用車のシャシーに流行のボディを載せたかつての「セクレタリーカー」「デートカー」に近いものがある。だから、スポーツカーのような動力性能を求めることは妥当ではない。
けれどもリポーターには、「カッコいい!」や「楽しげ!!」、はたまた「アメリカン!!!」だけではカバーしきれない部分があるように思えた。格差広がる一方の日本の社会だが、万が一、発売と同時に“安物”とのレッテルを貼られるようなことがあったら、かつてのネオン同様、その後のリカバリーは望めない。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。