フォード・マスタングV8 GTクーペ プレミアム(FR/5AT)【ブリーフテスト(後編)】
フォード・マスタングV8 GTクーペ プレミアム(FR/5AT)(後編) 2006.12.22 試乗記 ……460.0万円 総合評価……★★★★ 走り出してみても“要改善事項”を指摘したくなる「マスタング・クーペ」。しかし、悪いところばかりでもなく、否、悪いところさえも超えた、独特の世界を味わえるクルマなのだ。【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
デロデロデロ……といういかにもアメリカンV8らしい排気音を響かせる4.6リッターエンジンは、最高出力304ps、最大トルク44.2mkgとスペックも強力。しかしスロットル―――ここではガスペダルと言うべきか―――の反応は過敏ではなく、いきなりガバッと踏み込まない限り、滑らかに、されど力強く走り出すことができる。
吹け上がりは重々しいが、しかし緻密な印象もあり、回るのを拒むわけでもない。いざ踏み込めば、デロデロデロ……という音の粒を次第に整えながら嬉々として6000rpmからのレッドゾーンを目指し、豪快な加速を楽しませてくれる。
厳しく見ればトップエンドでは回転の勢いは鈍っているのだが、押し寄せるトルクの塊が、そう感じさせない迫力を演出しているのだ。
トランスミッションは5段AT。性能としてはそれで特に不足はないが、変速マナーはあまり褒められたものではなかった。シフトアップでもダウンでもシフトショックが全体に大きめ、より具体的に言えば、回転合わせがどうも上手くないという印象なのだ。なまじトルクがあるだけに、どうにも気になってしまう。
また、シフトゲートにカチッとした節度感が足りず、ちょっと力が入っていると、すぐにどこに入ったのか解らなくなってしまうのも要改善である。
しかし、実際にはATはDレンジに入れっぱなしとなるはず。あえて自分で変速するなんて乗り方は、マスタングには相応しくない気もするからである。もっとじっくり付き合って、マスタングの個性に自分の色を重ね合わせてみたいものだと、試乗中ふと思った。そんな独自の世界が、そこにはあるということだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
発進しようとアクセルを踏み込むと、一瞬リアがグッと沈み込む。アンチスクォートジオメトリーの盛り込まれていないリジッドのリアサスペンションが、そんな古き佳きアメリカンマッスルらしいテイストの要因である。なるほど、この瞬間のためにこそ、古典的なこの形式は選ばれたのかもしれない。
軽い操舵力のステアリングはシャープな反応を示し、市街地などでは想像していた以上の軽快な身のこなしを楽しめる。しかし、高速走行時は逆にもう少し穏やかでもいい。ステアリングの反応の鋭さにタイヤがついてこないようで、動きがどうにもビシッと収まらないからだ。
標準装着のタイヤはアメリカ車に多いオールシーズン。やはり日本仕様はサマータイヤが欲しいところである。始終ワナワナしている乗り心地も、これでかなり改善されるはずだ。
このタイヤにリジッドのリアサスペンションだから、高速道路のランプウェイの途中にある舗装の継ぎ目を通過した時など、ステアリングはとられリアタイヤは暴れて、ちょっと怖い思いをすることも。実際に挙動が危ないほど乱れるわけではないが、これがいかにも古めかしい動きなのである。
ところが、その後で撮影のためにコーナーの連続をそれなりのペースで飛ばしてみたら、これが意外やこちらの意思をよく汲んで、俊敏なところを見せてくれた。タイヤのたわみを意識してステアリングを切ってやれば、最初に感じたシャープさをそのままコーナリングに活かすことができる。路面が平坦ならばリアの動きも自然で前後バランスの方も抜群。気付くとどんどんペースが上がってしまうくらい、コーナリングが楽しいのだ。
やはり欲しいのはサマータイヤ。そうすれば、フロントに316mm径のディスクローターを配しているとは思えないブレーキの甘さも解消されるだろう。
(写真=荒川正幸(A)、高橋信宏(T))
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年10月23日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年式
テスト車の走行距離:1865.4km
タイヤ:(前)235/50ZR18(後)同じ(いずれも、BFグッドリッチg-ForceT/A)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:104.1km
使用燃料:26.52リッター
参考燃費:3.9km/リッター