サーブ9-5エアロ2.3TSエステート(5AT)【試乗記】
スポーティのインフレ 2002.02.26 試乗記 サーブ9-5エアロ2.3TSエステート(5AT)……555.0万円 インテリジェントな雰囲気とインディビジュアルなスタイルで個性を主張するスカンディナビアの自動車メーカー「サーブ」。同社のアッパーミドルクラス「9-5」シリーズが、ビッグマイナーチェンジを受けた。何が変わったのか? webCG記者が試乗した。
キーワードは「スポーティ
1998年に登場したサーブ9-5シリーズが、2002年モデルからニューバージョンとなった。内外装に約1200カ所の変更を受け、ATトランスミッションが1段増やされて5ATとなり、アンチスピンデバイスたる「ESP(Electric Stability Program)」が全グレードに搭載された。日本流にいう、"ビッグマイナーチェンジ"である。
キーワードは「スポーティ」。ラグジュアリー仕様の「グリフィン」がカタログから落とされる一方、空力パーツをまとった「エアロ」が登場した。ラインナップは、サルーン、エステートとも「リニア(Linear)」「アーク(Arc)」「エアロ(Aero)」の3種類で構成され、エンジンはそれぞれ2.3リッター直4低圧ターボ(185ps、28.5kgm)、3リッターV6低圧ターボ(200ps、31.6kgm)、そしてHOT(High-Performance Output)ユニットと呼ばれる2.3リッターターボ(250ps、33.7kgm)が搭載される。
価格は、サルーンが435.0万円、515.0万円、530.0万円。エステートはいずれも25.0万円高となる。「エアロ」のみ、受注生産で5段MT車が購入可能だ(520.0万円/545.0万円)。
ATが5段化されたワケ
9-5シリーズのトップモデル、エアロ2.3TSエステートに乗った。
弟分「900」が98年に「9-3」に変わったとき同様、実質本位の変更ゆえ、95シリーズの外観に新旧で大きな違いはない。空力特性を強調したバンパー、クリアレンズが採用されたヘッドランプ(ハイ、ロウともキセノンライト)、クロームで縁取りされたグリルが両者の識別点。スカンジナビアンメーカーらしいクリーンなスタイルだ。
クールな印象は室内でも変わらず、高性能版たるエアロは、インストゥルメントパネルとして「ウッド」に代わり「メタルフィニッシュパネル」が使われる。ふわりとした柔らかな座り心地は同じながら、シートはセミバケット(という語感よりよほど控えめだが)タイプとなった。
エアロの2.3リッター直4ターボはプレッシャーが1.5bar上げられ、ピークパワーは3リッターモデルを上まわる250ps!! 。かつてのジャジャ馬「9-3ビゲン」でさえ230psだったのに……。もちろん使いやすさにも考慮され、最大トルクの33.7kgmはわずか1900rpmで発生する。
5段ATはスムーズ至極。走行状況にあわせてシフトタイミングやパターンを自動的に選択する。「従来の4段ATでもサーブ伝統のターボユニットとのマッチングはよく、プレミアムカーとしても何ら不満はなかった」とリポーターは思う。今回のオートマチック5段化は、従来のトランスミッションでは、トップグレードのエンジンアウトプットを吸収しきれなかったためだという。ニューATは、アイシンAW社製である。
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個人的な心配
シャシーも強化された。前後とも、スプリング、ダンパー、アンチロールバー、さらにはブッシュまで再チューニングが施され、足まわりは全体に硬められた。ホイールは17インチ。
エアロ2.3TSは速いクルマだ。特に高速巡航は得意で、スロットルペダルに軽く足を載せておくだけで、過給器がソッと背中を押して続けてくれる。「ハードに振られたサスペンション」と聞いてすこし心配したのだが、路面の凹凸を優雅にいなしながらのフラットな乗り心地はそのままだった。9-5シリーズの変わらぬ美点である。一方、乱暴にスロットルを開けた際のステアリング系への干渉も、相変わらず無視し得ないものだったが……。
2002年型の9-5エアロは、ルックス通りに「スポーティ」なクルマである。ブーストアップされたパワーソース、容量が増やされたトランスミッション、タフなシャシー、底上げされた動力性能に応じて、限界域一歩手前での挙動制御を司るESPの採用……。
しかしサーブは、従来、たとえばリアサスペンションのトーアウトを許容する独特のセッティングで「スポーティ」を演出し、また乗り心地と上手にバランスを取ってきた。知的な解決法と申しましょうか。リポーターの趣味的嗜好を前面に押し出すようで恐縮だが、このままスポーティのインフレが続くと、「ニッチなプレミアムメーカーの魅力が破綻するのでは」と、個人的にはやや心配。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2002年2月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。