バイクで階段を駆け上がる
『ボーン・アイデンティティー』でも、CIAは監視カメラ映像を分析してジェイソンの逃亡を阻止しようとしていた。しかし、10年の隔たりがあるとシステムの精度が大幅に違う。前はカメラの解像度も低いし、パソコンのモニターはブラウン管だった。今度は映像の中のクルマを捉えて形状を分析し、すぐさま車種と年式が判明してしまう。逃亡者にとっては、技術の進歩はまったくもって迷惑な話だ。
「ボーン・シリーズ」といえば、カーチェイスである。『ボーン・アイデンティティー』では、パリの路地を「ミニ」で駆けめぐった。これがとんでもなくボロいクルマで、ボディー色は赤なのに右フェンダーが取り換えられていてそこだけ黒い。タイヤのバランスが悪くて、まともにまっすぐ走れない代物だ。それでも車幅とほとんど変わらないぐらいの狭い道を疾走し、階段があってもそのまま駆け下りていく。クラシックミニの活躍する映画といえば『ミニミニ大作戦』があるが、それをしのぐ迫力だと思う。
今回の映画でも当然その伝統は受け継がれていると期待したのだが、なかなかそういうシーンが登場しない。じりじりしていたら、ちゃんとラストに派手な場面があって安心した。ただし、今回はミニではないし、クルマですらない。バイクに二人乗りして、追手を振り切ろうとする。走るのはマニラの市街地だ。渋滞の中でクラクションが間断なく鳴り響き、ジープニーが不規則な動きを繰り返す。アジア特有の混沌(こんとん)とした道路状況の中では、四輪より二輪のほうが有利だ。「カローラ・アルティス」のパトカーでは相手にならない。
しかし、バイクに乗った刺客が現れる。条件は互角だ。路地から路地へ、そしてジープニーの間を縫って、バトルが始まる。ここでも、第1作へのオマージュは忘れていない。ミニとは逆に、今度は階段を駆け上がるのだ。
第1作を意識した展開は、ほかにも用意されている。これまでの作品を知っていたほうが、より楽しめるだろう。何より、ストーリーが複雑で入り組んでいるから、全体像がつかみづらい。できれば3部作を観なおしてから映画館に出掛けるのがオススメだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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