オトナの国の、クルマとの付き合い

この『トップ・ギア』という番組は、コンピューターグラフィックスで何でもできる時代に、クルマという物理的手段を実際に改造し、動かしているところに価値がある。したがって、たとえかなりの部分に演出がうかがえても、前述のモンティ・パイソンの風刺に比肩する痛快さを見る者に与えてくれる。
同時に、彼らは高級車を平気で徹底的に改造し、結末をたびたびクルマの破壊で締めくくる。それらは、しょせんモノにすぎないクルマを、いまなお過度にあがめ奉っている日本では到底できない企画である。
“機械を機械と割り切れる”国民にしかできない遊びかただ。そうしたメンタリティの背景には、かつて産業革命を成し遂げ、第二次大戦直後には世界第2位の自動車生産国に躍り出ながらも、後年いわゆる「英国病」の影響で国際競争から脱落する、という紆余(うよ)曲折の工業史があるとみた。スタッフたちはまったく意識していないだろうが。

その傍らで、2003年放送の「不滅のハイラックス・チャレンジ」も印象的だった。トヨタ製ピックアップを、海水にさらす、家に突っ込ませる、放火するなど、徹底的に傷めつけた揚げ句、廃マンションとともに爆破するという企画だ。
ラストではがれきの中から拾い上げ、メカニックが企画のルールに従って、車両備え付け工具だけで“復活”を試みる。試行錯誤ののち、やがてエンジンが掛かり、マフラーから煙が上がる映像が流れると、そのシーンを追っていたスタジオ観覧者から大歓声が沸いた。

これもどこまで演出であるかを議論するのは、この際やめよう。それよりも、よみがえりをたたえるという、明らかにクルマを擬人化していることに注目したい。クルマへの愛を感じるのだ。

容赦なく改造し、傷めつけるいっぽうで、息を吹き返すの祝う。イギリス人とクルマの関係の奥深さは、「お笑い自動車バラエティー」にも垣間見ることができるのである。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

2007年「水陸両用車への挑戦」に登場した「フォルクスワーゲン・キャンパー(改)」。
2007年「水陸両用車への挑戦」に登場した「フォルクスワーゲン・キャンパー(改)」。 拡大
2003年「不滅のハイラックス・チャレンジ」の主役。番組内では「廃ビルとともに爆破されても、標準工具による調整だけでエンジンがよみがえった」というストーリーが展開された。
2003年「不滅のハイラックス・チャレンジ」の主役。番組内では「廃ビルとともに爆破されても、標準工具による調整だけでエンジンがよみがえった」というストーリーが展開された。
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参考までに、ナショナルモーターミュージアムは16世紀以来、地元貴族モンタギュー家が治める領地内にある。写真はモンタギュー家の歴史的居城。
参考までに、ナショナルモーターミュージアムは16世紀以来、地元貴族モンタギュー家が治める領地内にある。写真はモンタギュー家の歴史的居城。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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