クルマから伝わる人物像

イタリアの警察ものドラマに目を向ければ、たとえ一部に車両協力はあっても、前述の日本版刑事物のごとく一部のクルマを目立たせるような演出は残念ながらない。
今日パトロールカーといえば(もちろん例外はあるが)「アルファ・ロメオ159」かフィアットの「ブラーボ」「プント」と相場が決まっているので、ストーリー上で空想を膨らます余地がないのだろう。

いっぽうイタリア映画におけるクルマを観察するのは面白い。一例として、2008年の映画『Scusa ma ti chiamo amore』がある。当代の人気作家フェデリコ・モッチャの小説を映画化したもので、和訳すれば「ごめん、君は恋人」といったところだ。

以前も本欄で短く紹介したことがあるが、恋人と別れたばかりの30代後半のおやじが、バイクに乗る女子高生と接触事故を起こすことから始まる、年の差ラブストーリーである。
女子高生ニキのバイクは「アプリリア・スカラベオ」、人気俳優ラウル・ボーヴァ演じるおやじ広告マンが乗っていたのは「メルセデス・ベンツMLクラス」である。いずれも現代イタリアで、いかにもありそうな取り合わせだ。さらに高校生たちが賭けを行う郊外の脱法スタントカーショーには、「MINI」「日産ミクラ(日本名:マーチ)」「フォードKa」などが登場する。

だがボクにとって最もまぶたに浮かぶイタリア映画のクルマは、日本でも話題になったジュゼッペ・トルナトーレ監督『ニュー・シネマ・パラダイス』のものである。
ストーリー後半、故郷シチリアに戻った主人公は、初恋の女性エレナに再会するため「メルセデス・ベンツ190E」で夜の波止場へと赴く。そこにエレナは、「ランチア・テーマ」の初期型に乗って現れる。再会した2人はテーマに乗り、しばし時を過ごす(なお、バージョンにより、このシーンはカットされている)。
作品が発表されたのは1989年だ。映画産業でそこそこ成功した人物という設定の主人公が乗るクルマとして、190Eはまさに“適役”であった。またエレナは地元の裕福な家の娘ということで、これまたランチアがぴったりだった。

「メルセデス・ベンツ190E」(W201型)
(写真=ダイムラー)
「メルセデス・ベンツ190E」(W201型)
(写真=ダイムラー) 拡大
初代「ランチア・テーマ」。これは後期型。
(写真=フィアット)
初代「ランチア・テーマ」。これは後期型。
(写真=フィアット) 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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