「セン」じゃなくて「バッテリー」なら…

彼女がイメージする電気自動車とは、つまり路面電車やトロリーバスのごとく屋根にパンタグラフがあって、電線を伝って走る乗り物であり、「セン」は「線」で、パンタグラフや電線を漠然と表したものなのだから「ほんとに電気自動車なのかしら?」の疑問が浮かんだのは成り行きとしては当然だったのかもしれない。

お母さんとタクシー運転手が互いの主張を理解し合ったとき、つまり運転手が「セン」を理解し、お母さんが「電気自動車はバッテリーで……」を理解したとき、リーフタクシーはすでに四谷三丁目の交差点を越え、四谷駅前もとっくにやり過ごし、麹町警察署前を過ぎて半蔵門の交差点を右折しようとしていた。

「電気自動車って『ビューン』って走れるんですか?」

他にクルマの姿がない片側4車線のお掘り端の道(内堀通り)を走りだしたのと同時くらいに、娘が聞いた。表現を変えれば「電気自動車は『ビューン』って走れないんでしょう」と言っているも同然だった。

いや、ビューンって走れるんですよ。

運転手の言葉に間髪入れずに「じゃ、やってみてよ」と言ったのはお母さんである。運転手は手元のレバーを「エコモード」から「ドライブモード」に変え、同時にアクセルペダルをググッと踏み込んだ。

シャ〜〜〜ッ。

「あらやだ、速いわね、このタクシー」(お母さん)
「キャ〜、すご〜い。楽し〜い」(娘)
どうですか? 電気自動車?
「ジェットコースターに乗ってるみたいな感覚でした」
娘は満足したような口調でそう言った。

新幹線(斉藤孝良さん)、東京モノレール(俺)ときて今度はジェットコースター。みんなが電車を連想したのは偶然だろうか。

お母さんの感想は?
「あらやだ、『セン』じゃなくて『バッテリー』なら、このタクシー、ほんとは『電池自動車』っていうんじゃないの?」 

確かに。

(文=矢貫隆/写真=荒川正幸)

矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、 ノンフィクションライターに。自動車専門誌『NAVI』(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同『CAR GRAPHIC』(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 『自殺-生き残りの証言』(文春文庫)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、 『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。

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