恋人のために書いた脚本で恋人に操られる?

ルビーを演じるゾーイ・カザンが、この作品の脚本を書いている。名前からピンとくるように、彼女は誉れある映画一家の出だ。祖父は、巨匠エリア・カザンなのである。

ゾーイは、カルヴィンというキャラクターを恋人のために作り上げた。それがポール・ダノ、つまりこの映画でカルヴィン役をやっている彼だ。この二人は実生活でもカップルなのだ。ややこしいことに、映画ではカルヴィンが書いた小説が実体化して恋人ルビーが現れるのだが、実際にはルビーことゾーイが書いた脚本によって恋人ポールをカルヴィンに仕立てあげたのだ。

このカップル、ビジュアル的にはイマイチ感が拭えない。カルヴィンはシャープさとは無縁の人畜無害な顔つきで、小ぎれいではあるものの何の冒険もないオタクっぽい装いだ。そういえば、『リトル・ミス・サンシャイン』では彼はニーチェにかぶれた童貞少年の役だった。対して、カラータイツ大好きなルビーは独特の色彩センスの持ち主である。ルックスもスタイルも、AKB48で言えば総選挙ランク外レベルだろう。飼い犬のスコッティがこれまたブサ犬で、そろって散歩する姿が絵にならないことおびただしい。

それでも、恋人同士がむつみ合う姿は多幸感にあふれている。ゾンビ映画を見てゲーム場で遊びクラブで踊っていれば、楽しい時間が過ぎていく。幸せは永遠に続くように思えるだろう。でも、ある日お互いに相手に期待していたのと違う部分があることに気付く。カルヴィンは、ルビーをコントロールしたいという欲望に逆らうことができない。彼女は、自分が作り出した理想の恋人なのである。文章を書き換えれば、彼女の性格も行動も、思いのままだ。

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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