小屋の中から見つめるおばさん

変わって次は街角編である。
【写真5】は郊外の道に駐車していた車両だ。ドレスアップしたフロントグリルの片隅には、「武士道」の文字がプリントされている。
こちらでチューニング系パーツに漢字をプリントするのは今に始まったトレンドではないが、日本人から見るとヘンテコな書体が多い。対してこの「武士道」は、かなりちゃんとしたフォントである。前面にこびりついた無数の虫が疾駆してきたムードをさらに盛り上げている。もしオーナーがいたら、ドライブ用BGMとしてYMOの「ライディーン」を薦めてあげたかった。

【写真6】はフィレンツェの大型ショッピングセンターで発見した買い物用カートである。
とかく子どもはカートを押したがるゆえ、おぼつかない操作で他の客にぶつけたりして迷惑をかける。しかし、これなら子どもを“クルマ”に乗せてしまえるうえ、子どももそこそこ“コクピット感覚”が味わえて満足であろう。ナイスなアイデアだ。車体側面のマークからわかるとおり、洗剤メーカーのキャンペーンを兼ねたものである。

いっぽう次の【写真7】は、イタリアで以前からよく見かける光景だ。
これは、魚など水分を含んだものや冷やしておかなければならないものを運ぶときに用いられる手法である。そのため、湖や海の近くだと目撃する頻度がいきなり高くなる。このままでアウトストラーダを走っているドライバーがいるのに驚くいっぽうで、市街地ではネコが獲物を狙って飛び出してこないか、心配でもある。

しかしながら今回のグランプリは、スーペルストラーダ(アウトストラーダより一級下の自動車専用道路)沿いで見つけた【写真8】の小屋に贈呈したい。このワインレッドの小屋は、ANAS(アナス)という旧公団系の道路会社のもので、イタリアの国道やスーペルストラーダを走れば、必ず目にする。
アナスの小屋は、このような小さな資材保管用の無人小屋から、大きいものでは「カントニエーレ」とよばれる道路管理作業員が家族と住める駐在所タイプまで、さまざまである。
ちなみに駐在所タイプの中には、近年の株式会社化を機に払い下げられたものもあるらしく、次の人が壁の色を変えずにそのまま住んでいる、ややこしいものもある。

写真に話を戻そう。【写真8】で注目すべきは左に貼られたアインシュタイン風ステッカーではない。柵付き窓の中である。人形がのぞいているのだ(【写真9】)。人形の出来が稚拙すぎるせいか、フェラーリのレーシングドライバーにも、帯を巻いた日本のおばさんにも見える。
それはともかく、たとえ民営化しても役所然とした道路会社にも、こんなユーモアを備えた管理作業員がいることに、ホッとしたボクだった。

発見した日以来、毎回そこをクルマで通過するたび、今日も彼女が健在か、一瞬確認してしまうようになったのは言うまでもない。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

【写真5】「武士道」ステッカー。
【写真5】「武士道」ステッカー。 拡大
【写真6】クルマ付き買い物カート。
【写真6】クルマ付き買い物カート。 拡大
【写真7】イタリアの伝統的保冷運搬法。
【写真7】イタリアの伝統的保冷運搬法。 拡大
【写真8】シエナ郊外のアナス小屋。
【写真8】シエナ郊外のアナス小屋。 拡大
【写真9】窓からのぞく女性?
【写真9】窓からのぞく女性? 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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