日本式は通じない!

ところで日本の技術は、モノ単体だけではなく、背後にあるインフラとメンテナンスするシステムに支えられていることがよくある。
例えば新幹線は世界に誇る安全なモビリティーである。それは車両本体のみならず、高度な列車制御と、主要路線では今日まで開通以来守られてきた「専用線」があることは明らかだ。
おサイフケータイやスイカ/パスモ機能の付いた携帯電話、いわゆる“ガラケー”は、コンビニや自動販売機、さらには各鉄道会社とのチームワークによって成り立っている。

いずれも素晴らしいものでありながら、日本の新幹線システムは海外の受注合戦でライバルたちにたびたび負け、携帯電話はご存じのとおり世界2強の作るスマートフォンに気がつけば惨敗していた。
その背景には、日本のような高度なインフラを構築し、維持・管理することはかなり難しく「それを構築するくらいなら……」と別の選択肢を取られてしまったことがあるのは明白である。

今回イオンとC-ZEROの生産休止で、「日本の電気自動車も、国内の常識が世界で通用すると勘違いすると、“ガラケー”の二の舞になるゾ」と、今から心配しているボクである。

いきおいついでに、日本のように考えてはいけない実例として、もうひとつ。それは宅配システムである。
日本の宅配が好評な背景には、よく教育された礼儀正しいドライバーとともに、高度な物流システムと年中無休・全国均一のサービスがある。日本や米国ではあたかもフルタイムサービスのようにうたわれる国際クーリエ会社も、イタリアでは土日祝日は休み。平日もボクが住むシエナは県庁所在地にもかかわらず午後にならないと集配にやって来ない。最寄りの基地が前述のフィレンツェにあるためだ。

さらにうっかり不在にすると、たとえ重要書類でもポストに投げ込まれてしまったり、「数十キロ離れた物流センターまで取りに来ること。さもなくば差出人に返送」とぶっきらぼうに書かれたステッカーが投函(とうかん)されていたりする。
そうかと思えば、あるとき待っていた書類が届かないので問い合わせたら、しばらくして見知らぬおばあさんが国際クーリエの封筒を持ってわが家を訪ねてきた。聞けば、ドライバーのマンマ(お母さん)だった。どうやらドライバーはボクが不在だったものの、物流センターまで取りに来させるのをかわいそうに思い、自宅に書類を取り置いていたら何がなんだかわからなくなってしまったようだ。国際標準のサービスを掲げる企業でも、こちらではこちらの論理で動かしてしまう。

日本で空気のごとく享受しているモノが国外でも同様に機能すると錯覚してはいけない。さまざまな危険が、いろいろなところに潜んでいるのだ。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

ただし、配線の取り回しには、それなりの苦労があるようだ。
ただし、配線の取り回しには、それなりの苦労があるようだ。 拡大
イタリアの自動販売機は、保守点検や保安上、雨風の当たらない屋内に設置されている場合が多い。
イタリアの自動販売機は、保守点検や保安上、雨風の当たらない屋内に設置されている場合が多い。 拡大
ミラノ地下鉄の車いす用リフト。あまりにきれいにブリントされた「FUORI SERVIZIO(故障中)の文字に、使用不可期間の長さを想像してしまう。
ミラノ地下鉄の車いす用リフト。あまりにきれいにブリントされた「FUORI SERVIZIO(故障中)の文字に、使用不可期間の長さを想像してしまう。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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