外国人の目でないとわからない

そのフタ問題はといえば、後日水をかけることによって、あっけないほど簡単に開くことが判明した。同時にボクが知ったのは、「絞り出し用パッケージ」という改良型が存在することだった。これなら、マメをつくらなくて済む。 

それをボクが知ったマーマイトの製品ウェブサイトはなかなか傑作だ。トップページからいきなり、「マーマイト大好き」と「マーマイト大嫌い」を選択するようになっている。
「大好き」を開くと成分やマーマイトを使ったおすすめレシピが、「大嫌い」を選択すると、「あなたのサンドイッチを台無しにするマーマイトレシピ」といった内容に進めるようになっている。
よく見ると買ってきた瓶にも「マーマイトに対する親しみを詩につづったりすることは、私には考えられない」といった、笑ってしまうフレーズが記されている。

こうした自社製品のデメリットを逆手にとる方法で思い出すのは1960-70年代に展開されたフォルクスワーゲンの広告である。
例えば、クルマの写真がまったくなく「1962年型は特にご覧いただくものはありません」というコピーだけの広告。華やかなモデルチェンジが怒濤(どとう)のごとく行われていた当時の米国で、ビートルが相も変わらず同じスタイルであることを自嘲しながらも、詳しい説明にはばっちりと真面目な改良点が記されていた。

そうしたフォルクスワーゲンの名作広告を作ったのは、世界的な広告代理店DDBだが、今回調べてみると意外な事実が判明した。マーマイトの自虐的キャンペーンを担当しているのも同じDDBであったのだ。
マーマイトを製造してきた会社は、2000年にオランダ−英国企業のユニリーバに吸収されている。外国人の陰口である「まずい」を逆に武器にしてしまった広告代理店のアイデアにハンコ(があるとは思えないが)を押す勇気は、多国籍編成のスタッフやブレーンで構成された国際企業にならなければ、なかったであろう。

マーマイト風味のカシューナッツスナック。ペーストほどの衝撃はないが、ペーストのファンに“誘導”するには極めて有効な商品。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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