ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4【試乗記】
路上で輝くスーパーカー 2012.07.01 試乗記 ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4(4WD/7AT)……4100万2500円
ランボルギーニの旗艦モデル「アヴェンタドール」にサーキットで試乗。サンターガタの猛牛は、どんなパフォーマンスを見せた?
理屈抜きにカッコイイ
その昔は、樹脂製ボディーとアルミなどメタル製ボディーの出来具合がよく論議された。言われていたのが、樹脂製ではその厚さのためにエッジ部分のアールが大きくなり、メタル製のようなシャープな面構成が採りにくいということ。実際、樹脂製ボディーは、どうしても精度が低く見えがちで、ダルでボテッとした感覚のデザインも多かった。
しかしこの「ランボルギーニ・アヴェンタドール」を見る限り、そんな論議は的外れであったかのように思える。シャープなエッジで構成されたボディーパネルは、それがカーボンファイバー製であることを見抜けないほど、高精度な作りを実現している。ランボルギーニ社はクルマだけでなく、高性能大型ボートなども製造しており(筆者は過去にその現場を見学したことがある)、樹脂成形に関しては膨大なノウハウがあることも事実だ。だがアヴェンタドールは、そんな説明など要らないぐらいカッコイイ。まさにイタリアの高性能スーパーカーの頂点に君臨する気品と威厳と迫力を備えている。そして重量(=約1.6トン)は十分に軽く仕上がっており、剛性感も上々だ。
「ミウラ」「カウンタック」「ディアブロ」「ムルシエラゴ」と続くランボルギーニの歴史上の流れを見ても、アヴェンタドールは最も獰猛(どうもう)な闘牛かもしれない。V12エンジンは今や700psを発生するに至った。パワーは速さに直結するだけでなく安定性にも寄与する。だからこうした高性能車にあっては、いくらあっても無駄にはならない。ムルシエラゴとの違いは、4WDシステムのセンターデフがビスカスカップリングからハルデックスカップリングに変わった点で、ここが筆者の興味をひいた。
後ろが滑ると前が引っ張る
ハルデックス式のセンターデフは、後輪駆動ベースの4WD車にこそ効果的と思われる。前輪駆動ベースの4WD車では、前輪がスリップしアンダーステア傾向になったところに後輪のトラクションが加わる。つまり、さらにアンダーステアを増す結果となる。それが後輪駆動ベースの4WD車であれば、オーバーステアになった状態を前輪で引っ張るのだから、ニュートラルな状態に戻せるだろう……という予測が成り立つ。今のところ「ブガッティ・ヴェイロン」にその例を知るだけで、ミドシップ4WD+ハルデックスのクルマに乗った経験のない筆者としては、この点が興味の焦点だった。
アヴェンタドールの試乗会はサーキットで行われた。先導車つき3台縦列走行の短時間試乗ではあったが、この辺の挙動を試しつつ適当に遊ぶチャンスもあった。
ハルデックスはオン/オフ感覚があり、スロットルオフ時のエンジンブレーキには前輪は感知しない。例えば後輪がスリップして余剰トルクが前輪に加わるとする。カウンターステアが当たっている状態で前輪にトルクがかかると、クルマは舵角(だかく)方向に進む。すると全体の軌跡を膨らますことにはなるが、結果としてアンダーステアの状態に戻せる。さらにこのアンダーステアを嫌ってスロットルを戻しても、前輪はそれほど巻き込まない。
ビスカスカップリングは曖昧感もあるにはあるが動作は一方通行ではなく、前後軸の回転差さえあればトルク伝達は継続的に行われる。だからアンダーステアに対してスロットルオフしてタックインを誘う時にも有効な助力となり、テールを流すきっかけを作りやすい。オーバーステアの状態に転じた体勢をスロットルで戻すのも容易。微妙な差ながらこの辺の挙動を変化させる際の移行過程がスムーズである。そうした意味ではアヴェンタドールより、ビスカスを採用するムルシエラゴの方が洗練されていると思う。ただし、これもより大きく姿勢が乱れた時など、舵角が大きくなればハルデックスの方がレスポンスの点で有利かもしれない。どんな時にもアンダーステア特性こそ安全、と信じている人にも信頼されるだろう。
ビスカスは繊細なスロットル操作に追従するから、オンでもオフでも常時4輪の接地感覚が得られる。ミドシップ車やリアエンジン車など、前輪荷重が軽く後輪トラクションの強力な車には有効で、昔の「ポルシェ911ターボ」などでも威力を発揮した。ハルデックスはやや雑というか、途切れたりトラクションが抜けたりする区間が存在する。その車名のとおり獰猛で荒々しい性格を望むのであれば、ラフなスロットル操作に対応するハルデックスの方がいいのかもしれない。軽く流す感覚を重視するか、豪快にフルカウンターで立ち上がる時に前輪の駆動レスポンスを期待するか、ドライビングの好みによって意見は分かれる。この辺はアウディの影響力も大きいのだろう。筆者はビスカスカップリングを支持する。
扱いやすさも美点の一つ
実際に全開走行してみると、直進時には700psという数値からイメージされるような荒々しさはない。7段「ISR」変速機をつなぐクラッチはダブルプレートながら1カ所のみ、ランボルギーニはツインクラッチにしない理由として、その軽量さを主張する。つなぐ速さは3段階選べる。「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」とあり、モード表示部の左右にあるスイッチを押すことで順次切り替えを行う方式。これもレバーを倒して選択するとか、直接そのポジションを押すとかといったダイレクトな操作方法が好ましい。いまの方式は走行中に操作するには不向きである。
3つのモードの中では「スポーツ」がいい。「コルサ」ではガツンとショックが大きく、コーナリング中にシフトすると瞬間的に接地性が失われ、姿勢が乱れ横に飛ぶ。状況によってはスピンしかねない。またこのショックでESPが介入するため、瞬時にスロットルはついてこなくなる。これをリカバリーする時間も「スポーツ」の方が短くて済む。
いずれにせよ、低中速あたりの速度域では姿勢を乱したところで対処は容易だ。700psのパワーは即座に安定性を助けるし、前255/35R19、後335/30R20のよくグリップするタイヤの許容量も大きく、スロットルを踏み込むタイミングさえ間違わなければ、簡単に直進状態に戻すことができる。この辺がスーパーカーとしての貫禄(かんろく)を感じるところでもある。
4000万円を超す高価格車ではあるが、それさえ意識しなければ、高性能車らしからぬ気安さで接することができる、そこがランボルギーニの美点であろう。カウンタックの小さな後方窓であっても、ミラーを通してちゃんと追尾してくる車は見えたし、ディアブロの前下がりのサイドウィンドウは側方の視界確保を助け、料金所でのアクセスも比較的容易だったし、何よりもジムカーナ的に振り回す時には、ハンドルから手を放してしまえば、そのキャスターアクションによりカウンターステアをクルマ自身が適切に当ててくれる……といった乗りやすさが強く印象に残っている。そんな過去のスーパーカー作りの経験を踏まえたこのアヴェンタドールもまた、スーパーカーの歴史に大きな足跡を残すクルマであることは間違いない。磨いて飾っておくだけでなく、実際に路上を走らせてこそアヴェンタドールは真価を発揮する。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)
