良いだけでは足りない世界
もはや般若の面のような専用グリルやバンパーで独自性を主張するスポーティーグレードの「Fスポーツ」は、正直言って評価が難しい。コスメティックだけではなく、可変ダンパーのAVSや可変ステアリング(VGRS)、後輪操舵(そうだ)を統合制御するLDH(レクサスダイナミックハンドリング)を加えた専用サスペンションを備え、走行性能を追求したという仕様だが、他のモデルと圧倒的に違うというほどのレベル差を感じなかったのだ。確かに高速域でもグイグイ曲がるスタビリティーの高さは際立っているが、350“バージョンL”でも十分に高レベルにあるし、より軽やかだ。もともとスポーツセダンのISで、しかもIS Fが別に存在する中で、ここまで攻撃的な装いをまとって何を求めるのか疑問なしとしない。
ひとつだけFスポーツで明らかに優れていると感じたのはブレーキだ。踏み始めの制動力の立ち上がり、ペダルの剛性感などが素晴らしい。聞けばどうやらブレーキキャリパーのサイズが違うらしいが、プロトタイプゆえ残念ながら詳細は不明である。
新型ISが素晴らしい出来栄えに仕上がっていることはプロトタイプでも十分実感できた。だが問題は、真摯(しんし)な努力を積み重ねて優れたニューモデルを生み出したとしても、ドイツ御三家をはじめとして、世界中のプレミアムブランドが主戦場としているこの世界では十分ではないということだ。
良い車を作れば顧客は分かってくれるという生真面目さがトヨタの美点であることは疑いないが、競争相手の弱点をすかさず突くような抜け目のなさも同時に必要、「この手があったか!」とライバルにインパクトを与え、歯がみさせなければならない。
その意味で、インストゥルメントパネルなどの仕立ては緻密で整然としてはいるが、煩雑で黒っぽく新鮮味に欠ける。品質に対する誠実さを忘れずに、ライバルを出し抜き、斬新なショックを与える技をさらに考えなければならないだろう。もちろん、それはアグレッシブなグリルデザインなどではなく、レクサスだけの、独自のお家芸のことである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
【スペック】IS350“Fスポーツ”:全長×全幅×全高=4665×1810×1430mm/ホイールベース=2800mm/駆動方式=FR/3.5リッターV6DOHC24バルブ(318ps/6400rpm、38.7kgm/4800rpm)(プロトタイプ)
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「IS350」が搭載する3.5リッターV6エンジンは318psと38.7kgmを発生する。テスト時には燃費値は未発表。
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「IS300h」のメーター。二眼式の左側は、ハイブリッドシステムインジケーターとタコメーターに切り替わるようになっている。
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フロントにもまして個性的なリアビュー。リアコンビネーションランプの中には、L字型のモチーフがあしらわれている。
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