ボルボV40 T4 SE(FF/6AT)【試乗記】
オシャレに見えても一本気 2013.04.17 試乗記 ボルボV40 T4 SE(FF/6AT)……417万5000円
デザインの洗練度がさらにアップした最新のボルボ、「V40」に試乗。スマートな外観が目を引くが、安全装備もしっかりと進化していた。
オシャレだけど、たくましい
「V60」から「XC90」まで、「ボルボ」6台を乗り比べる機会を持ったのは昨年の紅葉の頃だった。もっとも2002年に発表されたXC90と2010年の「XC60」では、カタチもテクノロジーもずいぶん違っていて、21世紀に入ってからのボルボの変貌ぶりにあらためて感じ入ったのを思い出す。“質実クン”から“オシャレ坊や”へと変わっていく過程が、並べてみるとよくわかった。「V40」は昨年のジュネーブモーターショーのデビューだから、今のところ最新のボルボだ。
洗練度はさらにアップしている。とはいっても、オシャレ坊やというよりはたくましい青年のようだ。正面から見ると、顔つきは以前のモデルより彫りが深くなっていて、力感が増している。ボンネット上にはクリント・イーストウッドの頬の線のようなキャラクターラインが刻まれていて、表情に厳しさを与えている。鋭く削り取られたショルダーのエッジによって、側面から見ても陰影が濃くなった。そのラインはリアフェンダーにかかるとボリューム感を見せる柔らかな曲面に変化し、動物的で筋肉質な体格を強調するのだ。
リアスタイルはXC60を発展させたもので、サイズが小さいだけに抑揚のメリハリがさらに強調された。広く黒い縁取りされた曲面のガラスが、特徴的なリアコンビネーションランプとつながって未来的な印象を残すフォルムだ。リアハッチをここまでデザイン優先にすると、荷室容量が心配になる。事実、あまり広いとはいえない。「プレミアム・スポーツコンパクト」とボルボ自身が銘打っているように、“ワゴン”という発想からは遠く離れている。
安全装備が地味に進歩
安全装備で一番のトピックは、「歩行者エアバッグ」だろう。人間がぶつかると、ボンネットが持ち上がってフロントウィンドウとの隙間からエアバッグが現れる仕組みだ。歩行者を感知するとブレーキを掛けて衝突を回避する「ヒューマン・セーフティ」は以前から設定されていたが、万が一事故を起こしてしまった場合にも衝撃を最小限に抑えようというわけだ。もちろん、こんな装備は試すわけにはいかなかった。でも、地味だけれど、ほかにも進歩した安全装備がある。
「V70」でも2013年モデルから取り入れられていた「RSI(ロード・サイン・インフォメーション)」は、道路標識を読み取ってメーター内に表示するシステムだ。モノクロだったアイコンがV40ではカラーになっていて、視認性が高まった。ただ、高速道路に多い電光掲示式の標識はちょっと苦手で、読み取れないこともある。うっかり側道の表示を読み取って、高速道路なのに30km/h表示になってしまったこともあった。まだ全面的に信頼していいわけではないようだ。
「LKA(レーン・キーピング・エイド)」は、警告音だけでなく、ステアリングホイールに直接力を加えてドライバーに車線からの逸脱を伝える方式になった。結構な力がかかるので、確実にドライバーは気づくはずだ。「シティ・セーフティ」は、作動速度が50km/hに上げられた。この基本的な安全装備は、もっともベーシックな269万円のモデルにも標準装備されている。
「DSTC(ダイナミック・スタビリティ&トラクション・コントロール)」は、新しいインターフェースの「センサス・メディアセンター」で解除することができる。ただし、そのためには4段階もの操作が必要だ。軽い気持ちで安全機構をはずすことはできないようになっているわけだ。以前「V70R」でもシステムカットができるようになっていたが、その時は1秒間隔でボタンを5回押さなくてはならなかった。ついハメをはずしてみたくなる人間の浅はかさを戒めるボルボの姿勢は、昔も今も一緒だ。
安全とは関係ないが、メーターパネルは大きく変わった。「Elegance」「Eco」「Performance」の3テーマが用意されていて、気分に応じて切り替えることができる。雰囲気だけではなく、表示の内容もそれぞれ違う。「Elegance」「Eco」ではセンターにスピードメーターが配されるが、「Performance」では回転計となり、右側のゲージで使用可能なパワーのうち現在どれだけ使っているかを示す。「Eco」の場合は、左がエコゲージ、右が回転計となり、どちらかが上がればどちらかが下がるシーソー状態になるのが楽しい。
とてつもないアイドリングストップ
「PAP(パーク・アシスト・パイロット)」と名付けられた縦列駐車支援システムが加わったのもボルボ初だ。道で試してみたら、きちんとスペースを見つけ出してハンドルを勝手に回し、歩道ギリギリに駐車してみせた。動作はゆっくりなので、混雑する道では使わないほうがいいかもしれない。
ボルボ初といえば、意外なことにアイドリングストップ機構がついたのはこのモデルが第1号だ。停止時、始動時のショックはそれなりにあるが、特筆すべきは停止時間の長さだ。どのぐらいアイドリングが止まっているかを知るため、走った後に駐車スペースでDレンジのままブレーキを踏んでしばらく待ってみた。5分たっても、10分たっても、エンジンは動き出さない。長くても2分少々、条件が悪ければ30秒ほどで再始動するのが普通である。あまりに長く止まっているので、イヤになって途中で計測をやめてしまった。
ブレーキエネルギー再生システムの採用もあって、従来のコンパクトモデルと比べて燃費は約40%改善したということだ。JC08モード燃費は16.2km/リッターで、今回の試乗では450km弱を走って満タン法で10.6km/リッターを記録した。
1.6リッター直噴ターボエンジンに6段DCTの組み合わせは、すでにおなじみのものだ。V70でも一切不満を感じないのだから、このクルマには十分なパワーユニットとなる。ターボ感は薄く、より大きな排気量のNAエンジンのようなナチュラルさを持っている。体つきが小さいだけに、同じエンジンでもV70のおおらかな動きとは一味違っている。身のこなしが素早く、切れ味のいい動きをする。外観のスポーティーさに見合った走りなのだ。
ボルボが先鞭(せんべん)をつけた安全装備は、今や輸入車、日本車を問わず、多くのメーカーが採用するところとなっている。自動ブレーキシステムはデフレ状態でどんどん値段が下がり、簡単な機構だと5万円からのオプションさえあるのだ。対してボルボはデザイン重視に舵(かじ)を切り、スポーティーな走りを追求するようになった。それは、安全のトレードオフではない。V40はスマートな外観が目を引いてしまうが、中身を見ればしっかり安全装備を一歩進めていた。オシャレになっても、アタマの中は一本気な安全オヤジなのだ。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。