電気自動車はパワーがすごい

リーフタクシーはすでに銀座と築地の混雑を抜け、勝ちどき橋も渡り切り、晴海三丁目の信号を左に曲がっていた。
ここから豊洲のあたりまでの晴海通りは道幅が広いわりには交通量が少なくて、リーフのアクセルをグッと踏み込むには好都合。あらやだお母さん(第15回参照)と彼女の娘にサービスしたのと同じように、この日、二度目のサービスタイムである。

アクセルを一気に踏み込む。リーフが加速した。そこでエコモードからドライブモードに切り替えると、リーフはさらなる急加速、シートに背中が押しつけられるような感覚を伴ってシャ〜ッと進んでいく。

「うわ〜ッ、うちのおやじが買った3リッター車より加速がいい」
ひとりはこう言った。そしてもうひとりは、ただ、すげ〜ッと叫んでいた。「すんげ〜ッ、リーフ、すげ〜ッよ、運転手さん、すげ〜ッ」

いや、俺は、すげ〜ッくない。すげ〜ッのはリーフの加速だ、とは言わず、こういう運転をすると、ますますバッテリーの減りが早くなってしまうんですよ、と、運転手は静かな口調で事実関係を告げたのだった。

それから数時間後、リーフタクシーの運転手は、リーフタクシーに意外な反応を示す中年男性を乗せることになる。若い二人のサラリーマンがそうであったように、電気自動車と聞くと、たいていの人は「ビュ〜ン」と走れないと思い込んでいる。だからリーフの急加速にびっくり仰天するわけだけれど、この日の夕方、バッテリー残量がわずかとなっての帰庫の途中で乗せた中年の男だけは違っていた。

「運転手さん、どう? 電気自動車……」

乗客の問いかけに言葉で答える代わりに、アクセルをグッと踏み込んで急加速をしてみせた。すると、中年の男性客は、こう言うのである。

「やっぱりすごいな電気自動車は」

やっぱり、とは?

「俺も電気自動車に乗ってるんですよ。フォークリフト」

「ガソリン車のフォークリフトは荷物が重いとアクセルを踏み込んでやらないとツメが上がらない。でも、電気のフォークリフトは簡単に上げる。パワーがすごい」

(文=矢貫隆/写真=荒川正幸)

矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、 ノンフィクションライターに。自動車専門誌『NAVI』(二玄社)に「交通事件シリーズ」(終了)、 同『CAR GRAPHIC』(二玄社)に「自動車の罪」「ノンフィクションファイル」などを手がける。 『自殺-生き残りの証言』(文春文庫)、『通信簿はオール1』(洋泉社)、 『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。

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