時空を超えた「モデルJ」
小説の中でギャツビーのクルマの名が明示されるのは1カ所だけで、ロールス・ロイスがパーティーの客を運ぶために乗り合いバスの役を果たしたと書いてある。ギャツビーが乗ってきたのがそれと同じクルマである証拠はないが、コッポラ版の映画では「ロールス・ロイス ファントム」が使われていた。バズ・ラーマンは別のクルマを用意した。「デューセンバーグ・モデルJ」である。
これは、ちょっと変だ。モデルJが発表されたのは、1928年のことである。小説でも映画でも、物語は1922年の出来事だとはっきり示されている。まだ存在していないクルマなのだ。ただ、事情はコッポラ版でも同じで、1922年ならばファントムでなく「シルバーゴースト」でなければならない。
戦前のクルマに詳しい人は気になるかもしれないが、バズ・ラーマンにとっては歴史考証など優先順位の低い項目なのだ。古典であっても現代の感覚で描き出すのが彼の骨法である。1996年に初めてディカプリオと組んだ『ロミオ+ジュリエット』では、舞台が現代のブラジルになっていた。モンタギュー家とキャピュレット家はマフィアで、アロハシャツを着たロミオがピストルをバンバンぶっ放していたのだ。『ギャツビー』でも、ジャズ・エイジの話なのに音楽はヒップホップを取り入れたりしている。
デューセンバーグは、1921年にアメリカ車として初めてフランスのACFグランプリで優勝を果たしている。直列8気筒エンジンに世界初の油圧ブレーキを備え、最先端の高性能スポーツカーだったのだ。ただ、いくらブレーキ性能が高いといっても限界があり、最後にあの悲劇的な事故を起こしてしまうことになるのだが。

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
NEW
ロータス・エキシージ スポーツ410(前編)
2021.1.24池沢早人師の恋するニューモデル漫画『サーキットの狼』の作者、池沢早人師が今回ステアリングを握るのは「ロータス・エキシージ スポーツ410」。劇中で主人公・風吹裕矢の愛車として活躍した「ロータス・ヨーロッパ」のDNAを受け継ぐ、軽量ミドシップスポーツの走りとは? -
ホンダe(RWD)【試乗記】
2021.1.23試乗記「ホンダe」が素晴らしいのは運転してワクワクできるところだ。航続可能距離の短さがデメリットのようにいわれているけれど、それこそがホンダeの持つ強みだ……と筆者は主張するのだった。 -
ジョー・バイデン新大統領誕生で自動車産業はどう変わる?
2021.1.22デイリーコラムもめにもめたアメリカの大統領選挙がようやく決着し、第46代となるジョー・バイデン新大統領が誕生した。クルマ好きとして知られる氏は、果たして自動車業界にどんな変化をもたらすのだろうか。 -
スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)【試乗記】
2021.1.22試乗記いまやスバルの中核モデルへと成長した「レヴォーグ」。六連星(むつらぼし)の新たなフラッグシップと位置づけられる新型は、スポーツワゴンらしい走りと使い勝手のよさが実感できる一台に仕上がっていた。 -
アストンマーティンDBX(前編)
2021.1.21谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が今回試乗したのは、アストンマーティンが開発した高性能SUV「DBX」。そのステアリングを握った走りのプロには、どこか気がかりなところがあるようだが……? -
ホンダCBR600RR(6MT)【レビュー】
2021.1.21試乗記ホンダのミドル級スーパースポーツモデル「CBR600RR」が復活。レースでの勝利を目的に開発された新型は、ライディングの基礎を学ぶのにも、サーキットでのスキルを磨くのにも好適な、ホンダらしい誠実さを感じさせるマシンに仕上がっていた。