にわか富豪は派手クルマが好き
1908年に発売された「T型フォード」はこの頃年間の生産台数が100万台を超えるようになっており、アメリカではモータリゼーションが急激に進行していた。そんな中でも、ハイパワーエンジンを積んだとんでもなく高価なデューセンバーグは別格の存在だ。バブル景気で成り上がったにわか富豪たちが争って手に入れたがったのは想像に難くない。サディスティック・ミカ・バンドの『タイムマシンにおねがい』では、往時の恋する娘が憧れるクルマとして歌詞に登場している。
古くからの格式高い長者であるトム・ブキャナンに対し、ギャツビーは怪しげなニューリッチなのだ。本田じゃないほうの翼に代表されるネオヒルズ族みたいなものである。新しもの好きで、趣味が上品とは言えない。彼には、エスタブリッシュメントの香りがするロールス・ロイスより、気鋭の新興メーカーが放つ派手なクルマのほうが似つかわしい。デューセンバーグを選んだのは、監督の手柄と言っていいだろう。
ギャツビーはキャラウェイにクルマを見せびらかし、「特注でスーパーチャージャー付きだ」と自慢する。走行シーンでは、確かにタービンの音が高まっていくのがはっきり聞こえる。こういうところをおろそかにしないのが、大事なことだ。ある日本映画を観ていて、「トヨタ・ハイエース」から明らかに直列6気筒のガソリンエンジンの音が響いてきて鼻白んだことがある。うそであっても細部を本当らしくしなければ、いい映画にはならない。
ケレンやハッタリをちりばめながらも、バズ・ラーマンは意外にも原作に忠実で端正なストーリーを紡いだ。邦題の“華麗なる”というのはいささか奇妙な訳で、もともとは『The Great Gatsby』だ。夜ごとパーティーに明け暮れていても、彼の生涯は華麗さとはほど遠い。ただ、悲劇的で報われない人生ではあったが、間違いなくグレートな生き方だった。彼にとってはデューセンバーグすら手段にすぎず、一心に見果てぬ夢を追いかけたのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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