消えてしまった宮型

昔は霊柩車といえば宮型が当たり前だった。神社のような飾り付けを施した独特の形で、金ピカのものと白木造りのものがあった。井上章一の名著『霊柩車の誕生』によれば、日本で葬儀にクルマが使用されるようになったのは大正のはじめのことだ。明治になって大名行列を模した弔い行列が流行したが、交通事情の変化によって衰退し、クルマで遺体を運ぶことが一般化した。宮型霊柩車が出現したのは、昭和に入ってからのことらしい。この本が書かれた1984年頃には道でよく見かけたものだが、最近ではまず見ない。ほとんどが洋型に代わられてしまったのだ。

閑話休題。人のいいバーニーは、町一番の嫌われ者だったマージョリーにも優しく接する。傲慢(ごうまん)で偏屈なゆえに孤独な生活を送る彼女を放っておけなかったのだ。マージョリーの信頼を得た彼は、どこに行くにも一緒に行動するようになり、海外旅行にも出掛ける。ついには投資の管理まで任されるようになったのだ。それに比例するように、マージョリーのバーニーを独り占めしたいという欲望が肥大化していった。あまりに理不尽な態度に、バーニーは衝動的に彼女をライフルで撃ってしまう。

この性格の悪い未亡人を、シャーリー・マクレーンが怪演している。ひどすぎる意地悪ばあさんぶりを見ると、『アパートの鍵貸します』で流した涙を返してくれと言いたくなるほどだ。蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われた女を殺した町一番の人気者を、誰もがかばうのは仕方がない。なんとか有罪に持ち込もうとする検事をマシュー・マコノヒーが楽しそうに演じている。『リンカーン弁護士』では人情の機微に通じた俗物弁護士が似合っていたが、世知にたけた田舎エリートもハマリ役だ。

未亡人とバーニーの間に、恋愛感情があったかどうかは明確には描かれていない。ただ、死を扱う場所には、古来エロスがつきまとう。井上章一によれば、霊柩車を小道具にしたエロティックな小説や映画が多く作られているという。『おくりびと』でも、遺体処理をした直後のモックンが広末涼子に欲情するシーンがあった。ラブホテルのキンキラ趣味にも通じる宮型霊柩車が姿を消してしまったのは、ちょっと残念な気がしないでもない。

(文=鈴木真人)


第55 回:愛車はリンカーン、仕事ではキャデラックに乗る男 『バーニー/みんなが愛した殺人者』の画像 拡大

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『バーニー/みんなが愛した殺人者』
2013年7月13日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー
配給:トランスフォーマー
『バーニー/みんなが愛した殺人者』
    2013年7月13日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー
    配給:トランスフォーマー
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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