最後は南へと向かう

3回目までの東西の往復と違い、1950年の最後の旅は、メキシコに向かって南に走る。小説には37年型のフォードのセダンと書かれていたが、映画で使われていたのはもう少し新しく、しかもクーペである。戦前型では撮影に堪えられなかったのかもしれない。ひどいボロぐるまで、右のドアが壊れているというところは原作に忠実である。

南への旅は、西に向かうのとは様相を異にする。アメリカ人にとって、西を目指すのは本能のようなものだ。東海岸から始まった開拓はどんどん西へと進み、ついに西海岸に到達した。その後はハワイを併合し、この物語の少し前には日本を占領するところまでいっていたのである。西へと向かうのはもはや歴史をなぞることでしかなく、海までたどり着いたらまた東に戻るしかなかった。南にこそ、見たことのない世界があった。野性を残した大地と人々に触れてふたりは歓喜するが、それは旅の終わりを意味してもいる。

この作品の製作総指揮は、フランシス・コッポラである。1979年から構想があり、これまでにマイケル・ハーとラッセル・バンクスが脚本を書いているが、映画化は見送られた。『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレスにオファーされてからでも、でき上がるまでに8年を要したのだ。原作が発表された直後には、ケルアック自身がマーロン・ブランドと共演する構想があったというし、ゴダールがメガホンを取る可能性もあったらしい。

ビーバップ・ジャズの時代に即興の言葉でつづられた小説が、『オン・ザ・ロード』だった。わずか3週間で書き上げられたという伝説が残るほどだ。それなのに、映画化にはとてつもない時間がかかってしまった。ディーンが持っていた燃え上がるような衝動は、今やどこにも残っていないのかもしれない。われわれは、もう“路上”にはいない。

(文=鈴木真人)

タイトル:『オン・ザ・ロード』
公開表記:8月 TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
コピーライト:(C)Gregory Smith
公式サイト:http://www.ontheroad-movie.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画オンザロード/536070576445759
公式Twitter:https://twitter.com/OnTheRoad_mov
配給:ブロードメディア・スタジオ
R-15

【CAST】
サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、キルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセン 他

【STAFF】
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ(『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』)
音楽:グスターボ・サンタオラヤ(『ブロークバック・マウンテン』『バベル』)

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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