ミニカータワー
ホテルに話を戻そう。2階のロビーに上がる階段から、ただならぬオーラが漂っていた。1階から3階までの吹き抜けをミラー付きガラスケースが貫き、内部は歴代ポストアウトを中心としたミニカーで埋め尽くされているのである。そのときは、スタッフと思われる女性しかフロントにいなかった。しかし翌朝になると、支配人がいたので、聞いてみることにした。
ちなみに、なぜ支配人とわかったというと、それはエレベーターの中に、「フィアット500」と一緒に得意げに立つ男性の写真が掛けられていたからである。これは「クルマ好き=ミニカーの持ち主」に違いない、と読んだのである
ボクの予感は当たった。彼は開口一番、例のミニカータワーについて語り始めた。
「高さは、1階から3階まで14メートル。数はおよそ700台です」
彼の名前はヤープ・シューパーさん。1965年生まれの今年48歳である。オランダ人の彼は母国のホテル学校で学んだあと、あるスイスのホテルに職を得た。
そして8年前の2005年に、部屋数38室、収容人数96人のこのホテルのあるじとなった。賃料を払いながらの経営だが、1階のバス整備工場にちなんでポストアウトの大コレクションを始めたというわけらしい。
ボクがイタリアからやってきたことを告げると、シューパーさんの熱い語りは、さらに続いた。
「イタリアの高速警察隊が『ランボルギーニ・ガヤルド』でスイスにやってきたときは、ウチに泊まったんですよ!」
ついでに言うと、彼のホテルには地下ガレージがあって、そうした高級車がやってきたときの高いセキュリティーも売りのひとつだ。
ボクが泊まったとき、シューパーさんのホテルには、オーストリアやドイツなど、周辺各国からやってきたスマートタイムズ参加者が数多く泊まっていて、駐車場が第2会場状態であった。
スマートタイムズ2日目の会場でのことだ。どこかで見た人がいると思ったら、シューパーさんではないか。その間、ホテルは大丈夫なのかと思わず心配してしまった。
現在、彼自身はフォルクスワーゲンのオーナーという。「スマートもお持ち?」と聞けば、「前の女房が乗ってました」と笑いながら教えてくれた。いくらクルマ好き同士だからって、客のボクにそんなことまで話さなくっていいってば。
ビジネスライクなホテルを想像していたら、意外に熱いエンスージアストホテルだった。だからクルマの旅は面白い。

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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