まぶたに残る、あのクルマ
まずは、2002年から2006年(2005年を除く)に出展していたインドの「DCデザイン」である。
DCとは、アートセンター・カレッジ・オブ・デザインに学びGMデザインセンターでの勤務経験もある社主ドリップ・チャーブリアのイニシャルである。彼の会社は2006年を最後にジュネーブに自社スタンドを出していないが、代わりに北京、ドバイ、そして地元インドのデリーといった新興国のショーに発表の軸足を移している。展示されたショーカーは、極めて高値で愛好家に買い取られてゆくという。そうした意味で、ジュネーブ卒業組のなかで出世頭と言ってもいいだろう。
次は、2006年にイタリア企業が出展した「ジンコ」である。欧州各国において原付き免許で乗れる、いわゆるマイクロカーでありながら「ランボルギーニ・カウンタック」もびっくりの跳ね上げ式ドアを備えていた。
理由についてスタッフは、スタイリッシュであることとともに、「マイクロカーのユーザーに多い、車いすを使用する人の乗降性を考えた」と説明してくれたのを覚えている。
製作したジオッティライン社は、実はボクが住むシエナから約30kmのところにあるキャンピングカーメーカーである。発表年にボクが訪問したときは工場の一角で、なんとランボルギーニのOB社員も交え着々と初期のジンコ数台を製作していた。だが、2010年にあらためて聞いたところ「現在は計画休止中」という答えが返ってきたことを記しておこう。
続く2007年のジュネーブには、見るからにエキゾチックな1台が会場に現れた。4人乗りクーペ「ルッソ・バルティーク インプレッション」だ。ルッソ・バルティークはもともと20世紀初頭に誕生したロシアの歴史的自動車メーカーであった。ロシア皇帝専用車を納入するという栄誉に浴したものの、1923年には消滅している。その復活を企てたドイツとロシアの企業が造った豪華クーペが、このインプレッションであった。中身はAMGメルセデスだ。
あとは写真解説をご覧いただくことにするが、今も時折夢に出てきてボクがうなされているのは、2003年のジュネーブに展示されたa:level「ヴォルガV12クーペ」である。旧ソビエトのミッドサイズセダン「GAZ 21ヴォルガ」(1956-1970)のスタイルをモチーフに、モスクワ郊外のa:levelという工房が手がけたものだ。ベースは「BMW 850 CSi」とそのV12エンジンである。
とかくレトロというと、「トヨタ・オリジン」のように憩い系に走るか、1970年代アメリカ車の復活版のようにカッコよさを強調したものかどちらかだ。しかし、この復活版ヴォルガV12クーペは、ダサさと怖さを漂わせる、不思議なオーラを発することに成功していた。

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
-
NEW
ホンダe(RWD)【試乗記】
2021.1.23試乗記「ホンダe」が素晴らしいのは運転してワクワクできるところだ。航続可能距離の短さがデメリットのようにいわれているけれど、それこそがホンダeの持つ強みだ……と筆者は主張するのだった。 -
ジョー・バイデン新大統領誕生で自動車産業はどう変わる?
2021.1.22デイリーコラムもめにもめたアメリカの大統領選挙がようやく決着し、第46代となるジョー・バイデン新大統領が誕生した。クルマ好きとして知られる氏は、果たして自動車業界にどんな変化をもたらすのだろうか。 -
スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)【試乗記】
2021.1.22試乗記いまやスバルの中核モデルへと成長した「レヴォーグ」。六連星(むつらぼし)の新たなフラッグシップと位置づけられる新型は、スポーツワゴンらしい走りと使い勝手のよさが実感できる一台に仕上がっていた。 -
アストンマーティンDBX(前編)
2021.1.21谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が今回試乗したのは、アストンマーティンが開発した高性能SUV「DBX」。そのステアリングを握った走りのプロには、どこか気がかりなところがあるようだが……? -
ホンダCBR600RR(6MT)【レビュー】
2021.1.21試乗記ホンダのミドル級スーパースポーツモデル「CBR600RR」が復活。レースでの勝利を目的に開発された新型は、ライディングの基礎を学ぶのにも、サーキットでのスキルを磨くのにも好適な、ホンダらしい誠実さを感じさせるマシンに仕上がっていた。 -
第690回:GMの本気とBMWの変化球! 大矢アキオがフルオンライン開催の「CES」を練り歩く
2021.1.21マッキナ あらモーダ!オンライン開催された家電エレクトロニクスショー「CES」に大矢アキオが潜入。最新の電気自動車用プラットフォームやフルスクリーンのようなダッシュボード、カーナビゲーションを映し出せるスマートグラスなど、自動車の未来を支える先端技術に触れた。