その日まで、がんばれ小工房

ところで歴史を概観すると、ホンダなど数少ない例外を除き、今日まで存続している主要量産車メーカーは、第二次大戦前に創立していたか、もしくはその前身が存在したものである。

もちろんスーパースポーツカーなどのメーカーには、戦後誕生して生き残った企業もある。しかしそのほとんどはフェラーリやランボルギーニのように、出資する企業を頼ってブランドを存続できたものだ。

それら以外で理想の自動車造りに挑んだ者の末路を振り返ると、まさに死屍(しし)累々の感がある。ビッグスリーに挑んで散ったタッカーや、世界一流のエンジニアやデザイナーをよりすぐったものの失敗したデロリアンがその良い例だろう。極度に高度化・総合化した自動車産業は、もはや簡単に参入できる余地はないのである。

いっぽう、「これから電気自動車(EV)の時代になると、部品点数が減るぶん、自動車メーカーへの新規参入が容易になる」という仮説がある。開発アウトソーシングと部品サプライヤーさえそろえば、クルマができてしまうというわけだ。
それに対しては、「各国の保安基準に適合させるための研究開発やコストを考えると、そう簡単ではない」という反論もある。しかし将来バッテリーをはじめとするEV用パーツの単価が低下すれば、そのぶん保安基準適合のための研究費を掛けてもペイする、という状況はありうるだろう。そうすれば、ここ約20年でカーナビゲーションがたどったのと同じく、大メーカーでなくてもクルマを造る時代が到来する可能性がある。

その暁には、カーシェアリング用も含め、もっと各国の国情やユーザーの使途に合わせたクルマが生まれるかもしれない。すると、現在自動車メーカーが毎年世界で費やしている莫大(ばくだい)な宣伝広告費も要らなくなる。
「主要メーカーのものは良いものだ」というユーザーの自動車ブランド意識も変わってくるかもしれない。“不沈空母”と思われた家電メーカーが軒並み苦戦するなか、新興モバイル機器メーカーが急成長しているのを見ていると、まんざら非現実的な夢ではないだろう。

話が長くなってしまったが、それらの環境が整ったとき、小規模工房から新時代の自動車産業モデルが誕生する予感がするのである。もちろん、今回紹介したクルマの工房に将来性が期待できる、などと安直なことは言わない。ボクが彼らに期待するのは、そうした新時代が到来するまで、若者たちに「もしかしたら自動車産業って、まだ参入できるかもしれない」と思わせる夢の灯をともしつづけていてほしい、ということだ。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ)

シネスコ映画を普通のテレビで放映したようなルメネオ社(フランス)のEV「スメーラ」。タンデム2人乗りで全幅わずか80cm!
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2008年地元スイスのキブルツ社が製造するEV「クラシック・プリュス」。公共交通が乏しい農村の高齢者に照準を据えている。現在もなおカタログモデル。
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戦前に超高級車や航空機エンジンで有名だった「イスパノ・スイザ」の名を復活させたスーパースポーツ。エンジンは「アウディR8」のV10を搭載。(2010年)
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2008年 マトラ・オートモビルの元技術責任者が開発した3人乗りシティーカー「X80」。750cc2気筒で、回生ブレーキ機能や駐車時を考慮した伸縮式バンパーを持つ。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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