アルファ・ロメオ ジュリエッタ コンペティツィオーネ(FF/6AT)【試乗記】
Cセグメントの大取登場! 2011.12.29 試乗記 アルファ・ロメオ ジュリエッタ コンペティツィオーネ(FF/6AT)待望の小型アルファ・ロメオ、「ジュリエッタ」が日本に上陸。1.4リッターマルチエアエンジンにスポーティーな足まわりを組み合わせた「コンペティツィオーネ」で箱根を目指した。
「アルファらしさ」とは何か?
BMWがエンジン、アウディがドライブトレイン、メルセデス・ベンツがボディーに強みを持つメーカーだとするなら、アルファ・ロメオらしさというのはどこに宿っているのだろうか。クルマ好きはよく「それはアルファっぽい」とか「アルファっぽくない」とか言うけれど、そのアルファっぽいものとは一体何だろう。やっと上陸した正規モノの「ジュリエッタ」を前にして、まずはそんな小難しいことを考えてしまった。
例えば、ポルシェなら「フラットシックス」「RRレイアウト」、フェラーリなら「赤」「ミドシップ」「V12エンジン」と連想する人は多いはず。実際は、それとは違うポルシェやフェラーリはたくさんある。しかし条件反射的に思い出すイメージはそのあたり、という人は少なくないだろう。それがブランドイメージってものである。
では、アルファ・ロメオはどうか。実用ハッチバックだろうがスーパースポーツカーだろうが、あるいはFFだろうが四駆だろうが、直4だろうがV6だろうが、赤かろうが黒かろうが、最後には「それもまあアルファだな」ってことになってしまわないか。これだけはっきりした個性を持つブランドでありながら、その個性の立脚点を見きわめるのはとても難しい。アルファというのは、つくづく面白く、不思議で、もうひとつ言うなら、しぶといブランド(!)だと思う。
ミトと似て非なるデザイン
アルファ社内のスタジオが手がけたスタイリングは、その顔つきなど、見た目においてはスーパースポーツカーの「8Cコンペティツィオーネ」にイメージの源泉を求めたものであり、弟分の「ミト」と足並みをそろえている。ただし、ミトが丸くふくよかでエネルギーをギュッと凝縮したような造形だったのに対し、こちらでは随所にシャープで切れ味のいい線や面がちりばめられており、見る者に時にエレガント、時にクールな後味を残す。アルファらしい二の線の、技アリなスタイリングである。
ダッシュボードのデザインも、ミトとは似て非なるものだ。「ミニ8C」であろうとしたミトの造形に対し、こちらはボディーと同系色にペイントされたパネルが全幅方向に広がる、水平基調のすっきりとしたデザインだ。質感も手際よく演出されており、「BMW 1シリーズ」や「アウディA3」などのドイツ勢とはまたひと味違った洗練が表現されている。
おそらくパネルを大胆に配したこのダッシュボードデザインは、1950年代から60年代に造られたオリジナル・ジュリエッタに対するオマージュであろう。丸いスイッチを両端に配置したオーディオのデザインなどは、間違いなく古き良き“カーラジオ”を意識したものだ。筆者はカーナビとテレマティクス全盛のこの時代において、液晶モニターを無視(?)してでも伝統を優先させたアルファの姿勢に心意気を感じる。カーナビなんかスマホナビでいいじゃないか、という気にさせる。そういえば、アルファはドリンクホルダーの用意も遅かったな。
ステアリングホイールはドライバーから比較的遠い位置にあり、運転姿勢は腕をピンと伸ばした例の「イタリアンスタイル」になる……と思ったら、なんのことはない、チルト調整のほかにテレスコピック調整も備わっており、適切な姿勢を取ることができた。ちなみに、今回試乗した「コンペティツィオーネ」グレードにはレザーとファブリックのコンビネーションシートが装着されており、別途試したベースグレードの「スプリント」の100%ファブリックシートより密着感の高い掛け心地であった。
スプリントか、コンペティツィオーネか
アルファ・ロメオの魅力として、エンジンを挙げる人も多いと思う。高回転でクォーンとツヤやかに歌うV6ユニット、あるいはドライバーをその気にさせる硬質でスポーティーな音色を伴う直4ツインスパークは確かに魅力的だ……いや「だった」と過去形にすべきである。そのいずれもが、今やアルファの表舞台から退きつつあるからだ。
ジュリエッタには、スプリント、コンペティツィオーネ、そして高性能版の「クアドリフォリオ ヴェルデ(QV)」という3つのグレードが設定され、前二者には170psの1.4リッター直4マルチエアターボ(つまりミトQVと同じもの)が、後者には235psの1.7リッター直4ターボが搭載される。
今回試乗した170ps版の1.4リッターマルチエアユニットは、1400kgのボディーを引っ張るのに十分な力を備えていた。ただし150kgの重量差がズシッと効いているのか、ミトQVほどはつらつとした息吹は感じられなかった。エンジンサウンドより、むしろ逆に巡航時の静かさが心地よい、まじめな実用エンジンという印象を強くした。
ジュリエッタにしてもミトにしてもそうなのだが、このエンジンは最近のターボユニットにしては比較的はっきりとしたトルクの山を持っている。特に、車両統合制御の「D.N.A.」システムをNORMALモードにしておくとそれが目立つ。相対的に2000rpm以下のトルクが細く、2500rpmあたりでターボトルクがグイッと盛り上がってくるのがわかるのだ。そんな特性であるため、低回転域を多用する街中では、ジュリエッタはちょっとだけモッサリとした感じが伴う。
もっとも、そのモッサリが気になるのなら、「D.N.A.」スイッチをDYNAMICモードにすればいい。最大トルクが約9%増しの25.5kgm/2500rpmに変更され、スロットルペダルの“付き”が見違えるように良くなるからだ。このDYNAMICモード、丁寧なスロットルワークを心がければ、実は燃費にも良いはずである。筆者は過去にミトで実証済みである。
足まわりはドイツ車などに比べればタッチが軽快で、ロールを拒まずしなやかに姿勢を深め、コーナーでじわーっと粘るという、これぞアルファ! と言いたくなるものだった。その傾向はエントリーグレードのスプリントだとさらに強まる。しかし、高速道路で大入力に遭遇すると、ちょっとだらしないところがあり、ピタっとフラットな姿勢を終始維持したのはコンペティツィオーネの方だった。目地段差のハーシュネスもきつくなく、ハンドリングと乗り心地のバランスの良さを考えると、コンペティツィオーネの方がアルファ・ロメオっぽいかな、という印象だ。
最後に、アルファ・ロメオっぽさとは何かと、もう一度考える。結局のところ、カタチやレイアウトや色ではなく、前へ前へと進みたがる心意気こそが、その神髄なのではないか。つまりアルファ・ロメオとは、走りに対する貪欲な姿勢と見つけたり!
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
