一難去って、また一難

ベルトーネのこれまでの経過を振り返ってみよう。
ボディー製造部門「カロッツェリア・ベルトーネ」は戦後「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」および「アルファ・ロメオ・ジュリア スプリント」の受託生産でスタートし、以後長年にわたって同社の屋台骨を支えてきた。1970年には従業員が1500人規模にまで成長した。
やがて2000年代に入ると、クライアントである自動車メーカーが、いわゆるニッチカーの外部委託生産を次々と取りやめたことから業績は低迷。さらに、創業2代目であるヌッチオ・ベルトーネ(1914-1997)の遺族間の確執も表面化した。

カロッツェリア・ベルトーネは、窮余の策としてキャンピングカー製作まで検討したものの、2008年倒産に追い込まれる。しかし翌2009年、故ヌッチオの夫人であるリッリが、デザイン&エンジニアリング部門を継承する権利を裁判で獲得。同じく取り戻した商標とともに「スティーレ・ベルトーネ」として再発足させた。
2012年には従業員は約200名に達し、その6月末には創立100周年式典と記念展を、政界関係者も臨席のうえ地元トリノの自動車博物館でにぎにぎしく催した。

2013年3月には、営業速度360km/hを想定するイタリアの新型特急「フレッチャロッサ1000」のデザインに関わり、同年6月にはヘリコプター製作で知られるアグスタ・ウェストランドと電動ローターによる垂直離着陸機のプロトタイプを公開するなどして、話題をよんだ。
だが、そうした華々しいプロジェクトとは裏腹に、11月になると経営状態は最悪の状態にあることが明らかになった。従業員の給与やサプライヤーへの代金支払いは数カ月にわたって滞っていたのだ。
新生ベルトーネを支えるマーケットを開拓すべく、2010年春に北京に開設された「ベルトーネ・チャイナ」は、年間2000万ユーロ(約28億2000万円)の収益を上げるまでに成長していたが、それを補填(ほてん)するに至らなかった。
スティーレ・ベルトーネは、イタリアでカッサ・インテグラツィオーネと呼ばれる一時帰休給付金を当局に申請、同時に支援企業探しに本格的に乗り出した。

筆者の記憶を加えれば、旧ベルトーネ時代から勤務していたスタッフから退職した旨の連絡があったのは、12月初旬のことだった。
2014年1月に入ると、スティーレ・ベルトーネの労働組合関係者の話として、社名は明らかにされなかったものの、トルコ企業と支援に関して交渉中であるという情報が流された。そして2014年3月に開催されたジュネーブモーターショーには、スタンドを設けるに至らなかった。これはカロッツェリア部門倒産の影響を受けた2008年、2009年に次ぐ欠場だ。

2006年「スアーニャ」。前年に発表された「フィアット・グランデプント」をベースに、若者にも手が届きやすいオープンを提案した。
2006年「スアーニャ」。前年に発表された「フィアット・グランデプント」をベースに、若者にも手が届きやすいオープンを提案した。 拡大
2007年「フィアット・バルケッタ」。「フィアット・パンダ100HP」を基に、往年のイタリア製小型オープンをイメージした。
2007年「フィアット・バルケッタ」。「フィアット・パンダ100HP」を基に、往年のイタリア製小型オープンをイメージした。 拡大
2009年「マンティデ」。ピニンファリーナから移籍したジェイソン・カストリオータが手がけた唯一のコンセプトカー。しかも発表が恒例のジュネーブショーではなく上海ショーだったことから、ベルトーネ作品のなかでは、民主党政権時代の自民党総裁(?)のような特殊なポジショニングが漂う。
2009年「マンティデ」。ピニンファリーナから移籍したジェイソン・カストリオータが手がけた唯一のコンセプトカー。しかも発表が恒例のジュネーブショーではなく上海ショーだったことから、ベルトーネ作品のなかでは、民主党政権時代の自民党総裁(?)のような特殊なポジショニングが漂う。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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