おばちゃんたちは、消えていた

帰りの地下鉄では、別の場所で買ったのであろう、同じく透明ビニール袋に入ったジェンビンを堂々と提げて乗ってくる客を何度も目撃した。お持ち帰りも日常化していることを知ったボクは、翌朝、例のおばちゃんたちのジェンビンをランチ用に手に入れようと、国際展示場前の国展駅で降りた。しかし見ると、一般公開日の来場客を整理するための鉄柵が無数に並べられ、おばちゃんたちの姿は消えていた。ああ、幻の味となってしまった。

プレスデイの来場者は、あのおばちゃんたちの安くてうまい煎餅のかわりに、ショー会場内で販売されている高くて味もそこそこの弁当を食べなくてはいけないのか。思えばかつて、東京・池袋にサンシャイン60がオープンしたとき、池袋駅からビルまでの道で働いていた靴磨きのおじさんたちが「景観にそぐわない」という理由で退去させられた。

ジェンビン屋台は三輪自転車だ。化石燃料を使わぬ元祖エコカーである。大気環境改善に取り組む今日の北京にもっともふさわしいではないか。そう考えると、さらに気持ちは複雑になる。都市は、ときとして近代化の名のもと、のどかな日常生活を奪ってゆく。北京も、そんな大きく、かつ感傷的なうねりの中にいる。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

北京の市街地には、さまざまな食べ物屋台がでていて、朝晩にぎわっている。
北京の市街地には、さまざまな食べ物屋台がでていて、朝晩にぎわっている。 拡大
市街・王府井天主堂前にて。木陰でおしゃべりする人、昼寝する人。屋台とともに、いつまでも残っていてほしい、のどかな北京の風景である。
市街・王府井天主堂前にて。木陰でおしゃべりする人、昼寝する人。屋台とともに、いつまでも残っていてほしい、のどかな北京の風景である。
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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