日産スカイライン200GT-t Type SP(FR/7AT)
乗ればやっぱり「スカイライン」 2014.07.28 試乗記 久々の4気筒ターボはまさかのドイツ製。メルセデスのエンジンを搭載した「200GT-t」に「スカイライン」の“らしさ”はあるか? その走りを試した。エンジンはドイツ製
V6・3.5リッターハイブリッドのみだった新型スカイラインにメルセデス製2リッター4気筒モデルが加わった。スカイラインにベンツのエンジン!? 13代を重ねる“スカイライン史上”においては驚天動地のニュースかもしれないが、「インフィニティQ50」の右ハンドル日本仕様という実態からすれば、予定の行動だ。2010年にルノー日産アライアンスとダイムラーAGとのあいだで結ばれた協業契約の結実である。ヨーロッパ向けのインフィニティQ50には、ひと足先にメルセデスの2.2リッターディーゼルが搭載されている。
「GT-t」というどこかなつかしいモデル名の“メルセデス・スカイライン”に載るのは、燃焼方式のわずかな違いを除くと「E250」と同じ直噴2リッター4気筒ターボである。211psのパワーも35.7kgmのトルクも同値。トルクの発生回転数だけが日本仕様のE250とは微妙に異なる。以前からメルセデスが仕向け地によって使い分けている仕様と聞いた。このエンジンのQ50は北米と中国をメインターゲットにする。
メルセデスの7段ATと組み合わされたエンジンは、パレットに載せられてコンテナで栃木工場に運び込まれる。新型スカイラインのカタログにはメルセデスのメの字もないが、エンジンとクルマとのマッチングにあたっては、週に一度の電話会議から、ヨーロッパでの数度にわたる実走テストまで、日産とメルセデスとのあいだで共同開発に近いやりとりが行われたという。
純ガソリン車ならではのフィーリング
箱根で行われた試乗会には、比較のためにハイブリッドも用意されていた。あいにく山の上は濃い霧に閉ざされて、ワインディングロードを楽しむような走り方はできなかったが、ハイブリッドと一緒に走らせてみると、200GT-tはスタンダードでナチュラルなスカイラインである。
ハイブリッドより120kg軽いとはいえ、車重は1680kgある。パワーは211psだから、システム出力364psを誇るハイブリッドのような迫力は感じられない。しかしそのかわり、純ガソリンエンジン車らしい自然な軽快感が200GT-tの持ち味である。
思い起こすと、メルセデスE250に乗っていて、エンジンのことをあまり考えた記憶がない。そもそもメルセデスのエンジンというのは、昔から決して過度に出しゃばらないものなのだが、その伝統にのっとるこの直噴2リッター4気筒ターボも、スカイラインのシャシーの上に載ると、そこそこスポーティーに思えるのが不思議である。
100km/h時のエンジン回転数は、7速トップで1800rpm。そこから追い越しをかける場合でも、右足ひと踏みではなく、自然とパドルでシフトダウンしてみたくなる。ドライブモードをスタンダードにセットしていても、アシは硬めだ。スカイラインはやっぱりスポーツセダンなのだと再認識させられた。
ひとつ気になったのは、アイドリングストップからエンジンが再始動する際の“揺れ“がやや大きいこと。アイドリング時のコロコロいうちょっとディーゼルっぽい車外騒音も国産車では聴かない音である。日産のエンジニアに確認したところ、出どころは、日本製エンジンよりはるかに高圧な燃料ポンプらしい。
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ハンドリングは至って自然
ハイブリッドと乗り比べてみて、200GT-tに好印象を覚えたのはステアリングだ。世界初のステアリング・バイ・ワイヤを備えるハイブリッドに対して、GT-tは電動油圧ポンプのコンベンショナルなパワーステアリングを標準装備する。新型「エルグランド」初出のステアリングだが、操舵(そうだ)感はハイブリッドの“ダイレクト・アダプティブ・ステアリング (DAS)”より素直である。いかにスポーツセダンとはいえ、DASは微舵(びだ)応答が異様にクイックで、また、重さもやや不自然だ、ということがGT-tのハンドルを握るとよくわかる。
もうひとつ、GT-tの持つ現世御利益といえば、トランクの収容能力である。駆動用バッテリーに奥行きをそがれるハイブリッドよりも一見して広い。ゴルフバッグ4個の積み方を図説したシールもGT-tのトランク内には貼られていない。難なく入るからだろう。
一方、燃費はハイブリッドが面目を保った。といっても、今回、正式な燃費測定はしていないが、2時間半の試乗時間内で車載コンピューターが示した数値は、GT-t が8.2km/リッター、ハイブリッドが11.3km/リッターだった。ただし、「世界最速のハイブリッド」を有言実行化したパワーハイブリッドも、欧州直輸入エンジンのGT-tも、ともにハイオク指定である。
日産流か? メルセデス流か?
メルセデスのアクセルペダルには踏み始めに不感帯がある。一度でもメルセデスを運転したことがある人なら、うなずいてもらえると思う。昔はそのデッドゾーンがもっとひどかった。「アジリティー(敏しょう性)」なんて言葉を新型車のうたい文句にするようになって、その不感帯も小さくなってきたが、今でもある。
メルセデスエンジンのインフィニティQ50を開発するにあたって、まさにその点が議論になったそうだ。メルセデスのエンジニアは不感帯を設けたほうがジェントルなクルマになると強く主張したが、日産は受け入れなかった。その結果、エンジンフィールはメルセデスでも、アクセルのペダルフィールは日産である。
スカイラインにメルセデスエンジン搭載と聞いた時、果たしてそれはスカイラインなのか、メルセデスなのかと、興味を覚えた。実際、乗ってみると、200GT-tはやはりスカイラインである。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というのは、映画『ブレードランナー』の原作となった小説のタイトルだが、メルセデス・スカイラインが見る夢はやっぱりスカイラインだと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
日産スカイライン200GT-t Type SP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1820×1450mm
ホイールベース:2850mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1250-3500rpm
タイヤ:(前)245/40RF19 94W/(後)245/40RF19 94W(ダンロップSPスポーツマックス050 DSST CTT)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:456万8400円/テスト車=476万7336円
オプション装備:ボディーカラー<HAGANEブルー>(4万3200円)※以下、販売店装着オプション プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/アンビエントLEDライトシステム<おもてなし間接照明>(9万9576円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2506km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。