悪党はポールのマスタングに追いつけない

ポール・ウォーカーも鍛えてはいるものの、パルクールの技ではさすがに“本職”のダヴィッド・ベルにはかなわない。彼が実力を発揮するのは、もちろんカーチェイスシーンだ。彼はトレメインの愛車「フォード・マスタング」を奪って逃走する。悪党たちは後を追うが、なぜか古いクルマばかり。1970年代の「プリムス・フューリー」や1980年代の「ポンティアック・ファイヤーバード」「シェヴィ・ヴァン」など、どう考えたって追いつけそうにないクルマばかりである。

オリジナルの『アルティメット』では、マスタングの代わりに「スバル・インプレッサ」が使われていた。ベッソン監督お得意のバカッ速いプジョーではない。『ワイルド・スピード』の影響で、チューンされた日本のコンパクトスポーツが脚光を浴びていたから、あやかったのだろうか。

舞台がデトロイトだったことで、映画は何やらレクイエムのような香りを帯びている。
「政府は、ここを守らなかった。今も同じだ」
自動車の聖地をダメにしてしまった連中への断罪の言葉が語られる。怒りと悔恨が、同時に響いている。ダミアンは、栄光のデトロイトを取り戻すために戦ったのだ。

この作品では、ポールのドライブテクニックよりも肉体的な強さが輝きを見せていた。まだ40歳だったのである。マッチョではないが、これだけのアクションをこなす身体能力を持つ。アクション俳優というと筋肉モリモリの暑苦しい男が多いが、彼はどこか優しげで、クールな落ち着きを見せていた。これから年を重ねていけば、きっと別な魅力を開花させてくれたはずである。本当に、惜しい。

映画の最後には、ポールへのメッセージが流れる。
《In Loving Memory of PAUL WALKER》
残念だけれど、日本が大好きで「GT-R」マニアだった彼はもういない。でも、来年には『ワイルド・スピード』で最後の勇姿を見ることができるのだ。ラストランを楽しみに待ちたい。

(文=鈴木真人)

「フォード・マスタング」
1964年に発売されると大ヒットし、ポニーカーのジャンルを確立した。『ブリット』でのカーチェイスは、映画史に残る名場面だ。今年50周年を迎え、記念イベントが行われるとともに7代目となる新型が発表された。
「フォード・マスタング」
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第82回:ポール・ウォーカーが残したデトロイトへの鎮魂歌『フルスロットル』の画像 拡大

第82回:ポール・ウォーカーが残したデトロイトへの鎮魂歌『フルスロットル』の画像 拡大
『フルスロットル』
2014年9月6日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
『フルスロットル』
    2014年9月6日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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