ディーラー待望のモデル
2014年9月最終のウイークエンドのこと、わが街のフィアット系ディーラーを通りかかると、ちょうどレネゲードの発表展示会をやっているところだった。多くのイタリア人が最後の海を楽しみに出掛けてしまい、店内はさぞ閑散としているかと思いきや、意外にもお客さんが吸い込まれてゆく。中に入ると3つある商談スペースも、すべて埋まっている。知り合いのセールスマン、アンドレア氏をつかまえると、「うまくいくことを願おう!」と、笑顔とともに叫んだ。
参考までに、2014年9月の欧州におけるジープブランドの販売台数は、前年同月比1354台増の3592台(JATO調べ)だった。
フィアット・クライスラーの地区担当者も、約60km離れたフィレンツェからやって来ていた。アンドレア氏の同僚マウリツィオ氏にもう少し詳しい話を聞くと「今、イタリアの自動車セールスで活況なのは、(脇に展示してあるグランドチェロキーを差しながら)高級車種か、廉価車種かのどちらかだよ」と教えてくれた。そうしたなかレネゲードのようなモデルは、まさにディーラー待望のモデルといえよう。
実際のクルマを見てみる。フィニッシュの質はかなり高い。ちなみに、GKNドライブライン社製のAWDドライブシステムをはじめとする、レネゲードにパーツを供給しているサプライヤーの構成をみると、今や純粋なイタリア企業は少ない。そうした意味でも、「イタリア製」というバイアスをかけた目で見るのは正しくない。
ディテールもなかなか凝っている。テールランプのレンズのなかには、ジープの伝統的フロントフェイスを模したロゴが刻まれているではないか。メーターパネルの、泥をかぶったようなグラフィックも、なかなか斬新である。さらに、ナビゲーションのディスプレイの上には、大胆にも「SINCE 1941」と、ジープの事実上の誕生年が、まるで老舗菓子店の看板のごとく記されている。
こうした演出、ボクが知る長年ジープオーナーのおじさんのような、フィアット傘下に入ったことにでさえ複雑な思いを寄せる超硬派ファンに、どう映るかは知らない。だが、本場米国人だけでは気づかない、世界のユーザー候補者の心理をくすぐる巧妙な仕掛けであることは確かだ。早くもこんなところに大西洋をまたいだチームワークのシナジー効果が現れている。
今日SUVおよびクロスオーバーはヨーロッパで人気の一ジャンルだ。その理由をマウリツィオ氏に聞くと、「いやー、なんといっても流行だからな」という、つかみどころのない答えが返ってきたが、それは現場のプロも認めているということだ。中でも日産車は特に人気がある。2014年1月から9月の欧州乗用車販売全体で、「キャシュカイ」は8位にランクインしている。「ジューク」も引き続き人気だ。
そこに投入されるレネゲードは、日本車にはないヘリティッジを武器に奮闘すると思われる。実際、レネゲードを買う人たちの下取り車は? と聞くとマウリツィオ氏は、「フィアット・ムルティプラ」などフィアット系モデルとともに「トヨタRAV4」、日産キャッシュカイなどを挙げた。
イタリア製ジープによる、SUV市場への戦いの火蓋は切られたばかりだ。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、FCA)
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大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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