ヨーロッパにはない現象

もちろん、ちょっといい光景も目にした。日曜日、世田谷に足を向けたときである。街路を歩いていると、メルセデス・ベンツの「W201」がやってきた。当時を知る方には釈迦(しゃか)に説法だが、日本では「190E」として1985年に発売され「5ナンバーで乗れるメルセデス」として大好評を博したモデルである。当時ボクは高校生の分際で、ヤナセが都内のホテルで催した発表会に同級生と出掛けたのを懐かしく思い出した。

後日、今度は同じ世田谷の二子玉川でのことだ。高島屋前で信号待ちをしていると、BMWの「3シリーズ」が横断歩道の前で止まった。現行モデルではない。1980年代の「E30型」である。そう、これもトレンディー(死語ですね)なクルマとして一世を風靡(ふうび)したモデルだ。
今のクルマと比べると、外から室内がよく見える。のぞいてみるとステアリングを握っていたのは、イケイケボディコンお姉さんの成れの果て……ではなく、上品な若いお嬢さんだった。その良好なコンディションからして、父親が大切に乗っていたクルマのお下がりであると読んだ。 

ヨーロッパではW201もE30も、もはや目にすることが極めて少なくなった。そうしたクルマのユーザーは最低でも10万kmは使い、20万kmに達することも珍しくない。そのあと、2、3人のオーナーの手に渡ると、卓越した耐久性をもってしても、もはや廃車にするか、新興国に輸出されるしかないのだ。

それからすると、日本のクルマは走行距離が少ない。そのためきちんと整備してさえいれば、かなり路上で生き延びるのであろう。そのうえクルマがきれいだ。欧州ではなかなかみられない、わが国ならではの現象といえる。

ボクが目撃したE30女子に話を戻せば、年の頃からして「六本木のカローラ」と呼ばれていた華やかな新車時代を知らないに違いない。そのうえ、昨今欧州にみられるヤングタイマー(デビューから20年前後のクルマ)オーナーのような気負いもない。

アニメ「ガールズ&パンツァー」のファンが戦車道女子にそそられるように、天然ヤングタイマー女子に萌(も)えたボクであった。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

今やスローガン的のぼりであおらないと、新婚旅行市場も盛り上がらないとは……。
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クルマは東ドイツ化。公衆電話の故障はイタリア化。
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ヨーロッパ各国では見る頻度が減ってきた「メルセデス・ベンツEクラス」(S210)と、勝どき駅付近で出会った。
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こちらも「Eクラス」。さらに1モデル前の「S124」。埼玉県国道407号線にて。オーナーの皆さん、末長く乗ってあげてください。
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11月、「トヨタ・ミライ」記者発表の帰り、銀座でみそカツ丼を食する筆者近影。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。20年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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