とっても正直なひと

沼:さっき話に出た、日産の座間記念庫に行った取材というのは、かつて『NAVI』に連載されていた『徳大寺有恒といくエンスー ヒストリックカー ツアー』。巨匠、イラストレーターの綿谷 寛さん、担当編集だった現フリーランスの塩見 智さん、それに松本さんと私の5人で、マニアックなショップやミュージアムを巡りました。宣伝させてもらうと、単行本にもなってます。

松:あの取材は楽しかったですね。巨匠も後々まで話題にしてましたよ。
沼:道中で巨匠から昔の話を聞くのが至福の時間だったね。すごい話をいっぱい聞いたけど、中でも強く印象に残っているのが60年代の洋行話。巨匠は当時、ナマでルマンやインディ500を見てるんだよね。フェラーリとフォードの激突とか、トップを快走していたタービンカーがゴールまであとわずかというところでリタイアしたシーンとかを。

松:あの時代に現地で見た日本人なんて、ほとんどいなかったわけでしょ?
沼:うん。見ただけならほかにもいるかもしれないけど、巨匠の場合はケースが特殊。なにせ式場壮吉さん(※注1)とシェルビー・アメリカン(※注2)を訪ねていったら、ちょうどルマン出走の準備をしていたボスのキャロル・シェルビーから「キミたちもルマンに来るか? 来るんならパスを出してやるぞ」と言われて、行っちゃったというんだから。

松:さすがシェルビーのゲストパスだけあって、メインスタンドの、フォードの総帥だったヘンリー・フォード2世のすぐ近くのいい席から見たっていう話でね。
沼:ヘンリーの2番目だか3番目だかの奥方がイタリア系で、フォードそっちのけでフェラーリを応援していたのでヘンリーが渋い顔をしていたとか、ヘンリーの娘がすごくきれいだったとか、ライブで見ただけに話がリアル。こっちは聞くだけで興奮したよ。

松:しかもルマン観戦の後にキャロル・シェルビーの計らいで、パリ郊外で「フォードGT40」のロードバージョンに試乗させてもらったという、すごいオマケ付き。
沼:で、その感想を聞くと「う~ん、やかましかったことしか覚えてない」だって。なんで肝心なことを忘れてるんだよ! って思わずツッコミたくなった(笑)。
松:でも、そのちょっと抜けてるとこが巨匠らしいといえば、らしいですよね。

沼:そうだな。『webCG』で「ポルシェ・ボクスター」のインプレッションをやったときに、「これまでポルシェを所有したことはない」って言うからそう書いたら、「ウソつけ。930の『911カブリオレ』に乗ってたじゃないか」というツッコミが、すぐに複数の身内(執筆陣)から入りましたとさ。
松:決してウソをついたわけじゃないんですよ。忘れてるだけで。巨匠はカッコはつけるけど、ウソは絶対につかないから。
沼:褒めてるんだか、けなしてるんだか(笑)。

注1)式場壮吉
1964年の第2回日本グランプリで、「ポルシェ904カレラGTS」を駆って優勝したことで知られる元レーシングドライバー。徳大寺さんとは大学時代からの友人。
注2)シェルビー・アメリカン
1959年ルマンの優勝ドライバーであるキャロル・シェルビーが率いたスポーツカー・メーカー。英国産の「ACエース」にフォードV8エンジンを載せた「ACコブラ」で有名だが、ルマンをはじめとするスポーツカーレースに参戦した「フォードGT」のチューニングとワークスチームの運営も担当していた。

2010年1月、『徳大寺有恒といくエンスー ヒストリックカー ツアー』最終回の取材中のワンシーン。“巨匠”(写真左下)と、取材をともにした塩見、沼田、松本、綿谷の4氏。
2010年1月、『徳大寺有恒といくエンスー ヒストリックカー ツアー』最終回の取材中のワンシーン。“巨匠”(写真左下)と、取材をともにした塩見、沼田、松本、綿谷の4氏。
    拡大
『NAVI』の人気連載を単行本化した『徳大寺有恒といくエンスー ヒストリック ツアー』(二玄社刊)。定価1512円。
『NAVI』の人気連載を単行本化した『徳大寺有恒といくエンスー ヒストリック ツアー』(二玄社刊)。定価1512円。
    拡大
「フォードGTマークII」。1966年のルマン24時間耐久レースで1~3位を独占した。
「フォードGTマークII」。1966年のルマン24時間耐久レースで1~3位を独占した。
    拡大
写真は2010年冬、2代目「ポルシェ・ボクスター」の取材風景。(写真=河野敦樹)
写真は2010年冬、2代目「ポルシェ・ボクスター」の取材風景。(写真=河野敦樹)
    拡大
寒さ深まる箱根で、オープンの「ボクスター」に試乗してひとこと。「このクルマは、素材のよさがそのまま味に出てるね」。(写真=河野敦樹)
寒さ深まる箱根で、オープンの「ボクスター」に試乗してひとこと。「このクルマは、素材のよさがそのまま味に出てるね」。(写真=河野敦樹)
    拡大
あなたにおすすめの記事
新着記事