ペテン師になりきったクリストフ・ヴァルツ

その後の新垣氏は一転して人気者となった。テレビのバラエティー番組に出演し、雑誌のファッション記事にモデルとして登場した。才能が枯渇した小説家がアシスタントに代作させるというストーリーのドラマ『ゴーストライター』では、テレビを見ながら当事者として感想を述べるという離れ業を演じている。

喜ばしい限りだが、彼に注目が集まったのは佐村河内氏のおかげである。現代音楽の専門家である新垣氏が普通に仕事をしていたら、こんな有名人になることはなかっただろう。映画で描かれる事件も、構造は同じだ。マーガレットの作品を世に出したのは、口のうまいペテン師だったのである。

美術大学で学んだ経験のあるマーガレットだったが、絵で生計を立てるのは簡単ではない。アーティストの集まるサンフランシスコのノースビーチで絵を展示してもさっぱり売れず、似顔絵を描いてわずかな謝礼をもらうのがせいぜいだ。失意の彼女を慰めたのが、隣でパリの街角を描いた絵を売っていたウォルターである。「君には才能がある」と言われて舞い上がったマーガレットは恋に落ち、ふたりは結婚する。

内気で従順な女性であるマーガレットを、エイミー・アダムスが見事に造形している。田舎臭くてちょっとおばかという雰囲気で、いかにもダマされやすそうだ。そして、いつも素晴らしいクリストフ・ヴァルツ! 呼吸をするようにうそをつく、生まれながらのペテン師になりきっている。『イングロリアス・バスターズ』のナチス将校、『おとなのけんか』の傲慢(ごうまん)な弁護士で見せたしゃべり芸に、さらに磨きがかかった。

(C) Big Eyes SPV, LLC.  All Rights Reserved.
(C) Big Eyes SPV, LLC.  All Rights Reserved. 拡大

第91回:つらい現実からクルマで逃げだすことはできない『ビッグ・アイズ』の画像 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

あなたにおすすめの記事
新着記事