ナイトクラブに絵を展示

ウォルターは口八丁で自分の絵を画廊に売り込もうとするが、時代遅れの風景画はまったく相手にされない。なんとか絵を飾ってもらえたのは、酔客で賑(にぎ)わうナイトクラブだった。しかし、酒と音楽を楽しみに来ている連中が絵に注意を払うわけもない。状況が変わったのは、意外なことがきっかけだった。ウォルターがナイトクラブのオーナーとつかみ合いのケンカになり、居合わせていた新聞記者が写真を撮って記事にすると、その絵を見ようと人々が詰めかけたのだ。

ただし、注目されたのは風景画ではなく、マーガレットの描いた目の大きな少女の絵だけだった。説明を求められると、ウォルターはそれを自分が描いたかのように熱弁をふるいはじめる。口から先に生まれた男にとっては、それが自然なのだ。マーガレットは抗議するが、「君が絵を描き、僕がそれを売る。ふたりは一心同体だ」と言われて反論することができない。確かに、マーガレットだけでは成功はおぼつかなかった。

ウォルターはアート界の風雲児としてメディアに取り上げられ、派手に遊びまわるようになる。その陰で、マーガレットはアトリエにこもってひたすら作品を量産し続けた。わずかな報酬で作曲を請け負った新垣氏と、それを自分の作品だと偽って『NHKスペシャル』などのテレビ番組に出演して脚光を浴びた佐村河内氏の関係にそっくりである。

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第91回:つらい現実からクルマで逃げだすことはできない『ビッグ・アイズ』の画像 拡大

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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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